カナダでは、毎年76万haの森が伐採されている。(地球・人間環境フォーラム提供)

 先日、二人の森林生態学者、スザンヌ・シマード氏(『マザーツリー』著者)とレイチェル・ホルト氏が来日して、カナダのブリティッシュ・コロンビア州で原生林が伐採され、木質ペレットが生産されている事態を各地で訴えた。

 そしてカナダで生産された木質ペレットの半分以上は、日本に輸出されバイオマス発電燃料にされていると。言い換えると、日本の電力はカナダの原生林を破壊して得ているということだ。
 驚くのは、それが合法だという点だ。伐採後に再造林していればカナダの法律には触れない。政府はむしろ推進しているという。

 この問題、私も以前より気がかりだった。バイオマスエネルギーは再生可能だ、カーボンニュートラルで脱炭素になるんだとか言われて推進されているが、実は世界中で森林破壊を助長し、結果的にCO2の排出を増やしているのではないか。また近年重要性が指摘される生物多様性の増進策(ネイチャー・ポジティブ)も、森林伐採することで逆に劣化させているのではないか。

 そこで、改めて日本のバイオマス発電の現実を燃料の点から考えたい。

バイオマス燃料の9割は輸入

 まず、バイオマス発電の燃料にはいくつかあった。食品残差や家畜糞尿、下水汚泥などを発酵させてメタンガスを生産し、それを燃料にする発電所もある。また、パーム油そのものを燃やす発電もある。熱帯雨林を伐採して造成された大面積プランテーションによって生産されている油脂を食料ではなく燃やしてしまう発電も、バイオマスエネルギーに分類される。

 ただ日本の場合、それらは小規模にとどまり、大半が木質バイオマス、つまり木材系の燃料だ。そこには未利用材(間伐材や製材端材、林地残材など)を使ったものもあれば、丸太をそのままチップにして燃やすものもある。

 世間的には、未利用材を燃料にしているとされている。木材はカーボンニュートラルであり、それで発電すれば、化石燃料を減らせるという理屈だ。ただ、実際のところは未利用材だけではない。山の木を皆伐して、全部燃料にすることも普通に行われている。

木材生産の伸びは燃料材ばかり

 さて、日本の木材生産量の推移を見ると、全体としては増えているのだが、その伸びのほとんどはバイオマス燃料である。製材、合板、製紙などの用途は減少傾向からせいぜい横ばいだが、圧倒的に多いのが燃料用途だ。そのため木材消費も総量では伸びて、林業が活性化したかのように見せかけている。

 もっとも、日本国内で生産される燃料は、全体の約1割に過ぎない。大半が輸入で調達している。

 以前は、ヤシ殻(パーム油を絞った滓。PKS)が多かったが、近年急増しているのが木質ペレットだ。ようするに木材を粉にしてから再び固めたものである。大きさ・形状などが均一だと、燃焼を自動化させやすいうえ、輸送や保管などが楽な点が利点となる。

林野庁「2023年の木材輸入実績」より。
林野庁「2023年の木材輸入実績」より。

 ペレットの輸入量は2012年からの10年間で61倍に拡大し、輸入先は、1位がベトナム(約260万トン)、2位がカナダ(約158万トン)、3位はアメリカ(約126万トン)となっている(いずれも2023年の輸入量)。

 輸入木質ペレットの伸びは、22年から23年にかけて前年比32%増。今年も4月までで前年と比べると132%と大幅な増加は続いている。

 生産国側から見ると、カナダの木質ペレットの輸出先は、日本が全体の半分以上を占め、次にイギリス、そして韓国と続く。一方ベトナムの木質ペレットは、韓国輸出が5割を超えており、次に日本が4割を占める。

原料調達で疑われる合法性

 問題は、木質ペレットの原料だ。表向きは未利用の木材を使うとしているが、カナダ製は原生林を皆伐してつくられていると告発された。そしてベトナムも相当怪しい。

カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の皆伐地(地球・人間環境フォーラム提供)
カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の皆伐地(地球・人間環境フォーラム提供)

 ベトナムの森林面積は約1400万ha(森林率約41%)だが、そのうち人工林は約3割だ。ただし2014年からは天然林の伐採を禁止されている。つまり、ざっと420万haの人工林(日本の4割程度)から630万トン以上もの木質ペレットを生産していることになる。これを間伐材・製材端材だけから生産していると言われても、とても信じられない。量的にも無理がある。おそらく原木丸ごと、そして天然林も相当伐採しているはずだ。

 ベトナムでは、合法であることを示すFSCなど森林認証制度を虚偽申告されていたと指摘されたこともある。アメリカもベトナムが違法伐採した木材などを輸出していると疑い調査を実施している。結果次第では追加関税などの制裁措置を検討するとした。

 木質ペレットは、製造時に大きなエネルギーが必要だ。木材が持つエネルギー量の2~3割はそれで消える。さらに遠方からの輸送でもエネルギーを消費する。

 国立環境研究所「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」や、産業技術総合研究所の歌川学氏の試算では、「木質バイオマスの燃焼時のCO2排出量は石炭よりも多い」と発表した。つまり石炭火力をバイオマス発電に切り換えると、脱炭素になるどころか逆にCO2の排出量を増やすとされたのだ。

 そのほか脱炭素の理屈には矛盾ばかりが目立つ。

ありえない!木を燃やして脱炭素という虚構と欺瞞

 もともとバイオマスエネルギーの利用は、身近な未利用材を活かそうという発想から生まれた。それは小規模で、電気より熱利用が主だった。ところが、FIT(固定価格買取制度)が適用されるのは発電だけだから、熱利用は捨てられる。そして輸入燃料が認められたことで、規模だけはどんどん肥大化した。

 同じことは太陽光発電や風力発電でも言える。

 もともと建物の屋根にソーラーパネルを置いたり、景色になじむ風車を1本2本と立てたりすることから始まったはずなのに、どんどん効率と利益を上げることばかりを追求し、大規模化・多数化を進めた。それは自然破壊、景観破壊を引き起こし、脱炭素にもならず、住民からは目の敵にされるばかりだ。

 本気で脱炭素やネイチャー・ポジティブを進める気があるのなら、まず規模を追いかけることを止めるべきだろう。

田中淳夫

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

関連情報

▽[FT]バイオマス発電業界と対立するカナダの森林保護派<日経web版>2022年1月4日 16:37 

Financial Times

カナダ最西部のブリティッシュコロンビア州には樹齢数百年の森が点在する。この森林が、気候変動対策を巡って意見を異にする二つの勢力の対立の場と化している。一方は、森林資源をグリーン電力に利用したいバイオマス発電業界の関係者。それに対するのは、二酸化炭素の吸収源として森林の保護を訴える人々だ。

カナダ・ブリティッシュコロンビア州の森林。バイオマス業界関係者は、木質ペレットはカーボンニュートラルと主張しているが、木を燃やしてエネルギーとすることが環境に良いとする見解に懐疑的な科学者もいる=naturally:wood

科学者や環境活動家は、生物多様性に富み、炭素の貯蔵庫の役割がある老齢林を特に保護することを求め、同州政府に対する圧力を強めている。

その一方で、気候変動に対する懸念の高まりが、「カーボンニュートラル」燃料とされる木質ペレットを生産する同州のバイオマス産業の成長を促している面もある。

木質ペレット生産大手の1つであるドラックス・グループは電力会社だが、クリーンエネルギーの生産者に生まれ変わろうとしている。英国に上場する同社は2021年、木質ペレットの生産を手がけるカナダのピナクル・リニューアブル・エナジーを買収した。30年までにペレットの生産と販売を倍増させる計画だ。

欧州連合(EU)やアジアではバイオマス燃料が重要なエネルギー源となっているが、一部の科学者は、エネルギー源として木材を燃やすことの環境面での信頼性に懐疑的な見方を強めている。

ブリティッシュコロンビア州では古木由来の木材の一部がペレットに形をかえている。これは、合法的とはいえ、環境活動家は持続可能な慣行ではないとみている。そのため、ペレットは化石燃料の信頼できる代替品だとするバイオマス燃料擁護派の主張は根拠が乏しいというのが反対派の主張だ。

台頭する規制強化の可能性

ペレット生産者の間では、州政府が伐採可能な古い樹木の量を抑えるため、伐採割当量の規制を強化する可能性があると懸念する声もある。

カナダの環境保護団体コンサベーション・ノースのディレクター、ミシェル・コノリー氏は、ブリティッシュコロンビア州は「(古い)森林の伐採許可を出すべきでない」と指摘する。「当局には権力がある。よりよく認識すべきだ」という。

同州政府が21年に招集した独立委員会「老齢樹技術諮問委員会」のメンバーであるレイチェル・ホルト氏は、古木の伐採規模は「常軌を逸している」と語る。「これらの森林は信じられないほど希少で極めて価値が高い。樹齢2000年の木々を持続的に伐採するなどありえない」

公式統計によると、ブリティッシュコロンビア州で毎年伐採される森林の約4分の1は「老齢樹」に分類される。この定義は場所によって異なるが、一般的に樹齢140年以上、もしくは250年以上の樹木を指す。

同州のペレット産業は、製紙などの関連事業が縮小するなかで、2000年代初頭から急成長を遂げている。この市場は、石炭火力発電所からバイオマス発電所への転換を目指す企業の投資を引き寄せている。ペレット工場は通常、周辺地域から木材を調達するが、生産各社は、その大部分は他の目的で伐採された木の端材や残材だと主張している。

コンサベーション・ノースが政府のデータを分析した結果では、ピナクルがブリティッシュコロンビア州に所有する7つの工場はすべて「原生林(人間の手が入っていない、自然のままの古い樹木)」を含む森林に囲まれているという。

ドラックスの委託で20年にまとめられた報告書は、州政府が老齢林を保護する取り組みを強化すると、ピナクルの2工場への供給が縮小する可能性があるとしている。

「ペレットに使わなければ無駄に」

ドラックスは、カナダ産ペレットは「廃材繊維を原料としており、(ペレットにしなければ)道端で燃やされたり、埋め立てられたり、腐るまで放置されたりするもの。廃材の80%は製材所の残材、20%は伐採の残材に由来する」と説明している。

州政府は、老齢林の管理のあり方を見直すよう圧力を受けて、19年に第三者に審査を委託した。翌20年に公表された報告書は、州の経済が「老齢の原生林の伐採に大きく依存している」との結論を示し、環境保護が必要な地域では開発を先送りすべきだと提言した。

同地域の先住民族であるタールタン族の一員で、報告書の主執筆者である森林学者のギャリー・メルケル氏は、老齢林は生態系の健全性にとって「極めて重要」であり「再生可能ではない」と主張する。「鉱業と同じようにとらえるべきだ」という。

ブリティッシュコロンビア州の森林省は「森林を管理する方法の改善に力を注ぐ」とし、報告書の提言を実行に移す方針を表明した。

この地域の林業関係者は、こうした動きが規制の厳格化につながるかどうかに注目している。

前述のドラックスの委託報告書によると、生物多様性と老齢樹を保護する政府の措置を受けて「森林伐採の可能な土地が部分的に撤回された。伐採が禁止される地域がある一方、他の地域では計画の修正が必要になる可能性もある」という。

同報告書は、さらなる規制が「近々に導入される」可能性もあると指摘している。

カナダの木材会社で、ピナクルに原材料を供給するキャンフォーは、特定の地域で伐採を始めてから20年を経て「主に老齢樹の伐採から、管理された立木の伐採」に移行したと文書で言及しており、過去に老齢樹を伐採したことを示唆している。

キャンフォーは、企業として「世界レベルの持続可能な伐採と森林管理の実践に注力している」とし、「ブリティッシュコロンビア州政府による包括的な許可制度」に従っていると言明している。

ドラックスは、英ヨークシャー州にある発電所6基のうち4基の燃料を石炭から木質バイオマスに転換した。しかし「炭素強度」のスコアが高いため、世界の主要銘柄でつくる「S&Pグローバル・クリーンエネルギー指数」の構成銘柄から21年10月に外された。

バイオマスは持続可能ではない:シティグループ

米銀大手シティグループのアナリストは同12月のリポートで「基本的にバイオマスを持続可能なエネルギー源とはみなしていない」とし、木質ペレットを環境に優しい燃料として扱うことに対する懸念を表明している。

ブリティッシュコロンビア州林産業審議会は、同州は「世界をリードする持続可能な伐採と積極的な森林管理」を誇るとの見解を示した。木材会社は老齢樹であれ若木であれ、端材を製紙工場やペレット工場に売却することで、廃棄物を最小限に抑えていると主張している。

しかし、森林学者のメルケル氏は、この方法でも生態系は枯渇すると主張する。「自然界には廃棄物はない」というのが同氏の見解だ。

By Camilla Hodgson

(2022年1月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/)

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