Tom Pfeiffer

Supporters with French national flags during a National Rally event in Paris.
Supporters with French national flags during a National Rally event in Paris. Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

フランスでは、30日に国民議会(下院、定数577)選挙の第1回投票が行われる。極右政党・国民連合(RN)が最も多くの票を集める見通しで、その結果はマクロン大統領のリベラルで企業寄りの改革だけでなく広範囲に影響を及ぼす。マリーヌ・ルペン氏が実質的に率いるRNの台頭は、フランス独特の政治制度に試練を与えている。

選挙制度はどうなっているのか

  フランスでは、大統領と下院議員は別々の選挙で選ばれる。今回の選挙は下院議員を選ぶ方で、議員の任期は5年だ。

  第1回投票で当選が決まるのは、選挙区の投票率が25%以上、かつ50%を超える票を得た候補だけだ。そうでない場合、下位候補を脱落させ上位候補だけで7月7日の決選投票を争う。この設定は最終的にどの政党が勝利し、議会過半数を確保できる政党があるのか予測を難しくする。

  決選投票の後で、マクロン大統領は議会多数派の意向を踏まえて首相を指名しようとするだろう。だが、単独過半数となる政党がなければ、連立工作が必要になる。首相は必ずしも過半数を支配している必要はないが、不信任投票で辞任に追い込まれる事態を回避するため十分な支持を得ていなければならない。

  下院選の結果にかかわらず、マクロン氏は大統領にとどまる見通しだが、2期目の任期は2027年に切れる。3選は禁止されているため、次の大統領選には出馬できない。   

下院選では誰が争っているのか 

  • 再生(RE)とその協力政党:マクロン氏は初めて大統領選に立候補した2016年に、自らの中道政党を立ち上げた。以前の中道左派・社会党や中道右派のドゴール主義各党から政治家を引き抜き、経済活性化や失業者減少を掲げるテクノクラート型政府を率いさせた。この取り組みはまだ続いている
  • 国民連合(RN):極右の民族主義政党で、かつての名前は「国民戦線(FN)」だった。人種差別的・反ユダヤ的発言で有名だった父のジャンマリー氏から2011年に引き継いで以来、ルペン氏は党のイメージを改善し、有権者に受け入れられるよう脱皮を図ってきた。ルペン氏は党の反移民姿勢をほぼ維持しているが、欧州連合(EU)離脱の主張は引っ込めた。党内の規律を強め、党員らの言葉遣いや服装も次期政権を狙う政党らしくなってきた。世論調査によると、今回の選挙でRNは最も多くの票を集めそうで、そうなれば過去最高の結果となる
  • 新人民戦線:左派政党の連合で、マクロン大統領が推進した64歳への定年引き上げを覆し、逆に60歳への引き下げを主張する。最低賃金の引き上げや富裕税復活も掲げる。政権を握る場合に実際にこれら全てを実行するかどうかは、誰が首相に就くかに左右される部分もある。連合内には急進左派で過激なジャンリュック・メランション氏もいれば、オランド前大統領ら伝統的な社会民主主義者らもいる
  • 共和党:ドゴール元大統領が設立し、ポンピドー、シラク両元大統領らを生んだ伝統的中道右派の流れをくむが、今は混乱のさなかにある。シオッティ党首は党内の反対を押し切ってRNとの連携を呼びかけたが、党指導部は同氏を除名。それでも同氏は党首にとどまり続けると主張している。世論調査で共和党は他の主要3党から大きく水をあけられているが、どの政党も過半数を確保できなければ、決定的な役割を果たす可能性がある

RNが政権を取る可能性はあるのか

Marine Le Pen
マリーヌ・ルペン氏Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

  もしそうなれば、第2次大戦後のフランスで極右政党の内閣が誕生するのは初めてとなる。1958年にドゴール氏が発足させた第5共和制は、過激主義者を政治の片隅へと追いやった。国政選挙で中道の枠からはみ出るような候補が第1回投票で好成績を残すと、決選投票での当選を阻止すべく穏健派で最も有力な対抗候補に力を結集する「共和国戦線」がたいてい結成されてきたからだ。2002年の大統領選では、ジャンマリー・ルペン氏が第1回投票で社会党のジョスパン首相(当時)を上回り、現職のシラク氏に迫ったが、決選投票では社会党支持者が中道右派のシラク氏支持に回り、ジャンマリー氏の当選はかなわなかった。

  だが、こうした共和国戦線はここ数年に大きく力を失った。主流の有権者に訴えかけるルペン氏の取り組みが奏功し、22年の下院選では議席数を8から88へと伸ばし、大躍進を遂げた。それ以来、RNの支持率上昇は続いている。世論調査によると、今回の選挙で単独過半数には依然届かないものの、第1党になるとみられている。

RN勝利なら何が起きるか

  RNが議会過半数を確保する場合には、全ては前例に従って進むだろう。マクロン氏はRNが首相候補に指名しているバルデラ党首に組閣を要請する。議会の最大勢力と大統領の政治姿勢が異なり、大統領が反対勢力から首相を指名せざるを得なかったことは1986、93、97の各年にもあり、「保革共存政権(コアビタシオン)」と呼ばれた。概して大統領が一歩退いてほぼ外交政策に専念するようになり、政府が内政問題を管理する。ただし、両者の政策が全く異なる場合、それほど簡単ではない。

どういうことか

  RNとマクロン氏は、外交政策を含む根本的な問題で深刻な隔たりがある(コアビタシオンの際に誰が外交問題を管理するのか、憲法は明確にしていない。明らかなのは、大統領は軍の最高司令官であることなど数少ない事項に限られる)。マクロン氏は熱烈なEU支持者だが、ルペン氏の政策が変化したとはいえRNには強いEU懐疑派の流れがある。マクロン氏は強力なウクライナ支援の姿勢を打ち出しているが、RNはより控えめで、バルデラ氏は選挙運動中にウクライナの国防権は支持するが、長距離ミサイルの提供には反対すると述べていた。

Emmanuel Macron
マクロン仏大統領Photographer: Nathan Laine/Bloomberg

RNが議会第1党となる場合、マクロン氏が代替案を見いだせる可能性は

  単独過半数、すなわち289議席以上をRNが獲得できなければ、可能性は恐らくあるだろう。RNは既に、過半数に届かなければ首相は出さないと明言している。形式的には、首相に誰を指名しようが大統領の自由だ。だが、首相は不信任案が提出された場合に、それを乗り切らなければならない。RNが第1党を確保しても過半数に達しなければ、他党との連立を模索する可能性が生じる。マクロン氏にとって問題は、左であれ右であれ極端な主張をする候補を選ばないよう有権者に訴えてきたことだ。これは左派連合を構成する政党の党首で、マクロン氏の改革の多くを撤回すると約束しているメランション氏らとの協力を難しくするだろう。

極右の首相を指名しつつ、その計画をマクロン氏が骨抜きにする可能性は

  制度上、大統領は政府を妨害する一定の余地を与えられている。法案の承認を遅らせたり、年に1回議会を解散させたりすることすらできる。だが、そうしたからと言って結果に少しでも違いが生まれるかは明らかでない。そのような手に出るなら、権力の中心は決定的に首相に移るだろう。別の可能性は、マクロン氏がRNとある種の取引を結び、RNの政策を和らげてマクロン氏の右派寄り閣僚の数人を新政権に送り込もうとすることだ。RNと手を組んだとして汚名を着せられるリスクを踏まえれば、そのような結果もマクロン氏には受け入れがたいかもしれない。

原題:Macron? Le Pen? A Guide to France’s Crucial Election: QuickTake(抜粋)