ことしのノーベル平和賞は、被爆者の立場から核兵器廃絶を訴えてきた日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会が受賞することになりました。核兵器のない世界を実現するための努力と核兵器が二度と使用されてはならないことを証言によって示してきたことが受賞理由となっています。日本のノーベル平和賞受賞は、1974年の佐藤栄作元総理大臣以来、50年ぶりです。
記事後半では広島や長崎の関係者、世界各地の平和団体などの声をお伝えしています。
目次
68年間にわたり核兵器廃絶 世界に訴える活動
日本被団協は、広島や長崎で被爆した人たちの全国組織で、原爆投下から11年後の1956年に結成されました。当時は、日本のマグロ漁船、「第五福竜丸」の乗組員が、太平洋のビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験で被ばくしたことをきっかけに国内で原水爆禁止運動が高まりを見せていました。
日本被団協は、それから68年間にわたり、被爆者の立場から核兵器廃絶を世界に訴える活動や被爆者の援護を国に求める運動を続けてきました。
東西冷戦のさなか、国連の軍縮特別総会に3回にわたって代表団を派遣し、被爆者が、みずからの体験をもとに「ノーモア・ヒバクシャ」と訴え核兵器の廃絶を迫りました。
また、国連や世界各地で原爆の写真展を開くなど地道な活動を続け、原爆投下から60年となる2005年のノーベル平和賞の授賞式では、ノーベル委員会の委員長が、日本被団協について「長年、核廃絶に取り組んできた」と敬意を表しました。
核兵器の開発や保有などを法的に禁止する核兵器禁止条約の交渉会議では、日本被団協が中心となっておよそ300万人分の署名を集め採択を後押ししました。
その後は、すべての国が条約に参加することを求める「ヒバクシャ国際署名」を続けておよそ1370万人分あまりの署名を国連に提出。また、核兵器禁止条約は2021年1月に発効し、おととし6月にオーストリアで開かれた初めての締約国会議では、日本被団協から派遣された被爆者が核兵器廃絶への思いを訴えました。
近年では新型コロナウイルスの影響や被爆者の高齢化によって被爆体験を伝える催しの中止や縮小を余儀なくされてきましたが、オンラインを活用して被爆者の証言を伝える取り組みにも力を入れています。
ノルウェー・ノーベル平和委員会は、日本被団協の受賞理由について、核兵器のない世界を実現するための努力と核兵器が2度と使用されてはならないことを証言によって示してきたことが評価され、平和賞の受賞に至ったとしています。
日本のノーベル平和賞は、非核三原則を表明し、NPTに署名をした佐藤栄作元総理大臣が1974年に受賞して以来、50年ぶりです。
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受賞理由 “草の根の運動で核兵器ない世界実現のために努力”
ノルウェーの首都オスロにあるノーベル平和賞の選考委員会は、ことしの受賞者に日本被団協を選んだ理由について「日本被団協は“ヒバクシャ”として知られる広島と長崎の被爆者たちによる草の根の運動で、核兵器のない世界を実現するために努力し、核兵器が二度と使われてはならないと証言を行ってきた」と評価しています。
受賞について選考委員会は「1945年8月に原爆の攻撃を受けて、核兵器を使うと壊滅的な結果になるという認識を広げるため、精力的に活動する世界的な運動が生まれた。核兵器の使用は道徳的に受け入れられるものではないとする強力な国際的な規範が形づくられ、『核のタブー』として知られるようになった。この中で広島と長崎の被爆者の証言は、唯一無二のものだ」としています。
そして「被爆者たちは個人の体験を語り、キャンペーンを作り出し、核兵器の拡散と使用に関して緊急の警告を発することで、世界中で反対する声を広めそれを強化するのに貢献してきた。被爆者は筆舌に尽くしがたいことを言い表し、考えることさえできないようなことを考え、核兵器によって引き起こされた計り知れない痛みと苦しみを何とか理解してもらうのに貢献している」と、核兵器廃絶運動における被爆者の貢献を評価しました。
また、1945年8月以降、核兵器が戦争で使われていないことについて「日本被団協や、ほかの被爆者たちのなみなみならぬ努力によって核のタブーは定着してきた」と高く評価しています。
その一方、選考委員会はいま、核保有国は核兵器の近代化を進め、核兵器の保有を準備しているようにみられる国もあるとして「人類の歴史の中で、今こそ核兵器とは何なのかを思い起こす意義がある。核兵器は世界がこれまでに経験した中で最も破壊的な兵器だ」と強く指摘しました。
さらにアメリカが広島と長崎に原爆を投下し、多くの人の命が失われてから来年で80年になることに触れながら「いまの核兵器ははるかに強力な破壊力がある。何百万人もの人々を殺害し、気候にも壊滅的な影響を及ぼす可能性がある。核戦争は私たちの文明を破壊するおそれもある」と警鐘を鳴らしました。
そして「ノーベル賞の選考委員会は、ことしのノーベル平和賞を日本被団協に授与することで、肉体的な苦痛やつらい記憶にもかかわらず、大きな犠牲を伴う経験を平和への希望に捧げてきたすべての被爆者をたたえたい。いつの日か、被爆者が存在しなくなるときが来るだろう。しかし、記憶をとどめる継続的な取り組みによって、日本の新しい世代は被爆者たちの経験とメッセージを継承している。彼らは世界中の人たちを鼓舞し、伝え続けている。彼らは核兵器をタブーにするという、人類の平和な未来に不可欠な条件を維持することに貢献している」と、日本被団協や被爆者たちの活動を受け継ぐ意義も強調しました。
委員長「被爆者の話に耳を傾けることを望む」
ノルウェー・ノーベル平和委員会のフリードネス委員長は、日本被団協の受賞理由を発表したあと、記者団の質問に応じました。
記者団が「いま、軍事的な衝突が世界各地で起きている中、委員会が世界の指導者たちへ発信するメッセージは何か」と質問すると「被爆者のメッセージや証言は核兵器を使うことがいかに容認できないものかを思い起こさせる重要なものだ。私たちは被爆者の声を聞くべきだ。すべての指導者が、核兵器は2度と使われてはならないという被爆者の話に耳を傾けることを望む」と述べました。
《関係者談話》
被団協 箕牧智之代表委員「本当にうそみたい」
ことしのノーベル平和賞に日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会が選ばれたことを受けて箕牧智之代表委員は「本当にうそみたいだ」と涙を流して喜びました。
日本被団協の箕牧智之代表委員は、広島市役所でノルウェーのオスロで行われたノーベル平和賞の発表の様子をネットの配信を通して見守りました。日本時間の午後6時ごろに日本被団協がことしのノーベル平和賞に選ばれたことが発表されると「夢の夢。うそみたいだ」とほおをつねって、涙を流して喜びました。
その上で、ともに核兵器廃絶を訴える活動を行い3年前に亡くなった箕牧さんの前の広島県被団協の理事長で、日本被団協の代表委員だった坪井直さんについて「坪井さんのようにこれまで活動してきた被爆者も喜んだと思う。お墓に報告に行きたいと思う」と話していました。
また今後の活動について問われると「引きつづき核兵器廃絶、恒久平和の実現を世界のみなさんに訴えていきたいです」と話していました。
被団協 事務局長 木戸季市さん「必要なのは武力ではなく対話」
ことしのノーベル平和賞を、被爆者の立場から核兵器廃絶を訴えてきた日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会が受賞することになり、事務局長を務める岐阜市在住の木戸季市さん(84)は「核兵器禁止が世界共通の願いだと真正面から捉えてもらった。本当にうれしい」と喜びを語りました。
木戸さんは長崎市出身で、5歳の時に爆心地からおよそ2キロ離れた自宅近くで被爆し、顔に大やけどを負いました。29歳で岐阜市に移り住み、岐阜県に被爆者団体をつくり、2017年からは日本被団協の事務局長を務め、国際会議などで核廃絶を訴えてきました。
ノーベル平和賞の受賞が決まったことを受け、岐阜市内でNHKの取材に応じた木戸さんは「核兵器禁止条約の採択と発効を実現させた長年の被爆者の奮闘に対する答えだと思う。核兵器の禁止が世界共通の願いだと真正面から捉えてもらった。本当にうれしい」と喜びを語りました。祝福の電話が相次ぎ、涙ぐみながら応じていた木戸さんは「世界に強く訴えたいことは、紛争をなくすために必要なのは武力ではなく対話だということ。そして世界はそちらのほうに向かっていると強く感じています」と話していました。
広島県被団協 佐久間邦彦理事長「被団協の役割 今後非常に重要」
もう1つの広島県被団協の佐久間邦彦理事長は「受賞が決まった時、被爆者の顔がたくさん目に浮かび、被団協の役割は今後、非常に重要なんだと感じました。核のない世界を実現していくために日本政府も核兵器禁止条約に批准してもらって、世界をリードしてほしい。我々も政府と一緒に頑張っていかなければいけないと思った」と話していました。
第五福竜丸 元乗組員の遺族「父もきっと喜ぶだろう」
70年前、太平洋のビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験で被ばくした静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の元乗組員の遺族からは評価する声が聞かれました。
焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員だった見崎進さんは、1954年、南太平洋で操業中、アメリカが太平洋のマーシャル諸島のビキニ環礁で行った水爆実験で放射性物質を含んだいわゆる「死の灰」を浴び、入院しました。見崎さんは地元の中学生や高校生に体験を語り、核兵器に反対する活動を続けていましたが、5年前に92歳で亡くなりました。
見崎さんの長女の西子瞳さん(66)は、日本被団協のノーベル平和賞受賞について「本当にすばらしいことだと思う。父のように、原水爆で思ったような人生を送れなくなった人は多い。父もきっと受賞を喜ぶだろう」と心境を話しました。その上で、「世界では戦争や核はなくなっておらず、心が痛む。早く核廃絶が実現してほしい」と話していました。
韓国原爆被害者協会「被爆者が平和賞もらうのはありがたい」
ことしのノーベル平和賞に日本被団協が選ばれたことについて、2歳の時に広島で被爆した韓国原爆被害者協会のシム・ジンテさんはNHKの取材に対して「感謝している。被爆者が平和賞をもらうのはありがたいと思う」と述べました。
一方で、国際社会では核廃絶の動きが進んでいないと指摘した上で「ノーベル賞の受賞が決まったことは称賛に値するが、果たしてそれが実践に移り、核兵器を手放すことにつながるのか。いまは技術が開発されて途方もない被害が出るとみなければならないので、核兵器は絶対にあってはならない」と述べ、核の廃絶を強く訴えました。
広島 松井市長「市としても一緒になって取り組んでいきたい」
広島市の松井市長は記者団に対し「被爆地広島を代表して改めて心からお祝い申し上げたい。被団協の皆さんが核兵器禁止条約の成立に向けて国際署名活動をされて、1370万筆を超える署名を集め、条約発効の原動力になったことを評価されたのではないか。現下の世界情勢を考えた時、こうした取り組みを知らせることで現下の状況を改め、流れを食い止めるための警鐘にする意味があるのではないか。とても素晴らしいことで、市としても一緒になって取り組んでいきたい」と述べました。
その上で、松井氏は「自分たちが遭った被害が後世代に決して起こることがないように願い、憎しみや悲しみを乗り越えて全人類共通の課題として対処していこうという訴えがようやくノーベル平和賞の中で認められたということだと思う。今まで訴えを続けて、すでに亡くなられた方がたくさんいらっしゃるが、こうした方々の思いがようやく世界に届いたのではないかと思う」と述べました。
広島 湯崎知事「国際的な流れにノーベル財団が釘を刺した」
広島県の湯崎知事は、記者団に対し「核兵器を強化すべきという国際的な流れに今回ノーベル財団が釘を刺したということだと思う。その意味をしっかり受け止め、被爆者の皆さんが2度と他の誰にも味わわせたくないと言う意味をかみしめることが必要だ」と述べました。その上で、湯崎氏は「受賞を契機として、世界中の人々が改めて核兵器廃絶に取り組む強い決意を持って行動していくことを期待したい。県としても核兵器のない国際社会の実現に向けた進展に貢献できるよう取り組んでいきたい」と述べました。
広島 核兵器廃絶への機運高まってほしいという声
広島市では、受賞を祝うとともに核兵器の廃絶に向けた機運が高まってほしいという声が聞かれました。
爆心地付近にあった実家の寺が原爆で全焼したという府中町の75歳の女性は「被団協の訴えが実ったのは地元としてうれしいです。無念の思いで亡くなった人がたくさんいますので、これが核兵器廃絶につながっていかなければいけないと思う」と話していました。
父親が被爆者だという広島市南区の83歳の男性は「受賞はすばらしいことで本当によかったと思います。日本政府は被爆国として核兵器反対の運動をしてほしい」と話していました。
長崎 鈴木市長「世界が大きく舵を切る契機となること期待」
日本被団協がノーベル平和賞を受賞することが決まったことについて長崎市の鈴木市長は「被爆地・長崎を代表して心からお祝いを申しあげます。平均年齢が85歳を超える被爆者の皆様の長年の地道な取り組みが世界に認められた証しであり、混迷を極める国際情勢の中で『核兵器のない世界』の実現に向け、世界が大きく舵を切る契機となることを期待しています」とするコメントを発表しました。
長崎 大石知事「核兵器廃絶に向けた行動が広がることを期待」
長崎県の大石知事は県庁で取材に応じ「日本被団協の長年にわたる核兵器のない世界を実現するための努力と多岐にわたる取り組みが世界に認められたものであり、これまでの取り組みに心から敬意を表する」と話しました。
その上で「被爆者の方が直接訴える体験は大きな力があり、国際情勢の厳しさが増すなかで訴える方が減っていくことは重く受け止める必要がある。核兵器の存在が未来への脅威になることを世界の一人ひとりが自分事として受け止めることが必要で、今回の受賞を契機に国際社会全体で核兵器廃絶に向けた行動が広がることを心から期待している。引き続き『長崎を最後の被爆地に』という強い思いを胸に、核兵器のない世界の実現に向けて取り組んでいきたい」と話しました。
石破首相「極めて意義深いこと」
石破総理大臣は、訪問先のラオスで記者会見し「被団協にノーベル平和賞が授与されることが決定された。長年、核兵器の廃絶に向けて取り組んできた同団体にノーベル平和賞が授与されることは極めて意義深いことだと考えている」と述べました。
岸田前首相「長年のご努力に対する評価」
総理大臣として、去年のG7広島サミットで、アメリカをはじめとする各国首脳の原爆資料館への訪問を実現した、自民党の岸田前総理大臣は、旧ツイッターの「X」にコメントを寄せました。
岸田氏は「『核兵器のない世界』の実現に向けて努力を積み重ねていくことは唯一の戦争被爆国であるわが国の使命だ。ノーベル平和賞受賞は、被爆者の思いや被爆の実相の継承、核兵器のない世界と恒久平和実現に向けた長年のご努力に対する評価であり、心からお喜び申し上げます」としています。
林官房長官「核ない平和な社会目指し努力積み重ねてきた」
林官房長官は総理大臣官邸で記者団に対し「誠におめでたいことで、心からお祝いを申し上げたい。私も外務大臣時代から取り組んできた問題で、厳しい状況にあるからこそ核のない平和な社会を目指して一歩一歩努力を積み重ねてきたし、被団協の皆さまがたゆまぬ歩みを続けてこられたことを目の当たりにしてきた。大変、素晴らしい受賞だ」と述べました。
その上で「調整が整えば、石破総理大臣からもお祝いの電話をされると思う」と述べました。
ICAN 川崎哲 国際運営委員「後押しの意味込められている」
日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことについて、2017年にノーベル平和賞を受賞したICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの川崎哲国際運営委員は「被爆者の方々がずっとご苦労されながら活動してこられたのを近くで見てきたので、わがことのようにうれしい。被爆者の方々がつらいことを思い出しながら被爆の経験を語ってきて下さったことへの敬意がノーベル委員会の言葉の中にも込められていた」と話していました。
また、世界で核の脅威が高まる中での受賞となったことについて「核兵器が本当に使われるかもしれないという危機的な状況に対して警鐘をならすことをノーベル委員会は考えたのではないか。ICANが受賞した時もそうだったが、ノーベル平和賞というのは、いま、この行動が必要なんだという後押しの意味が込められており、今回、被団協が受賞したことは改めて世界が被爆者の声に耳を傾けて、核兵器が使われたら何が起きるのかということをしっかりと考え、核兵器廃絶に向けて行動していこうというメッセージになる」と述べました。
その上で「今回は核廃絶のための受賞だが、被爆者の平均年齢が85歳を超える中で実際の行動をしていくのは私たちの責任だ。来年は被爆80年となり世界に大きな声を上げるタイミングになっていくので、今回の受賞を唯一の戦争被爆国である日本のみんなの力にして、核兵器の廃絶と平和の達成のために行動していく必要がある」と訴えました。
2017年に平和賞受賞 ICAN「たゆまぬ努力続けてきた」
国際NGO、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンはSNSに「おめでとう。広島と長崎の被爆者は核兵器がもたらす壊滅的な影響に対する人々の問題意識を高め、核兵器を廃絶するためにたゆまぬ努力を続けてきた」と投稿し、祝意を示しました。ICANも2017年に平和賞を受賞しています。
去年 平和賞受賞者「多くの人たちに希望をもたらす」
去年、平和賞を受賞したイランの人権活動家で首都テヘランの刑務所に収監されているナルゲス・モハンマディ氏の関連団体は11日、SNSにコメントを投稿しました。
この中で「平和への道のりは暗く破壊的な戦争を通して見いだすことはできず、あなたたちの活動は多くの人たちに希望をもたらす」と受賞の意義を強調しました。その上で「核兵器のない世界を実現しようとする努力と、核兵器を二度と使わせまいとする証言によって平和賞に選ばれた。被爆者の力強い証言を通じ、核兵器がもたらす破滅的な結果について啓発してきた影響力のある活動が認められた」と称賛しました。
国連 軍縮部門トップ「受賞は世界への強烈なメッセージ」
ことしのノーベル平和賞に日本被団協が選ばれたことについて、国連で軍縮部門のトップを務める中満泉事務次長はSNSに投稿しました。
そして「これほどうれしいニュースはありません。何度もお会いした被団協の方々は、とてつもなく強じんかつ穏やか寛容で、世界をより平和で安全にするために力を尽くしている方々です。私たち国連も絶えずインスピレーションとエネルギーをいただいています」と祝意を示しました。
そのうえで「核兵器の脅威が再び高まるいまこそ、被爆者の方々の声を真剣に聞き、核兵器のもたらす惨害を正確に理解し、核軍縮・核廃絶に早急に、真剣に取り組まなければなりません。今回の受賞は、被爆者の方々の長年の努力への賞賛であると同時に、世界への強烈なメッセージでもあります」として、今回の受賞決定の意義を強調しました。
EU委員長「私たちは記憶にとどめる義務を負う」
EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は自身のSNSに「今回の賞は、力強いメッセージを送っている。私たちは記憶にとどめる義務を負うとともに、次の世代を恐怖から守るさらに大きな責務を負う」と投稿し、祝意を表しました。
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識者「被団協の立場は正しいと評価されたのではないか」
長年、核軍縮の研究に携わってきた、国際政治学・平和研究が専門で明治学院大学の高原孝生名誉教授は「驚くとともに飛び上がって喜んでいる。被団協は報復の連鎖を断ち切り、核兵器を1発も使わせないという考え方で活動を続けてきており、受賞は非常に意義がある。平和が核兵器によって保たれているとする核抑止論を明確に拒否し続けた被団協の立場は正しいと評価されたのではないか」と話していました。
海外メディアも速報で伝える
イギリスのBBCやアメリカのCNNなどの海外メディアも日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞に選ばれたと速報で伝えました。
また、アメリカのAP通信は、ことしのノーベル平和賞に日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会が選ばれたことについて「中東、ウクライナなど世界各地で起きている壊滅的な紛争を背景としている」として、ウクライナ情勢をめぐってロシアが核兵器使用の可能性を示唆するなど国際社会で核に対する懸念が高まるなかでの決定だったという見方を示しています。
◇過去にも核軍縮に向けて取り組む人物や団体を評価
ノーベル平和賞の選考委員会は、過去にも核軍縮に向けて取り組む人物や団体を評価して、賞を授与してきました。
【1974年】
「核を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を宣言し、アメリカなど5か国以外の核兵器保有を禁止するNPT=核拡散防止条約に署名した佐藤栄作元総理大臣が、平和に貢献したとして、日本人として初めて受賞しました。
【1985年】
IPPNW=「核戦争防止国際医師会議」が、世界の人々に核戦争がもたらす壊滅的な被害について信頼できる情報と理解を広めたとして受賞しました。
【1995年】
核兵器廃絶を訴える科学者で作る「パグウォッシュ会議」と、会議の創設者で会長を務めていたジョゼフ・ロートブラット氏が受賞しました。
【2005年】
査察などを通して核兵器の拡散防止に取り組むIAEA=「国際原子力機関」と、事務局長を務めていたモハメド・エルバラダイ氏が受賞しています。
【2009年】
アメリカのオバマ元大統領が「核兵器なき世界」を目指すとして、ロシアとの間で戦略核兵器削減条約を締結するなど、核の脅威に取り組む姿勢が高い評価を受け、就任1年目で受賞しました。
【2017年】
核兵器の開発や保有などを禁じる初めての国際条約「核兵器禁止条約」が採択されるのに貢献したとして国際NGO、「ICAN」=「核兵器廃絶国際キャンペーン」が受賞しています。
◆核めぐる世界の動向は
世界の軍事情勢を分析するスウェーデンの研究機関「ストックホルム国際平和研究所」の報告書によりますと、ことし1月時点の世界の核弾頭の推計の総数は、去年より391発減り、1万2121発となっています。
国別に見ますと
▽保有数が最も多いのがロシアで5580発
▽次いでアメリカが5044発で、
いずれも去年よりも数を減らしていますが、この2か国だけで世界のおよそ9割を占めています。
一部の国では、核を増強する動きも見られ、中国は去年より90発多い500発、北朝鮮は20発多い50発を保有しているとみられています。
また、核弾頭のうち実戦配備済みの状態のものは、3904発と、去年と比べて60発増えていて、ロシアや中国で、ミサイルなどへの搭載が進んでいるとみられます。
さらに、ウクライナへの侵攻を続けるロシアは去年、アメリカとの核軍縮条約「新START」の履行について一時的に停止すると一方的に表明したほか、ウクライナ情勢を巡って核の威嚇を繰り返しています。
また、核・ミサイル開発を加速させている北朝鮮のキム・ジョンウン総書記は今月行った演説の中で「敵がわが国に武力行使を企てるならば、核兵器の使用も排除しない」と述べ、韓国を強くけん制しました。
核兵器の廃絶を目指す国際デーにあわせて先月、演説した国連のグテーレス事務総長は「冷戦以来、これほどまでに核兵器の脅威が暗い影を落としているときはない。核による威嚇は最高潮に達し、核兵器を使用する脅しさえ聞かれるようになった」と述べ強い危機感を示しました。