東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出への対抗措置として中国が日本産水産物の輸入を全面停止したことを受け、日本政府が外交攻勢を強めている。放出を支持する国際原子力機関(IAEA)や関係国と連携し、中国の「孤立化」を浮き彫りにしたい考えだ。国内水産業への支援も強化する。

 放出開始から一夜明けた25日、林外相、西村経済産業相は、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長とそれぞれテレビ会談した。林氏は「IAEAが福島にとどまるという強いメッセージに感謝する。日本政府としても安全性の確保に努める」と強調した。

IAEAは24日、原発に駐在する専門家が、最初に放出される処理水のトリチウム(三重水素)濃度を測定し、運用基準(1リットル当たり1500ベクレル未満)を大きく下回ることを確認した。グロッシ氏は林氏に対し、「想定よりはるかに低いレベルだ」と指摘し、「IAEAは国際社会の目としての役割を果たし、最後の一滴が放出されるまで関与していく」と応じた。林氏はこの日、メキシコのアリシア・バルセナ外相とも電話会談し、バルセナ氏から「日本が国際基準を順守することを信頼している」と放出への支持を取り付けた。

 中国は、科学的根拠を示さないまま、24日に輸入停止措置を決めた。日本政府は同日、駐日中国大使に電話で抗議し、即時撤廃を要求した。外務省幹部は「中国は、振り上げた拳の下ろし方が分からなくなっているのだろう」と指摘する。

 政府内には、世界貿易機関(WTO)への提訴を求める声もあるが、まずは9月に開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議で日中首脳会談を行うなどし、撤廃を働きかけたい考えだ。岸田首相は国際会議の場で、日本産水産物の販路拡大に向けたトップセールスも行う。

 措置が続けば、国内水産業への打撃は避けられない。松野官房長官は25日の記者会見で、風評被害などに備えて準備した300億円の基金も活用して、中国以外の販路開拓を支援する考えを示した。「新たな輸出先のニーズに応じた加工体制の強化についても、臨機応変に対策を講じていく」と述べ、基金とは別に、設備投資への支援も検討する考えを明らかにした。

 中国は、日本から輸入した殻付きホタテの殻をむいて他国に輸出してきた。日本から直接輸出するため、国内で殻をむく加工施設の建設を後押しすることなどが念頭にある。