[ワシントン 1日 ロイター] – 米労働省が1日発表した8月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数が予想以上に増加したものの、失業率は悪化し、賃金の伸びは鈍化した。労働市場の逼迫緩和を示唆し、米連邦準備理事会(FRB)が今月、利上げを見送るとの見方が強まる可能性がある。
非農業部門雇用者数は18万7000人増加。増加数は過去12カ月の月平均(27万1000人)を大きく下回った。ただ、労働年齢人口の増加に対応するために毎月約10万人の雇用増が必要とされているが、この水準は大きく上回っている。
7月分は18万7000人増から15万7000人増に下方改定。6月と7月の増加分は合計11万人下方改定された。
ロイターがまとめたエコノミストの予想は17万人増加。ハリウッド俳優のストライキや運輸会社の経営破綻があり、伸び鈍化が予想されていた。
失業率は3.8%で7月の3.5%から上昇。2022年2月以来の高水準となった。ただFRBの第4・四半期の予想中央値(4.1%)は下回っている。
8月は73万6000人が雇用市場に参入し、労働参加率は過去3年半で最高となった。
賃金の伸びはやや鈍化。平均時給は前月比0.2%上昇と、伸びは22年2月以来の小ささとなった。7月は0.4%上昇だった。前年比では4.3%上昇。7月は4.4%上昇だった。
FRBはインフレ対応に向け2022年3月以降、合計5.25%ポイントの利上げを実施。大幅な利上げを受け労働市場に減速の兆しが出る中、コメリカ銀行(ダラス)のチーフエコノミスト、ビル・アダムス氏は、今回の雇用統計は「FRBにとって理想的だった」としたほか、FWDBONDS(ニューヨーク)のチーフ・エコノミスト、クリストファー・ラプキー氏は「米経済はゆっくりと、しかし確実に減速している」とし、「FRBが9月の会合で再利上げを行う可能性にとどめを刺すものだった」と述べた。
一方、ロヨラ・メリーマウント大学のスンウォン・ソン教授(金融・経済学)は「物価の面ではこのところ進展がみられているものの、失業率が3.8%と労働市場はなお引き締まっており、政策担当者が大きく安心することはない」と語った。
<予想との乖離>
米国の映画製作の中心地ハリウッドで全米の俳優ら16万人が加盟する組合などがストライキを行っていることに加え、8月上旬のトラック物流大手のイエロー・コーポレーションの破綻で約3万人が失業したことなどを踏まえ、エコノミストは8月の雇用増は鈍化すると予想していた。このため、ロイターがまとめた非農業部門雇用者の増加数のエコノミスト予想のレンジは4万─27万8000人と幅広かった。
例年8月は当初は雇用者数が軟調で、その後9月と10月に上方修正される傾向があることもエコノミスト予想に織り込まれていた。
<サービス業の労働需要堅調>
労働需要は鈍化しつつあるものの、医療、外食、宿泊などの一部サービス業の需要は強い。ヘルスケアが7万1000人増加し、8月の雇用増全般をけん引。レジャー・接客は4万人増加した。
建設は2万2000人増、製造は1万6000人増。専門・ビジネスサービスは1万9000人増。ただ、将来的な雇用を示すとされる人材派遣は1万9000人減と、減少が続いた。
運輸・倉庫はトラック物流大手イエローの破綻を反映し、3万4000人減。情報業はハリウッドのストの影響で減少した。
<労働参加率20年2月以来の高水準>
失業率算出に利用される家計調査の中身はまちまち。家計調査に基づく雇用は22万2000人増加したものの、73万6000人の労働市場への参入者を吸収するには十分ではなく、失業率の上昇につながった。
労働参加率は62.8%と、前月の62.6%から上昇し、20年2月以来の高水準となった。