Ryan Vlastelica、Carmen Reinicke
- AIイベント以降、少なくとも5社が投資判断を引き上げ
- 予想PERは10年平均を約50%上回る、楽観論は見当違いの声も
ハイテク大手はいずれも人工知能(AI)分野のリーダーになれるとの市場評価を得るため躍起になっている。だが、アップルほどそれに成功している企業はないだろう。
アナリストの間では6月発表のAI機能を搭載した新型「iPhone(アイフォーン)」が発売されれば、長年旧型モデルを持ち続けていたユーザーの買い換えを促し、アップルの成長が再加速するとの見方が強まっている。このイベント以降、少なくとも5社が投資判断を引き上げており、ループ・キャピタルはアップルの割高感が強まる中で強気に転じた。
ハーディング・ローブナーのアナリスト、イゴール・ティシン氏は、昨年はAIで後手に回っているように見えたアップルだが、足元では「非常にうまくやっている」と語る。その上で「短期的にどれだけ収益につなげられるか不明だが、最初の一歩を乗り越えれば、2ー3年目にはAIがアップルに極めて大きな価値をもたらす」との見方を示した。投資判断は「買い」としている。
ループのアナリスト、アナンダ・バルア氏も、AIがiPhone需要を大幅に押し上げると予想。15年前にiPhoneがソーシャルメディアの普及に貢献したように、アップルは向こう数年で生成AIの「ベースキャンプ(拠点)」としての確固たる地位を築くだろうとリポートで記述した。ループの投資判断引き上げにより、アップルのコンセンサスレーティング(買い、ホールド、売りの投資評価の比率を示す指標)は4.2と、昨年11月以来の高水準となった。
AIイベントに対する好意的な反応が追い風となり、アップルの株価は4月の安値から36%値上がり。時価総額は約9000億ドル(141兆7100億円)拡大し、再び世界首位の座に返り咲いた。その結果、バリュエーションは過去の水準を上回っている。株価指数に占めるウエートが大きいことを踏まえると、アップル株価の動向が市場全体にも大きな影響を及ぼし得る。
アップルの予想株価収益率(PER)はおよそ31倍。10年平均を50%余り上回っているほか、2021年初頭以来の高水準近辺だ。当時のアップルは一段と速いスピードで成長しており、金利もはるかに低かった。
AIがもたらす潜在的利益を市場が過大評価しているとの声もある。とりわけスマートフォンが発売されてからアップグレードサイクルが実体化するまでに時間がかかり得るためだ。
UBSでは期待される「AIのスーパーサイクル」が実現する「可能性は低い」とし、将来の成長に対する楽観論は見当違いだと述べている。
「スマートフォン需要を地域、過去のサイクル、所得データ、携帯通信会社の補助金などを踏まえて分析した結果、来年のサイクルはより緩やかなものになると考えられる」と、デービッド・ボグト氏率いる同行のアナリスト陣は指摘。投資判断は「中立」とした。
足元の投資判断引き上げを受けても、ウォール街は他の超大型ハイテク株よりもアップルに対して幾分懐疑的なようだ。マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、エヌビディアの買いを推奨するアナリストの割合が90%近いかそれ以上であるのに対して、アップルは70%にも満たない。また、アップルの株価はアナリストの平均目標株価をすでに上回っており、AIを巡る熱狂が一巡したであろうことを示唆している。
もっとも、AIがもたらす成長の機会は来年明らかになりそうだ。アップルの2024年9月期売上高は1.1%増、25年9月期は7.7%増に伸びが加速すると見込まれている。純利益は24年度が7.8%増、25年度が10.5%増となる見通しだ。
それでも伸びは「マグニフィセント・セブン」を下回る。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によると、同グループの売上高は今年9.5%増、来年は12.2%増に伸びが加速し、純利益もアウトパフォームすると予想されている。
原題:Apple’s AI iPhone Turns Skeptics Into Bulls and Raises Stakes(抜粋)