Rita Nazareth
- 米小売売上高、予想を上回る伸び-年内の米利下げ観測が後退
- 円は一時154円45銭、1990年6月28日以来の安値-米金利上昇で
15日のニューヨーク外国為替市場では、円が対ドルで154円台に下落した。予想を上回る米小売売上高を受けて米国債利回りが大きく跳ね上がり、日米の金利差を意識した円売り・ドル買いが加速した。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1261.67 | 2.29 | 0.18% |
ドル/円 | ¥154.27 | ¥1.04 | 0.68% |
ユーロ/ドル | $1.0622 | -$0.0021 | -0.20% |
米東部時間 | 16時55分 |
円は一時0.8%安の154円45銭と、1990年6月28日以来の安値を付けた。先週には、米消費者物価指数(CPI)の上振れを受けて日本当局の円買い・ドル売り介入ラインとして警戒されていた152円の水準を突破。次は新たな警戒水準として155円が意識されている。
市場は週末にイランから直接攻撃を受けたイスラエルの対応を注視しており、安全資産としてドルが買われやすい地合いになっている面もある。
ニューヨーク時間の朝方発表された3月の米小売売上高は前月比0.7%増と、伸びは予想中央値の0.4%増を上回った。前月分も0.9%増(速報値0.6%増)に上方修正され、個人消費の底堅さが改めて鮮明となった。
米小売売上高、3月は予想上回り前月も上方修正-成長を押し上げ
アポロ・グローバル・マネジメントのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏は「経済の再加速が続いていることを踏まえると、米金融当局は2024年に利下げをすることはないだろう」と指摘した。
スワップ市場ではデータの発表後、11月より前の利下げ開始を100%織り込む動きが消えた。年初の時点では3月からの開始が完全に織り込まれていた。ここにきて米利下げ観測の後ずれが鮮明となっている。
ティー・ロウ・プライスのグローバル債券ポートフォリオマネジャー、クエンティン・フィッツシモンズ氏は、日本銀行が大幅な利上げには消極的なため、円は1980年代以来の水準までさらに10%下落する可能性があるとみている。
フィッツシモンズ氏はインタビューで「現時点で大幅な円高は日本の利益にはならない」とし、「債務の持続可能性を巡る懸念があるため、利上げするにしてもあまりにも大幅な引き上げは望んでいないだろう」と述べた。
米国株
米国株式市場は続落。強い小売売上高を受けた米国債利回りの上昇を背景に、マイクロソフト、アップル、エヌビディアなど金利動向に敏感なハイテク銘柄の下げがきつかった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
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S&P500種株価指数 | 5061.82 | -61.59 | -1.20% |
ダウ工業株30種平均 | 37735.11 | -248.13 | -0.65% |
ナスダック総合指数 | 15885.02 | -290.07 | -1.79% |
恐怖指数として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は年初来の高水準をつけた。
パイパー・サンドラーのクレイグ・ジョンソン氏は「株価は上昇トレンドに逆行し始め、押し戻されている」と指摘。「高金利は長期化する見通しだ。決算シーズンが本格化するため、より慎重で戦術的なアプローチが選好される」と話す。
S&P500種株価指数は5100を割り込み、約2カ月ぶりの安値をつけた。ハイテク株比率の高いナスダック100指数は1.65%下落。両指数とも50日移動平均線を下抜け、テクニカル上の弱気シグナルと受け止められている。銀行株はアウトパフォーム。ゴールドマン・サックス・グループの好決算が追い風となった。
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インディペンデント・アドバイザー・アライアンス(IAA)の最高投資責任者(CIO)、クリス・ザカレリ氏は「好調な企業利益と利下げ期待という特効薬によって市場は支えられてきたが、この2つは相反する傾向を強めている」と指摘。「そのため当面は慎重姿勢を幾分維持する」と述べた。
CFRAのチーフ投資ストラテジスト、サム・ストーバル氏は、米利下げが遅れるとの懸念が高まる中で、根強いインフレを示す指標が調整の引き金になるとの不安が広がっていると指摘する。
同氏によると、第2次世界大戦後の24回の米株調整局面では、S&P500種が下げを取り戻すのに要した時間はわずか4カ月だった。1990年以降に限れば、3カ月で下げを埋めているという。「そのため長期投資家にとっては、売るよりも買いに回った方が良いというのが歴史の教訓だ」と述べた。
UBSグローバル・ウェルス・マネジメントのジェーソン・ドラホ氏は「最近のインフレ指標は、ゴルディロックス的な米経済という見方を葬り去った。投資家と米金融当局の双方にとって、インフレ鈍化は年初時点の想定よりも険しい道のりになることを受け入れる必要がある」と指摘。「とはいえ、トレンド水準の成長、振れはあるものの緩やかなインフレ鈍化の道筋、米金融当局に利下げ実施の用意があるという全体的なマクロ環境は、依然としてリスク資産の支えとなっている」と述べた。
米国債
米国債相場は下落。利回りは年限ほぼ全般で年初来の高水準を更新した。米小売売上高が上振れたことで、年内利下げのシナリオに対する投資家の確信が揺らいでいる。決算を発表した米銀行大手が相次ぎ起債に乗り出すことも足かせとなった。
国債 | 直近値 | 前営業日比(BP) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.72% | 8.6 | 1.86% |
米10年債利回り | 4.60% | 8.0 | 1.76% |
米2年債利回り | 4.92% | 2.4 | 0.49% |
米東部時間 | 16時54分 |
米10年債は一時14ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇の4.66%と、昨年11月半ば以来の水準をつけた。2年債利回りは5%に迫った。イランによるイスラエル直接攻撃を受けて高まっていた米国債への逃避買いは完全に巻き戻された。
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ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、トレイシー・チェン氏は「3月の小売売上高のようなデータが続けば、米金融当局は利下げに踏み切れないかもしれない」と指摘。その上で、10年債利回りが最近4.5%を上抜けたことは「重要」であり、新たな取引レンジの上限として4.75%を目指す動きが出てくると述べた。
PGIMフィクスト・インカムの米国担当チーフエコノミスト、トム・ポーセリ氏は、米選挙を下期に控える中で、米金融当局にとっては「日程が不利に作用している」と話す。
同氏はブルームバーグテレビジョンで「米金融当局が7月に動かず、9月か11月も見送れば12月になる」と指摘。「今年の米利下げはせいぜい1回か、おそらく2回だろう」と述べた。
原油
ニューヨーク原油相場は反落。ただ、イスラエル当局者がイランに対する報復を表明したと伝わると、下げ幅を縮小し1バレル=85ドルを上回って終了した。市場参加者は、イランから直接攻撃を受けたイスラエルの反応に神経をとがらせている。
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週末のイランによる攻撃に先立ち、原油は一時5カ月ぶり高値に急伸していた。しかし、イランが発射した300を超えるドローンとミサイルの大半が迎撃され、紛争が抑制された状態にとどまるとの見通しが強まると一時2%下げる場面もあった。
ナターシャ・カネバ氏らJPモルガン・チェースのアナリストは「現時点における原油の見通しは、イスラエルの対応次第だ」と顧客向けリポートで指摘。「とはいえ、両サイドから好戦的な発言が聞かれる中、原油価格には中期的に大幅なプレミアムが付き続ける可能性がある」と記した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物5月限は前営業日比25セント(0.3%)安の1バレル=85.41ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント6月限は35セント(0.4%)下落し、90.10ドルで引けた。
金
金スポット相場は上昇。朝方は一時的に下げる場面があったものの、午後に入ると買いが優勢となった。ただ、先週に付けた過去最高値は下回っている。
12日には一時1オンス=2400ドルを初めて突破したが、下落して終了。上昇は行き過ぎだったことがテクニカル指標で示唆された。しかし、週末のイランによるイスラエル攻撃は安全への逃避の動きを再燃させており、イスラエルによる報復の可能性を巡る懸念から、金は短期的に支えられる可能性が高い。
ペッパーストーン・グループの調査責任者クリス・ウェストン氏は、中東情勢の緊迫化は「それ自体が金を買う理由だ」と指摘。「地政学的なプレミアムが値動きにかなり織り込まれている」とし、中期的な相場の道筋はより高くなる公算が大きいと付け加えた。
金スポット相場はニューヨーク時間午後2時51分現在、前営業日比1.2%高の1オンス=2372.27ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物6月限は同8.90ドル(0.4%)高の2383ドルちょうどで終えた。
原題:Dollar Advances Amid Inflation Fears, Haven Demand: Inside G-10
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