コラムニスト:リーディー・ガロウド

2023年に日本で最も多くの報酬を手にした経営者は誰かお分かりだろうか。

  トヨタ自動車の豊田章男会長か佐藤恒治社長か。佐藤氏が23年4月に社長に就任すると、昨年度だけでトヨタの株価は2倍になった。東京エレクトロンの河合利樹社長かもしれない。社長就任後の10年足らずで、同社の株価は14倍近くになっている。

  実は最も多くの報酬を手に入にしたのは、セブン&アイ・ホールディングスの米事業責任者ジョセフ・デピント氏だ。昨年度の報酬は約77億円で、この間セブン&アイの株価はそこまで上昇しなかった。

  デピント氏が統括した企業買収のおかげで、米国は現在、セブン&アイの売上高と利益の大半を占めている。業績に関連したインセンティブで、同氏の報酬は上司である井阪隆一最高経営責任者(CEO)に支払われる22倍に達した。

  デピント氏の報酬は、日本が株主総会シーズンに突入し、こうした開示がなされる中、これまで開示された前年度の最高額であっただけではない。日本企業史上で2番目に高額報酬でもある。

  東京商工リサーチによれば、日本の単年度役員報酬で歴代上位20位までにデピント氏1人で7回ランクインしている。

  このリストは外国人がほぼ独占している。1位はソフトバンクグループで孫正義社長を引き継ぐ有力候補だったニケシュ・アローラ氏だ。

  日産自動車のカルロス・ゴーン元会長は世界的な同業者と同水準の報酬を望むことで知られた。日本人の名前は3人しか出てこないが、全員が役員を退任する際、多額の報酬を得ている。

  日本企業の取締役会における外国人役員の数が増えるにつれ、日本人取締役との報酬格差は一段と不快な水準となっている。

  米テスラのイーロン・マスク氏が株主を説得し、物議を醸している560億ドル(約8兆7900億円)の報酬パッケージを復活させようとしている中で役員報酬があらためて議論されているが、日本企業の株主とその委任状は、それが公正なものかどうか注視すべきだろう。

  最も直近の数値として入手可能な22年3月期では、トヨタの自動車技術部門を率いたジェームス・カフナー氏、電通グループで2年働いたウェンディ・クラーク氏、PHCホールディングスの代表をやはり2年務めたジョン・マロッタ氏、メッセージアプリ「LINE」の生みの親とされLINEヤフーの代表取締役だった慎重扈(シン・ジュンホ)氏らが高額報酬を得ている。

  日米の経営者層には確かに違いがある。日本の労働市場はどのレベルにおいても流動性が低く、ライバル企業への経営幹部流出を避けるためにインセンティブを必要とする公算は小さい。また、株主が取締役会を解任することはめったにないため、日本人の役員はより高い雇用保障を享受している。

いいとこ取り

  しかし、外国人取締役もこの恩恵にあずかっている。スパークス・アジア・インベストメント・アドバイザーズのポートフォリオマネジャーで、香港で「ヘネシー・ジャパン・ファンド」を運用する武田政和氏は、「外国人取締役がさらされている外国の労働市場は、その力学があまりに違うと言う人もいる。でも日本ではそう簡単に解雇されない」と指摘。

  「欧米の資本主義的な給与と日本的な雇用の安定という、2つの世界のいいとこ取り」だとの見方を示す。

  日本で重役になることにはマイナス面もある。刑事責任を負う可能性があり、たとえ自分が直接関与していなくても、自分の監視下で行われた行為について、給与を返還することが頻繁に求められる。

  ブルームバーグ・ニュースが報じたところによると、日産は最高執行責任者(COO)だったアシュワニ・グプタ氏に「退任に伴う報酬」として5億8200万円を支払った。同氏は昨年退任する前にセクシュアルハラスメントと見なされる行為に関連する社内調査を受けていた。

  グプタ氏は現在、アダニ・ポーツ・アンド・スペシャル・エコノミック・ゾーンのCEOだ。グプタ氏の元上司で長年日産の取締役を務めた西川広人元社長の退任時には、廃止された役員退職慰労金制度の分も含め計3億1400万円が支払われていた。

報酬開示は必要か

  日本人役員の報酬を上げるべきか、外国人の役員報酬を下げるべきかは、企業によって異なるだろう。まだ比較的平等主義的な日本社会では、実質賃金が減っているにもかかわらず、企業幹部の報酬が米国のようなばかげた水準まで高騰することを望む人は少ないだろう。

  米投資・保険会社バークシャー・ハサウェイを率いるウォーレン・バフェット氏は今年、株主に宛てた書簡で、報酬が少ない日本企業のCEOに好意的な様子を示し、同氏が株式を保有する日本商社5社の経営陣に言及。「米国で一般的な報酬よりもはるかにアグレッシブではない」と指摘した。バフェット氏は低い報酬を好み、40年以上にわたって年間10万ドルしか受け取っていないことは有名だ。

  恐らく、一つの解決策を提示するのはバフェット氏かもしれない。同氏は以前から、役員報酬の開示を義務付けるルールに反対してきた。

  まさにそれが、他社に後れを取りたくないという「横並び」意識を助長し、全体的な報酬アップにつながるからだ。「もし委任状によって他の人々がどれだけの報酬を得ているのかが明らかにされなければ、企業のCEOは全体としてしてもっと少ない報酬しか得られていなかっただろう」とバフェット氏は2014年に語っている

  そして、日本の実例を見ると、同氏は正しい。10年に1億円以上の給与の開示を義務付けるルールが施行されて以来、そうした額を受け取る個人の数は3倍以上に増えている。とはいえ、経営陣の質、そして株主が重視する業績も上がっている。

  しかし、一つはっきりしていることがある。現状を正当化するのは難しい。円安の影響を踏まえ、日本ではすでに地元住民と外国人観光客の間で異なる料金を適用するという不愉快な方向性について論じられている。これは取締役会レベルで実行されるべきトレンドではない。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:The Pay Gap in Japan’s Boardrooms Is Unacceptable: Gearoid Reidy(抜粋)