[ワシントン 9日 ロイター] – 米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は9日、議会証言で、米経済は「もはや過熱した状態ではない」としたほか、労働市場はパンデミック(世界的大流行)時の極端な状況から「かなり冷え込み」、多くの点でパンデミック以前の状態に戻っているとし、利下げの根拠が強まっていることを示唆した。
上院の銀行委員会で「われわれは現在、両面的なリスクに直面していることを十分に認識している」とし、インフレ率は依然としてFRBの2%目標を「上回っている」ものの、インフレだけが焦点となることはもはやできないと強調。「労働市場は完全にバランスを取り戻したようだ」とした。
それでもなお、「今日この場で金利に関する今後の行動の時期についていかなるシグナルも送るつもりはない」と言明した。
<中銀の独立性>
11月5日の米大統領選前に予定される連邦公開市場委員会(FOMC)は2回。民主党議員から、直ちに利下げを行わないことによる雇用市場へのリスクを巡る質問が出たほか、共和党議員はインフレが家計に及ぼす痛みに関して質問。共和党のケビン・クレイマー議員(ノースダコタ州選出)は「11月5日より前に利下げが実施されれば、悪い印象を与える」と指摘した。
これに対しパウエル議長は、金融政策運営におけるFRBの独立性の重要性を強調。中銀の独立性は世界の主要中銀に共通する取り決めで、政治当局から指示されることなく任務を遂行する自由が与えられているとし、FRBの独立性の利点は「米連邦議会でかなり広く理解されている」と述べた。 もっと見る
<金利高止まりのリスクを懸念>
証言冒頭では、FRBは現在、金利が長期にわたり高止まりした場合の労働市場と経済へのリスクについて懸念していると言及。「今年は当初、2%のインフレ目標に向けた進展が見られなかったが、このところの月次データで一段の緩やかな進展が示されている」とし、「一段と良好なデータが得られれば、インフレ率が持続的に2%に向かっているという確信が強まる」と述べた。
労働省が先週発表した6月の雇用統計で、非農業部門雇用者数は前月比20万6000人増と、健全な伸びを示した。ただ、失業率は前月の4.0%から4.1%に上昇した。 もっと見る
パウエル議長はこれを「依然として低い水準」と指摘。同時に「インフレ抑制と労働市場の冷却の双方で過去2年間に見られた進展を踏まえると、高インフレだけがわれわれが直面する唯一のリスクではない」と述べた。
その上で、過度に長期にわたり、過度に引き締め的な政策を維持すれば経済活動と雇用が過度に弱まり、経済成長が損われる恐れがあるとの考えを示した。
ナティクシスの米国担当チーフエコノミスト、クリストファー・ホッジ氏は、パウエル議長の重点が「FRBの責務の範囲内でリスクのバランスを取ることに少し移った」と指摘。「FRBは雇用に引き続き注意を払わなければならないものの、9月の方向転換に向け基盤が築かれ始めているようだ」と述べた。
パウエル議長の発言後、金融市場が織り込む9月利下げの確率は引き続き70%程度となった。
パウエル議長は10日に下院金融サービス委員会の公聴会で証言する。
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▽FRB議長議会証言:識者はこうみる<ロイター日本語版>2024年7月10日午前 2:48 GMT+9