金持ちを応援しているわけではないが、もしハリが実現すれば米国経済は破綻するのではないか、そんな懸念が頭をよぎる。カマラ・ハリス副大統領が11月に実施される大統領選の候補者に決まってから、米大統領選挙の様相が一変した。自民党の総裁選挙と同様に「刷新感」が有権者の「期待感」に変わり、トランプ氏の銃撃事件で圧倒的な優位を確保したかにみえた共和党が、ハリス氏の勢いに飲み込まれようとしている。もっともこれは日本のメディアを通じて報じられる日本語情報を、日本で見ている普通の生活者の一般的な印象にすぎない。本場・米国の有権者はもっと別の角度から今回の大統領選挙を眺めているのかもしれない。日本メディアの偏った情報を日本語で見ている普通の生活者として、それでもカマラ・ハリス大統領には気になる要素が多い。パリ協定からの再離脱など、もしトラにも憂慮すべき公約がいっぱいある。それでもトランプ氏は融通無碍、悪いと思えばすぐに手のひらを返す。ハリス氏はどうだろうか・・・。
選挙公約の類をほとんど語らいないのがハリス氏の特徴でもあるが、8月16日ノースカロライナ州における演説で珍しく公約を語った。大前提は「生活費の引き下げ」。これが公約の一丁目一番地といっていいだろう。具体的には①食品価格の安定②住宅問題の解決③生活費の負担軽減。①では食品価格の不当な引き上げを禁止する制度を創設、②では初めて住宅を購入する人に2万5000ドル(約369万円)を支援、③としては子供が生まれた家庭に6000ドル(89万円)の減税を行う。選挙だから有権者の歓心を惹こうとするのは致し方ない。でもそれが法人税の引き上げ、富裕税の強化になると“アレッ”と思うような公約が登場する。まるで共産国家のようだ。極め付けは「含み資産課税」だ。「1億ドル(145億円)以上の資産を持つ富裕層に対しては、換金されていない投資の含み益に対してもキャピタルゲインとして25%の税を課す」としている。実現すれば富裕層は制度発足前に大量に株を売るだろう。株の大暴落は保有比率の高い庶民の家計にも多大な影響を及ぼす。
ハリス氏の公約はほとんどがバイデン政権から引き継いでいる。独自に新しく提案した公約は、筆者の知る限りほとんどない。そんな中でこの含み資産課税は極めてユニークだ。というよりこんなことをして市場経済を大前提にしている米国経済は維持できるのだろうか。不安というか心配になる。前提条件は1億ドル以上の資産をもつ富裕層となっている。一般庶民にはほとんど関係がない。それはそうなのだが、米国の富裕層が日常的に実施している財団とか資産管理会社など法人にもこの課税は実施されるのだろうか。税率はキャピタルゲイン課税と同じ25%だという。よく引き合いに出されるのはイーロン・マスク氏だ。同氏はさまざまな会社を経営しているが給与はほとんど受け取っていない。代わりに報酬として株式を受け取る。その株を売却しても税金は25%で済む。所得税の最高税率は37%だ。だいぶ安い。民主党のバフェット議員はもっと幅広い含み益課税を提案している。もしハリは本気でも建前でも、経済に重大な影響を及ぼす。本人はそこまで考えているのだろうか・・・。