古川有希、望月崇、Shery Ahn

  • HDD部品、電池、センサーなど「ほぼ全ての事業関与」-社長
  • インドは次の生産拠点に含み-2025年に新工場で生産開始予定

TDKの斎藤昇社長は、文章や画像などを自動で作り出す生成人工知能(AI)が空前のブームになっていることに関連して、同社が展開する幅広い製品の需要増につながると期待でき、業績への恩恵は大きいとの見通しを示した。

  AI半導体は画像処理半導体(GPU)などの能動部品と受動部品で構成され、電子回路部分には同社が扱う積層セラミックコンデンサー(MLCC)やインダクターなどの受動部品が使われる。斎藤氏は11日のインタビューで、「必ず能動部品と受動部品がセットで、GPUだけが独立で伸びていくことはない」ため、AIの進化は業績に「非常に大きなインパクトがある」と述べた。 

relates to TDK社長、生成AIは「大きなインパクト」-追い風は広範囲に
TDK・斎藤社長Source: TDK Corp.

  米オープンAIの対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」が2022年に公開されて以降、世界中の企業が生成AIを自社製品やサービスに取り込む動きが加速している。米エヌビディアの製品はデータセンターGPU市場で圧倒的シェアを有し、時価総額は3兆ドル(約470兆円)を突破した。

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  生成AIブームは、TDKにとって受動部品以外にもメリットが大きい。データセンターで使うハードディスクドライブ(HDD)用ヘッド、スマートフォンやパソコンなどAI機能を追加した端末で使われる電池、低消費電力に寄与するセンサーなど、「ほぼすべての事業が関係してくる」という。電子化が進む自動車も「大きなスマホ」と変わらず、AI機能とは切っても切れない関係になった。

  電子情報技術産業協会が昨年12月に発表した生成AI市場の世界需要額見通しでは、30年には23年比約20倍となる2110億ドルに拡大する。多様な製品群を展開するTDKにとって、生成AIは中期的に業績のけん引役となる可能性がある。

  TDKは05年に香港の電池メーカー、アンプレックステクノロジー(ATL)を買収し、スマホ市場の拡大とともに収益を伸ばしてきた。世界シェア5割を超える小型電池は稼ぎ頭だ。ブルームバーグのデータによると、米アップルや中国レノボ・グループ、小米(シャオミ)などに製品を供給する。

  TDKの小型電池は現在、ほぼ全てを中国で生産するがインドにも力を入れていく計画だ。25年には同国の新工場で生産開始を予定するが、今後の生産拠点については「これが最後かというと、最後ではないと思う」と述べ、現地の需要を見極めた上で、適宜次の手を打っていきたいと話した。

上場来高値

  足元業績は好調で、前期(24年3月期)の営業利益は前の期比2.4%増と、4期連続の増益となった。今期(25年3月期)は同4.1%増の1800億円を見込む。株価も好調で6月に入って上場来高値を更新。14日の終値ベースで年初来での上昇率は33%となった。

  岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストは、アップルが新しい生成AI機能を発表したことが高値更新の材料になったと指摘する。だが、期待先行の印象が強く、今後の決算がコンセンサスを下回れば株価はモメンタムをなくす可能性に言及する。

  CLSA証券アナリストのアミット・ガルグ氏は11日付の英文リポートで、センサー事業の改善や電池事業でのシェア拡大が上振れ要因になり得る一方、MLCC以外の受動部品の成長が緩やかな中、利益率回復が予想より弱いことが下振れリスクになるとの見方を示している。

TDKの株価推移

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