[東京 31日 ロイター] – 2024年度予算の概算要求額が再び過去最大を更新する見通しとなった。防衛などの政策経費だけでなく、基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の対象としていない国債費も増える。経済成長と財政健全化の両立をめざす岸田文雄政権は、利払い負担も含む「財政収支」にどう向き合うかが問われそうだ。
<歳出膨張、2年ぶり最大>
複数の政府関係者が明らかにした。過去最大は22年度要求の111兆6559億円だった。23年度はこれに次ぐ要求額(110兆0484億円)で、24年度要求で再び過去最大を更新する。週明けにも財務省が発表する。
一般会計総額のうち、社会保障費を所管する厚生労働省からの要求が約3割を占める。厚労省によると、高齢化も踏まえて一般会計分で33兆7275億円を要求した。過去2番目の規模となる。
防衛省は過去最大となる7兆7385億円の防衛費を計上した。20年12月に策定した防衛力整備計画に基づき、次世代の通信基盤の研究費などを盛り込んだ。
政府は、今回も賃上げや子育て支援などの看板政策に加え、物価高対策で額を示さない事項要求を容認している。事項要求は医療、介護などの経費にも及んでおり、年末に編成する予算額が要求額以上に膨らむ可能性もある。
「新型コロナ対応は一巡したが、物価高に伴う歳出圧力が強い」との声が政府内にはある。
<YCC修正で利払い増も>
24年度の予算要求では、利払いや元本返済に充てる国債費が膨らんだのも特徴だ。要求段階で財務省は、過去最大に迫る国債費(28兆1424億円)を想定している。
予算額のうち、国債費は21年度に増加に転じたが、伸びは前年度対比で2、3%前後にとどまってきた。24年度は、新型コロナ対策に伴う発行残高増に加え、日銀による長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)見直しで長期金利が上昇基調にある現状を反映し、前年度比11%の伸びとなると想定する。要求通りなら伸び率としては例年の4倍近い。
利払い費の積算金利は1.5%と、前年度当初予算から0.4%引き上げた。政府は、過去に金利が1%超も急上昇した例を参考に、危機時の備えとして実勢利回りに1%程度を上乗せした予算編成を続けてきた。
積算金利は13年度の1.8%から段階的に引き下げられ、日銀がYCCを導入した翌17年度以降は最低水準となる1.1%に据え置いてきたが、金利の上昇基調が続けば利払い負担がさらに増える懸念も拭えない。
<健全財政、なお見通せず>
予算要求締め切りに先立つ29日の閣議後会見で、鈴木俊一財務相は「経済成長と財政健全化の両立を図っていくことが重要」と述べた。併せて「中長期的な財政健全化の旗は降ろさない」との認識も示した。
もっとも健全化の指標となる国と地方のPBは、目標とする25年度の黒字化が見通せていない。内閣府によると、高い経済成長率を実現しても25年度に1.3兆円の赤字が残り、黒字化は26年度に後ずれする。
先送り含みの財政目標を巡り、別の政府関係者からは「本腰を入れた議論が棚上げされてきた」との声も聞かれる。岸田政権になってからは経済財政運営の指針(骨太方針)に25年度とする目標年次そのものは明記していない。
看板政策などに充てられる基礎的財政収支の対象経費にとどまらず、国債費がかさむ現状に「利払い負担を含む財政収支全体をコントロールしていくのが本来の姿」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)との声も強い。
PB達成時期を単に先送りするか、先送りと同時に、対象範囲を見直すことができるかは政権の財政規律を占う試金石となる。
(山口貴也、梶本哲史 編集:橋本浩)