伊藤純夫、藤岡徹

  • 7月会合で今後1-2年程度の具体的計画決定-政策金利は現状維持
  • 減額計画先送りで一時158円台に円安進行、総裁会見受け下げを解消
会見する植田日銀総裁
会見する植田日銀総裁 Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

日本銀行は14日の金融政策決定会合で、月間6兆円程度としている長期国債の買い入れを減額する方針を決定した。具体策は次回の7月会合で決めるが、植田和男総裁は記者会見で減額は相応の規模になるとの見解を示した。

  国債買い入れは7月30-31日の会合まで、3月会合で決定した従来の方針に沿って実施する。7月会合で今後1-2年程度の具体的な計画を決めた上で、金融市場で長期金利がより自由な形で形成されるように減額していく。政策金利を0-0.1%程度に誘導する金融市場調節方針は維持した。

Bank of Japan Governor Kazuo Ueda News Conference
記者会見する日銀の植田和男総裁Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg

  植田総裁は、国債買い入れの減額計画について「 減額する以上、相応の規模となるというふうに考えている」と発言。一方、7月会合での利上げの可能性を問われ、「その時までに出てくる経済・物価情勢に関するデータないし情報次第で、短期金利を引き上げて金融緩和度合いを調整することは当然あり得る」と語った。

  今回の国債購入の減額方針の決定によって、日銀は3月の17年ぶりの利上げによる政策金利に続き、バランスシートの正常化に向けても一歩を踏み出した。具体策公表の先送りを受けて、7月会合での利上げ観測が後退。一時1ドル=158円台まで円安が進んだが、総裁の円安けん制とも取れる発言を受けて円は下げを解消し、いったん歯止めが掛かった。

  第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「日銀は国債減額を先送りして完全に市場の期待を裏切った。これは当然すでにある円安圧力をさらに増加させる」と指摘。そうなると円安への対応を迫られる可能性もあり「7月の利上げはありうる」と述べた。

  ブルームバーグのエコノミスト調査では、今会合で国債買い入れの減額方針が決まるとの見方が54%と過半を占めていた。一方、政策金利については、ほぼ全員が据え置きを予想し、10月会合と並んで最多の33%が7月会合での追加利上げを見込んでいた。 

予見可能性を確保 

  日銀は減額計画の策定に際し、債券市場参加者会合を開いて国債買い入れの運営に関する意見を聞く。今回の減額方針の決定について、中村豊明審議委員は7月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で情勢を点検してから決めるべきだとして反対した。

  次回会合で具体策を決める予告型になったことに関して、植田総裁は「判断を的確にするためにも市場参加者の意見も聞き、丁寧に決定のプロセスを進めたい」と説明。「ある程度の予見可能性を担保するため、まず1-2年分のスケジュールを大まかに示す」としている。

  政策運営で重視している消費者物価の基調的な上昇率については、「これまでのところは私どもの見通しにおおむね沿ったデータの出方になっている」としつつ、「それでいいのか、もう少し確認したい。その上で7月の短期金利をどうするかを決定したい」と語った。

  三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、総裁会見について、相応の規模で減額ということや7月利上げの可能性を排除しなかったことで、ハト派度は弱かったと指摘。日銀会合では国債買い入れ減額の決定が先送りされ、肩透かしから円安が進んだが、総裁会見でその火消しはうまくできたようだとの見方を示した。

  植田総裁は、為替相場の動向に関して、「企業の賃金価格設定行動が積極化する事で、過去と比べると、為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」と指摘。円安の動きを十分に注視し、毎回の決定会合でしっかりと点検し、適切に対応していくと語った。

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