[イスタンブール 21日 ロイター] – トルコにはロシアによるウクライナ侵攻後、欧米諸国の制裁逃れや徴兵忌避などの理由で大量のロシア人が移住した。しかしトルコの政策見直しや激しいインフレを背景に、この1年間に数万人のロシア人がトルコを離れたことが、ロシア人への取材や統計で明らかになった。
2022年2月にウクライナ戦争が勃発すると、ロシアの隣国である一方、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するトルコはロシア人にとって人気の移住先に浮上。とりわけ最大都市イスタンブールと地中海沿いのリゾート地アンタルヤにロシア人が多く集まった。
理由はウクライナ侵攻に反対の立場を取っているため、欧州諸国への渡航禁止など対ロシア制裁から自分自身とビジネスを守るため、徴兵を逃れるためなどさまざまだ。
しかしトルコの公式統計によると、居住許可を得ているロシア人は5月に9万6000人となり、22年末の15万4000人から3分の1強ほど減少した。
ロイターの取材に応じたロシア人9人によると、23年初頭からトルコで居住許可を取得するのが難しくなり、自分たちや他のロシア人はトルコを離れ、その多くがセルビアやモンテネグロなどロシア人の受け入れに前向きな数少ない欧州の国に向かったという。
ロシア人がトルコから再移住したのは物価高騰も一因。トルコのインフレ率は先月、70%を記録した。また制裁によりトルコでも基本的な銀行サービスを受けるのが困難になっている。
「トルコでは自分の将来を見通せない」と、IT部門で働くドミトリーさん(46)は話した。ロシアのプーチン大統領が22年9月にウクライナ派兵増強のため予備役を部分的に動員すると発表した後、ドミトリーさんはサンクトペテルブルクを離れ、イスタンブールで妻と4歳の息子と合流した。
しかし23年1月、携帯電話に何の説明もなく居住申請が却下されたというメールが届き、1カ月後にイスタンブールを離れた。「1年間の住宅賃貸契約を結んでいたが、全てを捨てなければならなかった。私たちはモンテネグロに移り住んだ。経済的にも政治的にも、トルコより安定しているためだ」と語った。
トルコの移民管理総局は電子メールで、居住許可申請が却下された場合、関連法に基づき、申請者の母国語で正当な理由が通知書に必ず記載されており、申請者は法的救済を求めることができると説明。またロシア人の出国には政治的、経済的、社会文化的要因が絡んでおり、居住許可だけが関係しているわけではないとした。
<変わる潮目>
ロシア政府は戦時中の国外脱出に関する統計を公表していない。しかしデンマーク難民評議会の混在移住センターによると、ロシアによるウクライナ侵攻以来、約80万人のロシア人が海外に移住した。ロシアとウクライナ双方と友好関係にあるトルコは、侵攻後もロシア人のビザなし渡航を認め、西側の対ロ制裁にも加わらなかった。
イスタンブールやアンタルヤの一部地域は、移住したロシア人によるビジネスの立ち上げや移転に伴いロシア語が頻繁に飛び交うようになった。
しかしこうした活動は確実に冷え込んでいる。公式の貿易統計によると、ロシア資本で設立された企業の数は22年には140社だったが、23年には68社に減った。
イスタンブール商科大学のビリズ・カラカイ教授(政治学)によると、ロシアからの移住者はセルビアやモンテネグロ、さらにアルゼンチンやブラジルといった中南米諸国に再移住している。
「ロシア人は経済的、社会的、文化的にトルコを身近に感じている。しかしトルコは今ではあまり多くの外国人を受け入れたくないという意向になっている。ロシア人は経済面でも逆風にさらされている」と言う。
ロシアの野党指導者、故ナワリヌイ氏の選挙本部で働いていた政治家、キリール・アレクセーエフ氏(35)は、自分に対する犯罪捜査が始まったことから22年3月にトルコに移住した。しかしコンサルティング会社から滞在許可証の取得に2000ドルの費用が必要と言われ、再申請を断念した。代わりにドイツの「人道的滞在許可証」を申請し、1年前からニュルンベルクに住んでいる。