6月21日、 ウクライナ海軍が実戦投入した水上無人艇「シー・ベビー」は全長わずか6メートル、海面からの高さ60センチだが、最大850キロの爆薬を搭載し、最長で1000キロ走行できる。写真は19日、ウクライナ・ハリコフで中距離無人偵察機を発射するウクライナ軍兵士(2024年 ロイター/Inna Varenytsia)
[ロンドン 21日 ロイター] – ウクライナ海軍が実戦投入した水上無人艇「シー・ベビー」は全長わずか6メートル、海面からの高さ60センチだが、最大850キロの爆薬を搭載し、最長で1000キロ走行できる。
レーダーに反射しにくいステルス性の素材で造られているほか丈も低いため敵にほぼ探知されず、ウクライナ国産の対艦ミサイル「ネプチューン」や、より小型の水上無人艇「マグラ」、英国製巡航ミサイル「ストームシャドー」などとの組み合わせによって多大な戦果を挙げている。
ウクライナの政府高官や専門家の分析では、ロシア黒海艦隊の全艦艇の最大で3分の1を沈めたか、損害を与えたという。
一連の攻撃はロシアが一方的に併合したクリミア半島のセバストポリ軍港に対して行われ、ロシア艦艇の大半は黒海のずっと奥のノボロシスク軍港に退避せざるを得なくなった。
そのため黒海艦隊はウクライナの重要な港であるオデッサに脅威を与える力はなくなった。より重要な点は、無人兵器の威力によってウクライナからの海運輸送路が確保され、より多くの穀物を輸出できるようになったことだろう。
先月のロイズ・リストのリポートによると、ウクライナの港から外国に積み出された穀物のカーゴ数はほぼ戦争前の水準に戻った。
陸上では、ウクライナとロシアの双方ともに戦闘犠牲者は通常の砲撃よりも無人兵器による被害の方が大きい。
これは大きな技術上の転換点で、米国とその同盟国にとっても今後アジアで起き得る戦争に向けた準備戦略の核心部分になっている。
<地獄絵図>
先月シンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官が米紙ワシントン・ポストのインタビューに応じ、中国の台湾侵攻を抑止する、あるいは実際に侵攻した場合に打ち負かすという面で、米国が期待する主役は戦場に投入される極めて多数の無人兵器だ、と異例の言及を行った。
パパロ氏は「台湾海峡を性能が機密指定となっている多くの無人兵器で『地獄絵図』にしたい」などと語り、まだ公式に議論されていなかったり、存在すら認められていなかったりするものを含めた無人兵器システムで第一弾の侵攻をくじき、米国と同盟国の増援のための時間を稼ぐことができるとの見方を示した。
バイデン政権も、幾つかの兵器売却を発表してこうした発言に込められたメッセージを補強している。
17日には米国防総省傘下の国防安全保障協力局(DSCA)が台湾に対して、徘徊型兵器「スイッチブレード300」と無人機「アルティウス600M」を合計で1000機余り売却すると明らかにした。
いずれも「自爆型無人機」とも呼ばれており、中国が台湾に侵攻してきた場合、多数飛ばして艦艇を攻撃できる。専門家によると、有事では台湾がより中国沿岸に近い金門島などからも無人機を飛ばし、中国側の軍施設や港湾施設に打撃を与えられる。
<レプリケーター>
「地獄絵図」の表現を最初に使ったのは、パパロ氏の前任のジョン・アキリーノ司令官だった。昨年8月にワシントンで開かれた会議で、インド太平洋軍が無人兵器を統合的に運用し、24時間で1000の標的に打撃を与える構想の実現を進めていると述べた。
ヒックス米国防副長官は同じ会議で、安価で使い捨てができる最新鋭無人機を何万機も製造し、戦時における中国側の生産能力を圧倒する「レプリケーター」計画の概要を披露している。
「レプリケーター」と「地獄絵図」の構想は、昨年以降に推進されてきたとみられる。ウクライナ政府の複数の高官は、米国側が一部の技術は将来のより大規模な戦争に向けて温存したいので、ウクライナと共有したくないと伝えてきたと明かす。
米軍の兵器開発生産体制はなお通常の軍艦など、より大型で完成まで何年もかかる兵器を重視しており、それが無人機採用の遅れにつながっているとの声も聞かれる。
ウクライナでは、水上無人艇の急速な導入を推進したのは海軍主流でなく、治安当局や特殊部隊だったという点も注目に値する。
それでも技術革新のスピードは上がり続けている。
ドイツの防衛大手ラインメタルは今週、攻撃用無人機126機を備えたコンテナを発表。これらの無人機は量産化が可能で、より幅広い防空体制を構築できる。
バルト諸国やポーランド、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーなどは既に、ロシアによる攻撃抑止のために国境に「無人機の壁」を設ける計画の一環として、この技術の利用に言及している。
自動で標的を追うタイプの無人兵器は、司令部へ返送するデータを最小化するため、自前のプラットフォームで情報分析の大半を完結させる「エッジ・コンピューティング」への依存が高まり続けている。
ただ、新しい妨害電波技術やその他の対策も同じように急速に進化しており、かつては効果的だったシステムが一気に時代遅れになってもおかしくない。
そのリスクを軽減する一つの方法は、プラットフォームに人工知能(AI)を搭載し、独自の目標設定を行えるようにすること。もう一つは、直接コントロールするケーブルを使用することだ。
ウクライナで捕獲された一部のロシアの無人機には1キロを超えるケーブルがつけられ、妨害電波に対する脆弱性が軽減されていた。
いずれにしても無人兵器は、2020年にナゴルノカラバフを巡るアルメニアとの紛争でアゼルバイジャンに勝利をもたらし、22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を経て大幅な発達を遂げた。
2030年までには、この無人兵器が世界の未来を決める要素になるかもしれない。