日銀は31日まで開いた金融政策決定会合で、いまの金融政策を維持することを決めました。政策金利を据え置き、短期の市場金利を0.25%程度で推移するよう促します。
植田総裁は、今後の利上げの判断にあたってアメリカ経済の先行きをめぐるリスクを念頭に、これまで繰り返し「時間的な余裕がある」と発言し慎重に検討する考えを示していましたが、31日の決定会合後の会見ではアメリカ経済のリスクは低下しているという認識を示しました。
目次
「米経済のリスク低下」さまざまなデータ点検し利上げ検討
植田総裁は今後の利上げの判断にあたって、アメリカ経済をリスク要因のひとつに挙げ、会見や講演で繰り返し「時間的な余裕がある」と述べて、時間をかけて慎重に検討していく考えを示していました。
31日の会見ではアメリカの経済について、「データが少しずつ改善し、市場も少しずつ安定を取り戻している。さらに経済統計に限ると、ここ1か月くらいはかなり良いものが続いている」と述べ、これまでよりリスクが低下しているという認識を示しました。
そのうえで「今のような良い動きが続けば、時間的な余裕を持って見ていくという表現は不要になる」と述べました。
ただ「アメリカ経済のリスクが大きく低下したからといって、直ちに次の判断に進めるというわけではない」としています。
植田総裁は「アメリカ経済に関するある種のリスクに特に注目することはいったんやめて、普通の金融政策決定のやり方に戻る」として、会合ごとにさまざまなデータを点検して利上げを検討していく考えを示しました。
《植田総裁会見 発言詳しく》
「経済・物価の見通し実現すれば金利引き上げ」
植田総裁は、今後の金融政策について「先行きの経済・物価、金融情勢次第だが、現在の実質金利が極めて低い水準にあることを踏まえると、経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている。そのうえで、アメリカをはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある」と述べました。
利上げのタイミング「予断持たず政策判断」
植田総裁は、今後の利上げのタイミングについて「タイミングについて予断を持っておらず、毎回の決定会合においてその時点で利用可能な各種のデータ、情報から経済物価の現状評価や見通しをアップデートしながら政策判断を行っていく方針だ」と述べました。
「『多角的レビュー』12月会合後に公表」
植田総裁は、1990年代後半からの25年間の金融政策を分析する『多角的レビュー』について「今回の会合では取りまとめに向けた討議を行った。次回12月の金融政策決定会合において引き続き議論を行ったうえで内容を取りまとめ会合後に公表することを考えている」と述べました。
米経済見通し「利上げの影響不透明 動向注視が必要」
植田総裁は、今後のアメリカ経済の見通しについて「アメリカ経済を巡ってはこれまでの利上げが経済物価に及ぼす影響など不透明な部分が、まだなお大きいと判断しており、その動向を注視していく必要があると考えている」と述べました。そのうえで、「アメリカの大統領選挙後の新政権の政策運営、それが日本に及ぼす影響については他国の政治情勢に関わるものですので具体的なコメントは差し控えたい」と述べました。
リスク要因の米経済「完全に安心できるところまでいかず」
植田総裁は、リスク要因の1つに挙げているアメリカ経済について「データが少しずつ改善し、市場も少しずつ安定を取り戻している。さらに経済統計に限るとここ1か月くらい出ている統計についてはかなり良いものが続いている。それでもなお、完全に安心できるところまではいっていない」と述べました。
一方で「もう少し見て今のような良い動きが続けば、普通のリスクと同等のところになる。そういう意味でこのリスクに光を強く当てて、『時間的余裕を持って見ていく』という表現は不要になるのではないかと考え、きょうも使っていない」と述べました。
賃金と物価の動向「価格転嫁の動き確認 広がりを丁寧にみたい」
植田総裁は、賃金と物価の動向について「賃金上昇の動きがサービス価格に反映してくるかどうかについては、ある程度、サービス価格への転嫁の動きが広がっていることは確認できた。ただ、全国でみてそうか、今後も一段と広がっていくのかを丁寧にみていきたいと思う。また、支店長会議でヒアリングしたところ中小企業を中心にまだ価格転嫁が容易でないという声も散見される状態だ。引き続きモニターしていきたい」と述べました。
個人消費「緩やかな増加傾向と判断」
植田総裁は、個人消費の動向について「非耐久財のところを見ると弱めの動きが出ているが、それ以外のところは緩やかな増加基調だ。あるいは耐久財については自動車でいったん下がったあとリバウンドするという動きも見られる中で、全体としてはごくわずかなプラスの成長率、緩やかな増加傾向を続けていると判断している」と述べました。
米経済「新大統領の政策次第で新たなリスクも」
植田総裁は、アメリカ経済について「ダウンサイドリスク=下振れリスクの見方が少しずつクリアになりつつあるというのが現状だ。ただ当面、アメリカ経済が所得も消費も強いというのが続いたとしても、その上で新しい大統領が打ち出してくる政策次第では、新たなリスクが出てくるということは申し上げるまでもない。そこは、また新たなリスクとして各会合で点検していきたい」と述べました。
賃金動向「伸び続けば 見通し実現の確度高まる」
植田総裁は、賃金の動向について「所定内給与でみるとおおむね3%、対前年比の伸び率という姿になってきている。これが続けば、私どもの見通しが実現する確度が少しずつ高まっていくということにつながっていくと思う」と述べました。
利上げの条件「経済・物価の見通し実現に自信持てるか判断必要」
植田総裁は、利上げをするための条件について「例えばアメリカ経済がことし8月ころのリスクと同じ程度だとなかなか次のステップは難しいと思う。ただリスクが大きく低下したからといって、直ちに次の判断に進めるというわけではない。基本的には私たちの経済・物価の見通しが実現していくということについて、どれくらいの自信を持てるかということをいろんなデータから判断していくということに尽きるかと思う」と述べました。
「普通の金融政策決定のやり方に戻る」
植田総裁は、これまでリスク要因として挙げていたアメリカ経済の分析について『時間的余裕がある』という表現をなくしたことについて「アメリカ経済に関するある種のリスクに特に注目することはいったんやめて、普通の金融政策決定のやり方に戻るということだ。毎回毎回、データと情報を点検して判断していくことになる」と述べました。
「利上げの影響は毎回確認する必要」
植田総裁は、政策金利を引き上げる際に考慮すべき点として、「長い間本格的な利上げの局面はなかったという中では利上げによって、あるいは利上げが続いていくことによって、思ってもみなかったマイナスの効果が出てくるということも十分考えないといけないので、毎回毎回利上げをしてその影響を確かめつつ次を考える動きを続けざるをえないと思っている」と述べました。
衆院選結果 金融政策への影響「基本姿勢を説明 堅持が大事」
植田総裁は、衆議院選挙の結果が日銀の金融政策に与える影響について問われると、「私ども金融政策は経済物価見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き金融緩和度合いを調整していくという基本的な姿勢を繰り返し説明し、それを堅持していくということが大事だと思っている」と述べました。
日銀 政策金利据え置き決定 金融政策決定会合
日銀は31日まで2日間の日程で金融政策決定会合を開き、いまの金融政策を維持することを決めました。
政策金利を据え置き、短期の市場金利を0.25%程度で推移するよう促します。
日銀はことし7月に追加の利上げを決めたあと先月の会合では政策金利を据え置き、それに続く金融政策の維持となります。
日銀は賃金や物価の動向、それに大統領選挙を間近に控えるアメリカ経済の先行きを慎重に見極めるべきと判断したとみられます。
また、今回の政策決定にあわせて今後の経済・物価の見通しをまとめた「展望レポート」を公表し、この中で、今後の金融政策については「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」として利上げを検討していく姿勢を改めて示しました。
ただ「アメリカをはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視する」として、アメリカ経済の動向を慎重に見ていく必要性を強調しています。
一方、市場関係者の間では今月行われた衆議院選挙で政治情勢が不透明になったとして、日銀は今後利上げを進めにくくなるのではないかという観測が出ています。
官房長官「2%の物価安定目標 持続的で安定的な実現期待」
林官房長官は午後の記者会見で「日銀には引き続き政府と密接に連携を図り、経済・物価・金融情勢を踏まえつつ、2%の物価安定目標の持続的で安定的な実現に向けて適切な金融政策運営を行うことを期待している」と述べました。
“来年度の物価見通し +1.9%” 日銀「展望レポート」
日銀は、今年度から2026年度までの経済と物価の最新の見通しを示す「展望レポート」を公表しました。
「展望レポート」は3か月ごとに公表しています。
それによりますと、生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で、2024年度が前の年度と比べて+2.5%となり、前回7月の見通しと同じ水準でした。
2025年度は+1.9%となり、前回の見通しと比べて0.2ポイント低くなりました。
このところ原油などの資源価格が下落していることが主な要因だとしています。
2026年度は+1.9%となり、前回の見通しと同じ水準となっています。
また、物価の見通しをめぐる今後のリスクとして、前回7月の時点では「2024年度と2025年度は上振れリスクのほうが大きい」としていましたが、今回の展望レポートでは2025年度のみとなっています。
日銀は「物価安定の目標」として2%の上昇率を掲げていますが、今年度から2026年度までの期間の後半には、目標におおむね整合的な水準で物価が推移するとみています。