コラムニスト:リーディー・ガロウド

May I have some coffee with that buyout?
May I have some coffee with that buyout? Photographer: Bloomberg/Bloomberg

セブン-イレブンのコンビニエンスストア体験は現代日本の真骨頂だ。これが元々は日本のものでなかったことを思い出すのも難しい。

  米国生まれのセブン-イレブンだが、日本1号店は半世紀前、東京・豊洲にオープンし、最初に売れたのはサングラスだった。数十年後、日本の「コンビニ」は大成功を収め、日本側がセブン-イレブンの米国法人を買収した。

  しかし今、少なくともカナダのアリマンタシォン・クシュタールの思い通りになれば、米国のセブン-イレブンは北米の支配下に戻るかもしれない。

  サークルKを運営するクシュタールはセブン-イレブンの親会社セブン&アイ・ホールディングスに買収を提案。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によると、提示額は860億ドル(約12兆5000億円)にも上るとされる。この大胆な買収提案は、日本の小売業界に波紋を広げている。

  セブン-イレブンの登場以来、小売業界が見違えるほど変化したように、日本のM&A(企業の合併・買収)環境も、閉鎖的で外国企業による買収を阻止してきたわずか15年前とは一変した。

  政府は昨年、日本のM&A市場をさらに活性化することを目的とした新たな行動指針を発表。取締役会に対し、買収提案があった場合には株主にとっての利益を考慮するよう促し、過去数年であれば即座に退けられていたであろう買収提案も誠実に検討するよう求めた。

  だが、それでも、セブン&アイが買収を受け入れるというのには、無理があるように感じられる。買収が実現すればもちろん、外国勢によるこれまでの日本企業買収を大きく超える規模になる。

  セブン-イレブンは無名の部品メーカーではない。全国の都道府県に存在し、人口の6分の1に相当する約2000万人が毎日利用する、身近で愛されているブランドだ。

  セブン-イレブンはまた、コンビニエンスストアのパイオニアでもある。1970年代におにぎりの販売を始め、ジャスト・イン・タイムの在庫管理で、安くて新鮮で驚くほど栄養価の高い食品を豊富に店頭に並べている。

  請求書の支払いや現金の引き出しを24時間いつでもできるようしたことで、午後3時や週末に閉まってしまう銀行の独占状態も打破。手頃な価格の淹(い)れたてのコーヒーの提供や、最近では食事の宅配でドミノ・ピザに対抗する計画まで、より必要不可欠なものとなり続け、地元住民や当局はコンビニを災害時の重要なライフラインと見なすようになっている。

  しかし、こうしたことはいずれも投資家の心を動かさない。2015年にサード・ポイントの創業者、ダン・ローブ氏がセブン&アイ株を取得し、同社は初めて物言う株主(アクティビスト)とやりあうことになった。以来、同社は多くの改革を行ってきた。

  現在の最高経営責任者(CEO)でローブ氏が認める井阪隆一氏を任命し、スーパーマーケット事業を縮小。そごう・西武の百貨店チェーンは売却した。自社株買いも開始。しかし、それでも株価はローブ氏が株式買い入れを発表する前と同じ水準付近で取引されている。バリューアクト・キャピタル・マネジメントは最近の株価動向への不満から、井阪氏の更迭を試みた。

  経営陣の最新の一手は、米国での積極的なコンビニエンスストア事業の拡大だ。日本のように食品の選択肢を拡充することで業績を伸ばせると考えている。

  一方、セブン&アイが営業利益の40%余りをコンビニ事業から得ている日本では、クシュタールに買収されれば、かえって質が落ちるのではないかという懸念がある。

  日本の消費者は海外の小売店について、選択肢の少なさや質の低いサービスをしばしば嘆く。それが、日本の小売業が長年にわたって幾つかの外国勢の墓場となってきた理由の一つだ。

  米ウォルマートや英テスコ、それにクシュタールが買収を試みたフランスのカルフールなど、多くの小売企業がコスト削減をもくろみ華々しく日本にやって来たが、日本の消費者は外国流のやり方にそっぽを向いた。

  同僚のコラムニスト、クリス・ヒューズ氏が指摘しているように、クシュタールが買収を成功させるには「よりうまくショーを運営し、望ましいスケールメリットを引き出す」必要があるだろう。観光客や動画アプリ「TikTok」ユーザーに愛されるコンビニ体験を可能にする「あったらいい」商品に照準を定めるような取り組みだ。

  セブン-イレブンよりはるかに少ない店舗数にもかかわらず、クシュタールの時価総額はセブン&アイの2倍近い。その多くは円安によるものだが、それだけではない。

  仮に正式に買収が成立したとして、次は当局の審査に回る可能性が高い。しかし、あらゆる業種において、日本企業の経営陣は当局によって救われると期待すべきではない。今回の買収提案は警告となるはずだ。 企業評価の向上は、必要以上においしいコンビニのたまごサンドのような「あったらいいな」的な選択肢ではなく、存亡に関わる問題に急速になりつつある。

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(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:7-Eleven Buyout Would Stretch Japan M&A Appetite: Gearoid Reidy(抜粋)