Bloomberg News

  • 指導者の多くはトランプ氏に懐疑的、それでもプラス要素を手探り
  • 各国ともトランプ氏との人脈構築に躍起、日本は懸念不要との見方

世界の指導者が「第2次トランプ米政権」に向けた準備を加速させ始めた。トランプ前大統領返り咲きの可能性が高まったとの見方が暗殺未遂事件後に強まっているためで、多くが不可避と考えるシナリオへの対応を本格化させている。

  トランプ氏に懐疑的な諸外国の指導者は、同氏の復権がもたらし得る激震を心から懸念している。だが、潜在的なダメージを軽減するだけでなく、恩恵を受ける方策についても模索している。ブルームバーグ・ニュースが各国首脳の心境について取材したところ、バイデン大統領が世界における米国の地位を低下させ始めたとの懸念が浮上しており、トランプ氏に潜在的なプラス要素を求めていることが分かった。

The 2024 Republican National Convention
共和党全国委員会(RNC)で演説するトランプ氏(7月18日)Photographer: Al Drago/Bloomberg

  政府関係者の多くは、バイデン氏は大統領選に出馬すべきではないと内々に語っている。足元では英国から日本に至るまで各国が、トランプ陣営との人脈づくりや関係の再構築を急いでいる。トランプ氏が個人的な関係を非常に重視することを心得ているためだ。取材した多くの政府関係者は米大統領選挙は米国人が決定する国内問題だとした上で、外交上慎重な扱いを要する事柄だとして匿名を条件に語った。

  11月の米大統領選まで多くのことが変わり得るが、米国の友好国も敵対国も、イデオロギーよりもディールを優先する米大統領の誕生へと備えつつある。これはトランプ氏がウクライナを見捨てる、同盟国との関係を軽視する、中国製品に60%の関税を発動するといったリスクを含め、不安定要素が増えるであろうことを意味する。一方で、こうした分野で外交的な突破口を開く交渉の新たな糸口ともなり得る。

  こうした中、世界の指導者はすでに防衛費の増額、ハイテク大手による投資拡大、米国製品の輸入拡大など、想定される取引の一環としてトランプ氏に何を提供できるか検討に着手した。トランプ氏は今回の選挙戦でも1期目と同様、米国がいかに同盟国や主要貿易相手国から搾取されているかに焦点を当てている。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席からウクライナや台湾を守るとの原則よりも、むしろ金銭的なコストを重視する立場だ。

  「トランプ氏は自らを鋭い交渉者だと考えているため、最大主義的な立場をとってから交渉に臨むことが多い」。こう指摘するのは米国防総省の元高官で、シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院のシニアフェローであるドリュー・トンプソン氏だ。「賢明な政府であれば、米国に対する自国の価値を徹底して見直し、次の米大統領が誰であろうと、その価値をどのように明確に提示できるかを検討すべきだ」と話す。

President Biden Departs White House For Nevada
ホワイトハウスでのバイデン米大統領(7月15日)Photographer: Yuri Gripas/Abaca/Bloomberg

  欧州にとって、第2次トランプ政権は複雑な問題を提起する。ロシアが欧州大陸としては第2次世界大戦後で最も破壊的な紛争を続けている時期に、欧州諸国の目前には、米国による追加関税、気候変動対策の野望を巡る隔たり、対米関係の弱体化といったリスクがくすぶる。

UK Prime Minister Keir Starmer Hosts European Political Community Meeting
スターマー英首相(右)とウクライナのゼレンスキー大統領(左)7月18日Photographer: Chris J. Ratcliffe/Bloomberg

  北大西洋条約機構(NATO)に対するトランプ氏の立場は冷ややかで、バンス副大統領候補は対ウクライナ支援に公然と反対。アジアに軸足を移すことを提唱している。英国で18日開催された欧州政治共同体(EPC)首脳会議では、集まった40人余りの指導者の間でこの点が大きな議題となった。

  一方、欧州ではバイデン氏について、すべてがうまくいっているわけではないとの認識もある。バイデン氏に好意的なある仏高官は、バイデン氏はここ長らく不振で、バイデン氏に関して順風満帆であるかのようなふりをするのはやめるべきだと語った。米国の同盟国はバイデン氏を指導者としても個人としても尊敬しているが、肉体的にも政治的にも日に日に弱っており、この現実が外交の場で劇的な影響をもたらしていると、その高官は明かした。

  欧州当局者の間では、国防費増額に向けて共同借り入れを検討する動きも出ている。かつて提案された防衛債は1000億ユーロ(約17兆1300億円)規模が必要だとされてきたが、トランプ氏が返り咲けばその2-3倍が必要になるとの声も上がっている。

  米国が内向き志向を強める中で関心を持たなくなる、あるいは要求を強めるといった事態に直面する国・地域も多いだろう。

  これはまさに台湾の当局者が考えを巡らせている展開だ。台湾は現在、統一を迫る中国の圧力に直面しながらも、米国からは超党派の支持を確保している。トランプ政権時代も米中の貿易戦争が台湾に利益をもたらしてきた。だが、トランプ氏はブルームバーグ・ビジネスウィークとのインタビューで、米国の保護に対し台湾が経費を負担すべきだと語った

  しかしながら、一段と大きな問題は、ウクライナでの紛争でトランプ氏がプーチン氏の勝利を後押しした場合の影響かもしれない。

  台湾・東呉大学の陳方隅・助教授(政治学)は、そのようなシナリオとなれば「台湾市民の間で米国懐疑主義が深まるかもしれない」と指摘する。

  韓国では、米国の核の傘とは別に核兵器保有の是非に関する議論が再燃している。背景には、同盟国のパートナーとしてトランプ氏の信頼性に対する懸念がある。現地メディアは、韓国が在韓米軍の駐留経費負担を巡る米政府との交渉を加速させ、年内の合意を目指していると報じた。

  経済面ではトランプ氏を満足させるために、韓国企業が新たに米国への大型投資を約束しなければならないという認識があると、政府関係者は語った。バイデン氏の看板政策であるインフレ抑制法(IRA)を受けて、複数の韓国企業はすでに数十億ドルを投資しており、容易なことではないという。同法は電気自動車(EV)やバッテリーなど米国での製造回帰を促進するインセンティブを提供するものだ。

  アジアのもう一つの重要な同盟国である日本は、それほど懸念していない。自民党の麻生太郎副総裁は4月、トランプ氏に面会。故安倍晋三元首相がゴルフ外交で成し遂げたようなトップレベルの接触で関係の再構築を目指した。 

  元駐米大使の藤崎一郎氏は、トランプ氏の返り咲きを心配する必要はないと述べる。トランプ氏は既知の存在であるほか、岸田文雄首相は防衛費を増やし、巡航ミサイル「トマホーク」の購入契約を結ぶなどトランプ氏が好む方向で多くのことを行ったためだという。

  また米製造業の競争力強化に向けてドル安を求めるトランプ氏は、日本にとっては追い風になる可能性があるとも指摘。円相場が対ドルで歴史的な安値に沈む中で、日本政府にとっては恵みの雨を提供するとの見方を示した。

原題:World Races to Prepare for Deal-Making Trump With Biden on Ropes(抜粋)