[東京 26日 ロイター] – 元日銀審議委員の政井貴子氏は、植田和男総裁ら日銀のこのところの情報発信について、緩和修正が近いと市場が受け止め混乱を招いているとの見方を示した。総裁が国会で発した「チャレンジング」発言はマイナス金利の早期解除観測を高めたが、政井氏は政策委員9人の決定やそれに付随する公表物が市場との対話の基本になるべきと指摘。委員一人一人の発言などを総合して考えれば「来年1月や4月といった、市場が想定しているようなスピード感(での政策修正)は考えにくい」と述べた。
政井氏はロイターとのインタビューで、「物価目標に向かって近づいているとは思うが、コミュニケーションツールのシークエンス(順序)が総裁や副総裁の発言が起点となっている」と述べた。決定会合後の声明文や総裁会見、決定会合で出た「主な意見」、政策委員が出席する金融経済懇談会や記者会見、決定会合の議事要旨が情報発信の基本となるべきで、国会での質疑は金融政策の対話手段とすべきではないと語った。
植田総裁は7日の参院財政金融委員会で、「年末から来年にかけ、一段とチャレンジングになる」と発言し、市場で早期のマイナス金利解除観測が急浮上した。その前日6日に氷見野良三副総裁が行った講演も、早期の出口を意識したものとの思惑を呼んだ。しかし、12月の決定会合は現状維持を決め、植田総裁は会見で先行きの修正も示唆しなかった。市場ではそれまで買われていた円が再び売られ、金利は低下した。
政井氏は、その会見で植田総裁が「サプライズは必ずしも避けられない」と述べたことに触れ、「段階を追ったコミュニケーションツールはある」と語った。「フォワードガイダンス(先行き指針)を使用するなど、蓄積してきたある種のスタイルをうまく利用するのがいいのではないか」と話した。
政井氏は10月の展望リポートで日銀が物価見通しを大幅に引き上げ、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用を再び柔軟化したあたりからコミュニケーションが「非連続」に変化したとみる。市場関係者の多くはYCCが形骸化したと受け止め、次の政策変更はマイナス金利の解除との見方が広がった。
政井氏は、先行き実質金利の低下を背景に金融政策が微調整されることは想定し得るものの「次の政策変更は出口というコミュニケーションが、本当に真意なのか」と話した。その上で、「完全にはデフレから脱却していないという政府の認識を(日銀が)共有していて、同じような見解でいるのであれば1月の政策修正は考えがたい」と語った。
政井氏は「1月も3月も4月もやらないとなると、いよいよコンフュージングになってくる」と述べ、「かえって日銀の政策の自由度を狭めてしまう」と懸念を示した。
政井氏は現在、SBI金融経済研究所理事長。黒田東彦前総裁時代の2016年6月から21年6月まで審議委員を務めた。
*インタビューは25日に実施しました。
(和田崇彦、木原麗花 編集:久保信博)