日産自動車が今期(2025年3月期)業績見通しを大幅に引き下げたことを受け、当初計画の甘さに改めて厳しい視線が注がれている。年間の販売台数計画と実績がずれることは常態化しており、市場や部品サプライヤーとの信頼関係にも影を落としている。
当初の年間販売台数計画に実績が届かなかったのは23年度までの9回のうち8回に及び、うち4回は1割超の下振れとなった。すでに今期も期初計画比で8.1%下方修正した。
同期間にトヨタ自動車で実績が計画を1割超下回った年は一度もない。20年度にはコロナ禍で先行きの見通しが難しいとして期初に慎重な見通しを示し、逆に実績は1割超上振れた。ホンダも1割超の下振れは、半導体不足の影響があった21年度と22年度の2回にとどまった。
背伸びした計画を立てるのはカルロス・ゴーン元会長の時代からの「日産の体質」だと、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の吉田達生シニアアナリストは指摘する。ゴーン氏が社長を退任してから約7年半が経つが、現経営陣はいまもなおゴーン式経営から脱却できていない。
1999年に経営危機に陥った日産に出資した仏ルノーから最高執行責任者(COO)として送り込まれたゴーン氏は黒字回復など野心的な数値目標を「コミットメント(必達目標)」に掲げ、いずれかでも達成できなければ経営陣全員が辞任すると公約した。全てのコミットメントは前倒しで達成され、業績はV字回復した。
ただゴーン氏のその後の拡大路線はインセンティブ(販売奨励金)拡大による値引き販売でブランド価値の低下を招いた。内田誠社長がゴーン時代に見たそんな悪循環が主力車種の高齢化で魅力的な商品が乏しくなった日産で、繰り返されつつある。
同社にとって最大市場である北米で23年4-9月期に2414億円の営業黒字だったが、今期はインセンティブ拡大による収益圧迫などで41億円の赤字に転落した。
過去10年の時価総額は、約6兆円だった2015年をピークに減少傾向が続く。直近は1.5兆円規模となっており、トヨタ、ホンダ、スズキ、スバルに次ぐ5番目だ。
泥縄式
SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは、日産の販売計画の精度が近年「異様に低い」と断じる。計画が未達でリストラなどの対策を「泥縄式」に講じるのが「ずっと続いている感じがする」という。
日産は7日に発表した第2四半期決算で、主力の米国や中国の販売不振を理由に今期の利益計画を引き下げ、大規模なリストラ策も公表。
内田氏は決算説明会で、今期の販売計画が「ストレッチ(背伸び)した台数になっていたというのは結果として否定できない」と述べ、無理があったことを認めた。販売計画の精度を「われわれがきちっと見ていける体制」を構築する考えを示した。
落ちた信頼
有言不実行の日産を、市場もサプライヤーも冷めた目で見ており、今後もこうした状況が続けば信頼関係にさらにひびが入る可能性もある。
週刊ダイヤモンドによると、7月24日から9月17日に自動車メーカーの取引先企業に行ったアンケートで、大手自動車メーカーの「生産計画(内示)の具体性、確からしさ」を5段階評価してもらったところ、日産の得点はトヨタやホンダを下回った。
BIの吉田氏は、日産が示す計画を自身は「ちょっとどころかいつも信じていない」と語った上で、同社の部品サプライヤーも同様だと指摘。日産の示す台数を信じれば損をする可能性があるため「サプライヤーはみんな日産からくる内示台数を割り引いて」実際の対応をしている、と吉田氏は述べた。
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