William Horobin、Alice Gledhill

  • あり得る展開はハングパーラメント、極右の過半数確保に絞られる
  • 1日の市場は朝方上昇も失速、見通しの不透明性を反映

フランス国民議会(下院)選挙の第1回投票の結果を受け、今後のシナリオは2つに狭まった。いずれも投資家にとっては不透明性の長期化を示唆する。

  現時点で議会過半数を狙える位置にあるのは、第1回投票で得票率首位に立ったマリーヌ・ルペン氏の極右政党、国民連合(RN)とその協力政党だけだ。従って、一つのシナリオは極右が支配する新政府の誕生だ。

  もう一つは、今週見られている競合政党の候補者調整や選挙協定が奏功し、RNの過半数獲得を阻む展開だ。その場合、RNが議会内の最大勢力を占めるが、どの政党も過半数を獲得できないハングパーラメントとなる。

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  残ったシナリオは2つとも、政府の安定性や政策、欧州全体への影響で中期的な見通しが不透明だ。1日の市場の反応はそれを物語る。フランス株とユーロは上昇、フランス債とドイツ債のスプレッドは縮小したが、投資家の疑念が戻り上げ幅は縮小した。

  ユニオン・インベストメントのポートフォリオマネジャー、ギュンター・ウェルター氏(フランクフルト在勤)は「1つ明らかなことがある。政治の力学は主流派から非主流派に移りつつある」と指摘。「統治はもっと難しくなる。RNが過半数を握っても、過半数に届く勢力がなくてもだ」と語った。

  定数577のフランス下院で過半数を握るには、289議席が必要だ。調査会社が予測したRNの獲得議席数は最低が230、最高が305だった。以下、最もあり得る2つのシナリオと想定される市場の反応について分析した。

1.ハングパーラメント

  このシナリオの下では、RNが大差で議会の最大勢力になるとしても、バルデラ党首は公約通り少数内閣の首相就任を拒否する。

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国民連合(RN)のバルデラ党首(6月30日)Photographer:Nathan Laine/Bloomberg

  そこでまず問われるのは、マクロン大統領が誰を首相に指名するかだ。政党に属していないテクノクラートの指名は選択肢の一つになる。だが、そのような人物の指名が可能だとしても、反エリートを掲げる勢力が台頭する議会で指導力を発揮するのは難しいだろう。

  中道左派の穏健派など政治的な人物を首相に選んでも、急場しのぎの中道連合の分裂や内閣不信任のリスクになおさらされやすい。

  マクロン氏は自らの企業寄りの改革を進めにくくなる。近く退陣する政府はすでに6月30日遅く、失業手当の改革実施を阻止し、マクロン氏がレームダック化しつつある兆しを示した。

  フランスの財政赤字は国内総生産(GDP)比5.5%と欧州連合(EU)基準の3%を優に上回り、選挙前から財政政策は投資家に懸念されていた。予算案は常に内閣不信任投票を引き起こしがちな火種で、マクロン氏の現内閣が計画し、左派がこぞって反対する歳出削減は阻まれそうだ。

  • 債券:ハングパーラメントの場合、フランス債とドイツ債のスプレッドは60-65ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)に縮小するとジェフリーズは予想。だが、財政面の課題が理由で、選挙前の40-50bpに戻る可能性は低いとみる
  • 株式;債券のスプレッド縮小で、過去3週間に大きく売られた銘柄は反発する公算が大きい。債券利回りへの感応度が高い銀行株が大きく動きそうだ
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2.苦い「コアビタシオン」

  RNとその協力政党が十分な大勝を収め過半数を確保する場合には、いわゆる「コアビタシオン(共存政権)」となる。大統領が国防と外交政策を担うが、内政や経済問題は極右が支配する。こうした形は以前にも起きたが、前回は20年以上も前で、政治的な立場がこれほど違う政敵同士の組み合わせは過去に例がない。

  マクロン氏は2027年までの任期を全うする考えを示しているが、RN党員らはコアビタビシオンになるならマクロン氏は辞任すべきだと主張している。大統領は議会を解散させることもできるが、前回解散から1年は間を置かなければならない。

  過半数確保なら政府はより安定するが、政策見通しはいっそう予測が難しくなる。

  バルデラ氏は保守寄りの有権者を安心させようと、ルペン氏が2022年の選挙期間中に打ち上げた大規模な支出の公約を縮小した。それでもRNは依然として公約の柱に掲げる燃料・エネルギーの売上税減税の実現に取り組まなければならない。同党の試算によると、この政策は通年で120億ユーロ(約2兆800億円)のコストが見込まれるが、資金の手当ては難しいだろう。

  予算協議は市場の大きな注目を集める見通し。RNは現内閣が描く財政軌道を堅持すると約束しているが、選挙公約をほごにすることなしに必要な歳出削減と増税を行うのは困難だ。ルペン氏は過去に反EUの姿勢を打ち出していたこともあり、EUとの関係もぎくしゃくしそうだ。

  • 債券:RN政府が誕生し、財政規則を巡ってEUと衝突する最悪のシナリオでは、フランス債とドイツ債のスプレッドは最大130bpまで広がるとUBSは予想
  • 株式:少なくとも一時的にフランスと欧州の株式には不透明性が広がり、新政府の政策を見極めようと投資家は様子見姿勢を取るだろう。フランス株は先週の安値を再び試し、フランス市場はアンダーパフォームする可能性

原題:France’s Future Narrows: Two Unsavory Scenarios for Investors(抜粋)