Lionel Laurent
英国は欧州連合(EU)離脱の是非を問う8年前の国民投票に始まった、終わりのない危機に苦しんでいる。今度はフランスが危機の沼にはまり込もうとしている。
近く行われる総選挙で、フランスは求心力を失う親EU派大統領と、極右政府の台頭という前代未聞の組み合わせに直面する公算が大きい。もちろん、世論調査の結果は割り引いて考えられる必要があり、ユーロ離脱は選択肢にない。マクロン大統領は国家元首にとどまり続ける。
だが、どの政党も絶対的な過半数を獲得できず、政治的な混乱が続く恐れはある。中道右派の共和党は、マリーヌ・ルペン氏が実質的に率いる極右政党・国民連合(RN)と協力するかを巡り党内抗争が勃発した。左派も分裂している。極端な主義を掲げる政党を排除するよう設計された制度でかつては最大の恩恵を受けていたマクロン氏の政党は、いまや第3党にとどまる見通しだ。注目が集まる2027年の大統領選で倒すべき候補者はルペン氏となる見通しで、ルペン氏が追う立場だった17年とは様相が完全に異なる。
マクロン氏は12日、「過激派の熱狂」に浮かされてはならないと有権者に訴えるとともに、大統領として任期を全うすると主張し、神経質になっていた金融市場を落ち着かせた様子だ。だが、何年も半分寝ぼけた生活を送っていたフランスのエリート層が目を覚ますのは遅かった。ユーロの安定やパンデミック時代の財政バズーカの余韻、「フランスでそんなことが起こりようもない」という抗しがたい思い込みが恐らく背景にあったのだろう。結局、英国が経験したEU離脱を巡る混乱を目の当たりにし、ユーロ懐疑派の主張は有権者に響かなくなった。
エリート層の無頓着をオランド前大統領の元顧問、アキリーノ・モレル氏は「盲目を率いる盲目」と表現。既成政党が移民やインフレに対する怒りに対応できない、または対応する意欲がない中で、ルペン氏の政党は若者にもあまり若くはない者にも、富裕層にも社会に取り残された者にも全てにアピールしていると指摘した。
英国がEUを離脱して以来、パリでは金融業界で数千の雇用が生まれ、テクノロジー新興企業が点在するようになった。だが、同地で11日開かれた欧州金融業界の会合は、「今回は違う」との雰囲気が漂っていた。
講演した者らは、予定されるフランスの競争力強化策や公約されている欧州資本市場の統合でより多くの新規株式公開(IPO)を呼び込める(と同時にエネルギー大手トタルエネジーズをつなぎ留める)との見込みを話し、平静を装ったが、内々の会話では暗いムードが明らかだった。
金融市場はぜい弱性を感じ取り、一部のフランス債利回りはポルトガル債を上回る。次期政権が低成長と悪化する公的財政の修正に成功する可能性は一段と低いだろう。昨年の財政赤字が国内総生産(GDP)比5.5%に達したこともあり、EUが義務づける財政ルールを巡って欧州委員会とのやり取りはいっそう激しくなることが予想される。数年にわたる英国の混乱とドイツの不振で間接的な恩恵を受けてきたフランスだが、元の姿に戻ることもあり得る。
これから起こるかもしれないことに類似した歴史的な事例はあるのだろうか。フランスで大統領と政府の党派が異なることは以前にもあったが、マクロン氏とルペン氏(または同氏に次ぐナンバー2である28歳のバルデラ氏)ほどの組み合わせは過去に例がない。
極端な例では、社会党のミッテラン元大統領が予想外の勝利を収めた1981年に比肩し得るリスクがある。同氏の急進的で高額の費用を要した経済改革は、金融市場によって大きな代償を支払わせられた。トラス前英首相が引き起こしたような金融市場の混乱が、フランスでも起こり得る。
ただ、もっとあり得るのは、公共サービスが政争に巻きこまれるようになり、英国のEU離脱のように長期で徐々に衰退していくようなシナリオだ。例えば、ルペン氏の政党が政府を率いる場合、マクロン氏は欧州の場でどのような政策を代表するのだろうか。フランスは歴史的に、ユーロ圏の危機や新たな巨大合併に対する最近の提案に至るまで、欧州統合のために犠牲を払うことをいとわなかった。こうした時代が終わりを告げるかもしれない。
(リオネル・ローラン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、以前はロイター通信やフォーブス誌で働いていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:France Is Getting Weaker, and Markets Know It: Lionel Laurent(抜粋)