和田崇彦

物価目標「十分な確度で見通せず」、YCC継続が基本=日銀総裁

[名古屋市 6日 ロイター] – 日銀の植田和男総裁は6日、名古屋市での金融経済懇談会であいさつし、現時点では2%物価目標の持続的・安定的な実現を「十分な確度をもって見通せる状況にはなお至っていない」との認識を示した。イールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)の枠組みの下で粘り強く金融緩和を継続することで経済活動を支え、賃金が上昇しやすい環境を整えていくことが政策運営の基本だと述べた。

植田総裁は再度、物価上昇の要因輸入物価上昇に起因する「第1の力」と、景気の改善が続く中で賃金と物価双方の伸びが高まっていく「第2の力」に分けて議論を展開した。その上で「物価目標に向けた見通し実現の確度が少しずつ高まってきていると思われるが、先行き『第2の力』がどの程度強まっていくのか不確実性は高い」と述べた。

賃金と物価の好循環が強まっていくか見極めるためには、まずは来年の春闘が「重要な点検ポイントだ」と指摘。さらに、企業が賃上げを念頭に価格設定する動きが強まるか注視していく姿勢を示した。

懇談会では、地元経済界の代表者から、大企業では来年以降も高水準の賃上げが定着する可能性がある半面で、中小企業を中心に賃上げへのハードルが高くなっているとの指摘がなされた。

植田総裁は賃金や価格転嫁について「企業間のばらつきの実情をしっかりと把握していくことが重要」と述べた。その上で、賃金と物価の好循環実現には「しっかりした賃上げを実現するとともに、そうした賃上げが可能になるよう企業収益も確保する必要がある」と話した。

<マイナス金利、「物価目標の実現見通せない間は維持」>

日銀は10月の金融政策決定会合で、YCCの運用を再び見直した もっと見る 。植田総裁は、YCCの枠組みの下で粘り強く金融緩和を継続していくためには「長期金利を強力に低位で抑えることで経済を刺激する効果と、これに伴う副作用のバランスを取ることが求められる」と話し、こうした考えが見直しの背景にあると説明した。

日銀は10年国債を対象に1%で実施する連続指し値オペを取りやめ、10年金利の1%を上値の「目途」と位置付けた。植田総裁は、今後も大規模な国債買い入れを継続し、金利上昇局面で長期金利の水準や変化のスピードなどに応じて機動的にオペで対応するため「長期金利に上昇圧力がかかる場合であっても、1%を大幅に上回って推移するとはみていない」と明言した。

その上で、長期金利はいくぶん上昇する可能性があるものの、金融政策が経済・物価に与える効果を捉える上では「予想物価上昇率を勘案した実質金利が重要だ」と指摘。これまで実質金利はマイナス圏での推移を続けてきており、先行きも「実質金利はマイナス圏で推移するとみられ、十分に緩和的な金融環境は維持される」との見通しを示した。

懇談会では企業の財務担当者から、借り入れの返済に影響する短期の政策金利の来年の見通しについて質問が出た。

植田総裁は「(物価目標実現への)見通しが持てない間は、短期のマイナス金利は維持される」と返答。「来年のどの辺でどういうことがどれくらいの確率で起こるか、起こらないのかということについては、現時点では何とも申し上げられない」と話した。

(和田崇彦 編集:田中志保)

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