堀江広美、Aaron Clark
- 地中熱は日本でも大きな商機に-ベースロードキャピタルCEO
- コスト低下し周知進めば地球温暖化対策の最も有効な手段の一つに
今夏の平均気温は、気象庁が統計を取り始めて以降125年間で最高を記録し、冷房の電気代高騰が家計や企業を直撃した。異常気象が続く中、省エネルギーやヒートアイランド現象の緩和につながるとの期待から、地中熱利用を見直す動きが出ている。
「スウェーデンでは家庭の40%以上が地中熱ヒートポンプにつながっており、光熱費を月約20%節約できている。地中熱利用は日本でも大きな商機になるだろう」。
ビル・ゲイツ氏が設立したベンチャーキャピタルなどが出資するスウェーデンの地熱開発投資会社ベースロードキャピタルのアレキサンダー・ヘリング最高経営責任者(CEO)は、インタビューでそう話した。
地中熱とは、浅い地盤にある低温の熱エネルギーだ。地表から10-200メートル程度の深さの地中温度は通常、1年を通じてその地域の平均気温か少し高い程度でほぼ安定しており、外気温と比較して冬は温かく夏は冷たい。
この温度差による熱エネルギーをヒートポンプで取り出し冷暖房などに利用するのが地中熱ヒートポンプシステム。地表から1000-3000メートルの深い地下から熱水や水蒸気を取り出し、そのエネルギーでタービンを回して発電する地熱発電とは異なる。
ベースロードキャピタルの日本法人ベースロードパワージャパンは、岐阜県と熊本県で計4カ所の地熱発電所を運営しているが、エネルギー消費の大幅削減につながる地中熱利用について、「日本でのポテンシャルは基本的に無限」とヘリング氏は考えている。
同氏は、8月に来日した際、北海道で地熱発電事業を検討しているパートナー企業と、地中熱利用についても議論を始めた。
世界では20年で15倍に
3月には環境省が、2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、5年ぶりに改訂した「地中熱利用にあたってのガイドライン」を公表。再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力と異なり天候に左右されない安定性があり、ヒートアイランド現象の緩和や地球温暖化対策への効果が期待されるとして地中熱の普及促進を呼び掛けた。
ただ、地中熱ヒートポンプ利用は海外で急速に伸びている一方、日本での普及はあまり進んでいない。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の特命参与で、国際エネルギー機関(IEA)地熱部門議長を務める安川香澄氏によれば、地中熱開発の始まりは1970年代のオイルショックにさかのぼる。石油価格が高騰する中、欧米で石油や天然ガス、地熱などの資源が乏しい地域を中心に地中熱利用技術の研究が始まり、80年代から普及していった。
地中熱ヒートポンプを利用している国の数は2000年からの20年間で22カ国から57カ国に拡大。世界の設備容量は約15倍の約8万メガワットサーマルとなった。この間の地熱発電の伸びである約2倍を大きく上回るペースで増えている。特にエネルギー転換の国家目標を掲げ、地中熱利用を推進している中国の伸びが目立つ。
日本では、地中熱ヒートポンプは00年ごろから普及し始めた。環境省の調査結果などによれば、11年の東日本大震災後の再エネブームの中、13年度に設置件数が年間361件とピークに到達したが、18年度以降は同100件程度にとどまり、21年度までの設備容量は225.7メガワットサーマル。20年時点で世界24位となっている。
安川氏は日本で地中熱ヒートポンプの普及が進まない理由について、空気熱源のエアコンが普及していることや、欧州のボイラーや韓国のオンドル(床暖房)のような地中熱ヒートポンプに置き換えられるインフラがないことに加え、導入コストの高さを挙げる。
国や自治体のさまざまな補助金や融資制度があるが、掘削費用を含めて住宅で数百万円かかる導入コストの回収期間は「補助金を使っても10年以上、ビルなど大きな建物では10年程度と言われている」と話す。ただ、北海道のように暖房期間の長い地域では補助金を使わなくても10年で回収できるという。
日本では21年度までに3218件の地中熱ヒートポンプが設置されており、そのうち約25%を北海道が占めている。
東京スカイツリーでも利用
いったん導入されれば、節電・省エネ効果は高く、環境省の資料によれば、冷房の場合、地中熱ヒートポンプでは空気熱源ヒートポンプと比較して30-70%程度のエネルギー消費量を削減できるほか、二酸化炭素排出量では、空気熱源ヒートポンプと比較して削減率25%、油だきボイラーと比べると同62%という試算がある。
ただ、「猛暑が続く中、日本で最も進めるべきなのは、地中熱ヒートポンプを利用したヒートアイランド現象の緩和だ」と安川氏。エアコンは屋外に排熱して冷房するため外気温の上昇につながるが、地中熱ヒートポンプを使って地中に排熱すれば負荷が減る。
環境省の資料によると、都内のオフィスビル街区で地中熱ヒートポンプに置き換えた場合、最高気温で1.2度程度、住宅街では0.3度程度の低下が期待できるとの試算がある。
ヘリング氏は地中熱利用について、「最も簡単に始められる方法は新規開発、または集合住宅やショッピングセンターなどだ」と指摘。どう機能するのか、どれくらい省エネ効果があるのかを検証する必要があるが、このプロセスを経れば自治体や企業に受け入れられるだろうと話す。実際、地中熱は、東京スカイツリー地域や羽田空港国際線旅客ターミナルなどの冷暖房に利用されている。
安川氏は、ビルの場合、整地の際に掘削を行えばコストも抑えられるため、新築ビルの再エネ化が進めば、再エネ・省エネシステム間の競争で地中熱はコスト面で優位になると説明。「環境負荷の小さいエネルギーであり、日本でも導入コストが低下し周知が進めば、地球温暖化対策の最も有効な手段の一つになるのは間違いない」との見方を示した。
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