鎮目悟志

  • AI関連のESGリスク、市場に十分織り込まれていないとの見方
  • S(社会)に該当する「データプライバシー」リスクの増大も

MUFGファースト・センティアサステナブル投資研究所のスディップ・ハズラ所長は、テクノロジー企業を巡り、人工知能(AI)に関わるESG(環境・社会・企業統治)リスクが市場に十分織り込まれていないとの見方を示した。その上でリスクが「突然顕在化することもあり得る」と警告した。

  具体的に示したのが、個人データの利用などデータのプライバシーに関わる問題だ。生成AIモデルが大量のデータで訓練されている場合、「取るべきではないデータを取ってしまうことがリスクだ」と指摘。AIはしっかり管理されていない場合、ESGのS(社会)に該当する「データプライバシー」関連のリスクを増大させるとした。

  この結果、テクノロジー企業や消費者を相手にデジタルを使う企業は、消費者の反発を招き株価に影響が及んだり規制が適用されたりする可能性があるとの見解を示した。来日したハズラ氏が、ブルームバーグのインタビューに応じた。

  テクノロジー企業は、米S&P500種の高値圏での推移に貢献するなど、最近の株式市場をけん引してきた。生成AIへの期待などが背景にあるが、AIを巡ってはデータセンターの電力消費や個人データに絡む問題など、ESGリスクも無視できなくなりつつある。

  AIに関してハズラ氏は、「明らかに大きな機会があるが、大きなリスクもあり得る」と言及。大手ハイテク7銘柄の「マグニフィセント・セブン」のような主要企業の株価が大幅に上昇していることから、「市場はほとんど機会しか見ていないこともある」と述べた。

  その上でAI関連のESGリスクは長期的なものだとし、徐々に高まるよりは突然高まる可能性の方が大きいとの見方を示した。

人権の定義が進化

  ハズラ氏が触れたAIに絡むS(社会)のリスクは、具体的には「人権」に関わるものだ。同氏によると人権の定義は進化しており、「以前は労働問題やサプライチェーンに関連するものがほとんどだったが、今ではプライバシーなどのデジタルを巡る権利も含まなければならない」という。

  デジタルに関連する人権については、過剰な出費を促す広告やゲーム中毒などを通じて子どもの権利も注目されるとの認識を示した。

  同氏が所長を務めるMUFGファースト・センティアサステナブル投資研究所は、三菱UFJ信託銀行と傘下の豪運用会社ファースト・センティア・インベスターズが2021年に設立し、サステナビリティー関連の調査や研究を行っている。