伊藤純夫

  • 日本の物価変動はインフレ予想の影響大、ノルムも「解消の兆し」
  • プラスの一般物価上昇率、資源配分効率化と生産性に好影響

日本銀行は21日に開いた金融政策の多角的レビューに関する第2回ワークショップで、インフレ予想の変化が日本の物価変動に大きな影響を与えてきたとし、足元では人手不足や物価上昇などを背景に従来の考え方や慣習に変化の兆しが生じているといった分析結果を報告した。終了後に報告資料を公表した。

  「非伝統的金融政策とインフレ予想」の報告では、1983年以降の物価変動で生産、物価、金利、インフレ予想の4指標のうち最も大きく影響したのがインフレ予想だと分析。2013年導入の2%の物価安定目標や量的・質的金融緩和(QQE)はインフレ率を直ちに2%にアンカーするほどの有効性はなかったとしつつ、インフレ予想が物価を押し下げる状況を転換させた「効果があったことが示唆される」とした。

  その上で、足元では人手不足感の強まり、輸入価格の高騰などが賃金設定やインフレ予想を変化させている可能性を指摘した。過去25年間の日本の経済・物価情勢の分析では、賃金と物価の好循環の強まりで物価目標の実現が見通せる状況になったとし、物価・賃金が上がりにくいというノルム(慣行)の「解消の兆し」に言及。植田和男総裁も4月の記者会見で「ノルムが変わりつつある」と発言している。

  このほか、一般物価の上昇率はプラスの方が、資源配分の効率化につながる可能性があり生産性に対しても好影響をもたらし得るとの研究も紹介している。今回のワークショップは、経済・物価情勢と金融政策、パネルディスカッションの三つのセッションが行われ、パネルディスカッションには内田真一副総裁、伊藤隆敏コロンビア大教授らが参加した。

  多角的レビューは、植田総裁が就任後初めて開いた昨年4月の金融政策決定会合で実施を決めた。過去25年間にわたって推進してきた各種の非伝統的金融政策手段の効果と副作用について、1年から1年半程度の期間をかけて調査・分析する。レビューを通じて、金融政策と経済・物価などの関係について理解を一段と深め、将来の政策運営に有益な知見を得ることが目的だ。

  第1回のワークショップは昨年12月に「非伝統的金融政策の効果と副作用」をテーマに金融政策が市場機能に与えた影響や、中央銀行財務などについて議論が行われた。植田総裁は多角的レビューについて、金融政策の正常化や2%の物価安定目標の見直しを念頭において実施するものではないとの見解を示している。

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