[東京 31日 ロイター] – セブン&アイ・ホールディングス傘下の百貨店、そごう・西武の労働組合は31日、旗艦店の西武池袋本店でストライキに突入した。ストが少ない日本でも賃上げを要求するのが一般的で、買収後の雇用維持や事業継続を求めるのは異例。M&A(合併・買収)はリストラを前提にすることが多く、今回の動きを機に従業員の理解も買収側が留意すべき点になるとの指摘が専門家からは出ている。
<外資の買収にも影響か>
日本の主要百貨店でストが行われるのは61年ぶり。西武池袋本店では、約900人の組合員が業務を離れた。不十分な人員体制での運営で顧客に迷惑をかけることを避けるため、全館臨時休業することを決めた。
「こういう声がどれくらい届くのか分からないけど、行動することは大事だと思う」と、31日午前に池袋本店の近くを通りかかった斉藤里美さん(61)はロイターの取材に語った。休館になることを知っていた斉藤さんは、前日に必要な買い物を済ませたという。
61年前に阪神百貨店で行われたストは、日本で過去によく見られたように賃上げを巡るものだった。それが今回はM&Aに絡むストで、「かなり異例」(労働組合関係者)だ。
立教大学の首藤若菜教授は「企業売却や分割などの企業再編で、雇用喪失や労働条件の低下が起きることは珍しくないが、これまで多くの労働組合はそういったことを飲んできた面がある」と指摘。そごう・西武労組のストに言及した上で、「従業員の意向を十分にくみ取らずに決定することのリスクを示したことになり、社会的にも意義がある」と語る。
こうした労組の動きは、買収後に大規模なリストラを実施するイメージが強い外資系企業にも影響を及ぼすかもしれない。
セブン&アイHDは米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループへのそごう・西武売却を決め、ここまで話を進めてきた。同労組の寺岡泰博中央執行委員長は28日、スト通知を発表した際の記者会見で「この株式譲渡で雇用維持が本当にできるのか不安が拭えない」と語った。
日本企業に関する国際間取引を手掛ける弁護士、スティーブン・ギブンズ氏は「外国人でも力ずくで日本企業を買収することはできるが、実際に日本企業で経営、働いている人たちが結果に満足していなければ、何の役にも立たない」と話す。「外資の買収希望者が心に留めておくべき注意事項のひとつだ」と語る。
<売却回避しても>
日本では、事前に労使間で話し合いが行われることが多く、大規模なストは回避されてきた。厚生労働省の統計によると、ストの実施件数は1991年に3桁台へ、2009年に2桁台へと急激に減少し、22年は65件にとどまっている。
それだけに今回のストは大きな注目を集めているが、売却の流れを変えるまでには至っていない。セブン&アイHDは31日に臨時取締役会を開き、9月1日付でフォートレスに売却することを決める。
そごう・西武は最終赤字が4期続いている。売却を先送りしても、業績が改善して営業を続けることができ、雇用が維持される保証はない。ある流通関係者は「百貨店という曲がり角を迎えている業態。雇用維持など訴えたいことは分かるが、落としどころが見えないストにも映る」と話す。
そごう・西武労組がスト通知を発表した記者会見に高島屋など同業百貨店の労組が支援を表明したのも、不透明な業界の先行きに同じ悩みを抱えているからと言える。
千葉大学の皆川宏之教授は「事業再編は世界的に行われており、雇用維持や労働条件の向上のためにスト権利を行使して交渉する局面は今後もあるのだろう」とみる。「(そごう・西武の)組合としてはやれることはやって、要求を伝えて反映させることには意味がある」と語る。
*記者名を修正して再送します
(清水律子、金子かおり、Rocky Swift、勝村麻利子 編集:久保信博)