Sam Dagher

  • アサド大統領の将来は同盟国次第、ロシアとイランいずれも弱体化
  • アサド氏失脚でもシリアは混乱か、指導者の空白が生じる可能性

シリアの反政府勢力は最近の戦果を足掛かりに、制圧地域を一段と広げる狙いだ。アサド大統領が権力を維持できるのか、疑問が浮上している。

  15年にわたり続くシリア内戦が今後どのような展開をたどるのかは不透明性が大きく、国内の敵対関係だけでなく、強力な外国勢力の思惑にも左右される。アサド氏(59)にとっては、イランとロシアが重要になる。イランはシリアをイスラエルや西側に対抗する「抵抗の枢軸」の一員と見なし、大規模な地上軍を長年提供。ロシアは冷戦時代からシリアの同盟国で、2015年には同氏を守るために軍事介入した。

  シリアに空軍基地を持つロシアが9年前と同様に反政府派に対して徹底的な空爆を始めれば、戦況は大きく変わるだろう。当時と違うのは、ロシアがウクライナとの戦争に手一杯なことだ。

  アサド氏の下、シリアの住民は貧困と物資不足、停電に苦しんでいる。同国の非政府組織(NGO)や国連機関によると、内戦でこれまでに30万-50万人が死亡。700万人が家を失い、少なくとも640万人が難民となった。内戦による被害総額は5000億ドル(約75兆円)近くに上るという。

  現時点で以下のような疑問が生じている。

アサド大統領の終わりが来たのだろうか?

  アサド大統領に妥協の気配は全くない。同氏一族は50年にわたってシリアを支配し、内戦中も権力を維持してきた。反政府勢力の猛攻で軍の防衛線が急速に崩壊した後、同氏はモスクワに飛んだと伝えられたが、1日にはダマスカスに戻り、イランのアラグチ外相と会談した。

  イランのペゼシュキアン大統領は2日にアサド大統領と電話で会談。イランはイスラム革命防衛隊の将校から成るチームをシリアに派遣したと、同国の国営メディアは報じた。シリア軍はアレッポの反政府勢力拠点を空爆したほか、中部の都市ハマの北部に軍を結集させ、反政府勢力の進軍を阻止しようとしている。

  反政府勢力の牙城とされ、トルコとの国境に隣接する北西部のイドリブ県にも、シリア軍は空爆を行った。

アサド氏が譲歩する可能性は?

  今回の攻勢が始まる前、アサド氏はアラブ諸国やトルコ、西側、ロシアからも政治改革を実施して反政府勢力に交渉の機会を与え、難民帰還の促進と近隣諸国への麻薬流入阻止に力を入れるよう圧力を受けていた。

  要求の中には、ヒズボラなどイランの代理勢力に兵器を輸送する中継地としての働きをシリアがやめることも含まれていたが、アサド氏はこれまで、イランの揺るぎない支援に頼ってこうした要求に抵抗してきた。仮に同氏が要求の一部で譲歩するとしても、シリア軍と政府支持派の戦力が弱体化していることを踏まえると、反政府勢力が交渉に応じるかは不明だ。

  「これはアサド氏の頑なな姿勢が招いた必然的な結果だ」と、国外に亡命したシリア軍将校のイッサム・アルレイエス氏は政府の支配地域喪失について述べ、「アサド氏は政治的解決を拒絶し、軍と経済は悲惨な状態にある」と続けた。

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ロシア国営通信スプートニクが配信した、今年7月にプーチン大統領と会談したシリアのアサド大統領Photographer: Valery Sharifulin/AFP/Getty Images

アサド氏失脚なら、後継者は誰に?

  それは恐らく答えの難しい質問だろう。反政府勢力がダマスカスに入り、アサド氏を失脚させることに成功しても、考えられる結果の一つは混乱とシリアのさらなる分裂だ。アサド氏自身が属するイスラム教アラウィ派を中心とする体制支持派は、ラタキアやタルトスなどの沿岸都市周辺にある拠点に退却する公算が大きく、指導者の空白が生じるだろう。

  アサド政権からの離反者や外国に亡命した反体制派の支持も受ける反政府勢力が、シリアをまとめるため現在とは別の権力構造を考え出す可能性もある。アサド退陣後のシナリオの一つは、文民統治を支持する軍事評議会を発足させ、その両方のトップに反政府勢力と体制支持派が受け入れられる人物を据えることだ。

反政府勢力は何者か?

  現在攻勢をかけている反政府勢力の主力は、「シリア解放機構(HTS)」だ。同組織はかつて国際テロ組織アルカイダに忠誠を表明していたヌスラ戦線を前身とし、米国などがテロ組織に指定している。1万5000人の戦闘員がいるとされ、アサド政権の支配が及んでいないシリア北西部の一部地域で地方統治の経験がある。

  HTSには、トルコを後ろ盾とする反体制派の「国民解放戦線」から数千人の戦闘員が加わっている。トルコが支持するもう一つの集団であるシリア国民軍(SNA)は主に北部で、米国の支援を受けるクルド人民兵組織に対し独自の作戦を開始している。

  アサド氏にとって最も懸念される展開は、政府軍が領土を奪還した後に北部に避難していた数千人の元反政府勢力が再び武器を手に取り、攻勢に加わることだ。ダルアーとその周辺を中心に、南部でも反政府勢力が動き始めつつある。HTSは他の反政府勢力との過去の対立を棚上げにし、イスラム主義的な傾向を薄めている。

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政府軍に銃を向ける兵士(11月29日、アレッポ近郊)Photographer: Bakr Alkasem/AFP/Getty Images

ロシアはどうか?

  アサド氏が権力を維持するつもりであれば、ロシアが次に何をするかが重要な鍵を握る。シリアにおける米国とその同盟国の影響力が低下した一方で、ロシアは同国の権力を影で操る存在となった。

  ロシアは2016年からイランやトルコと交渉し、アサド派によるアレッポなどの領土奪還を可能にした。当時と比べロシアが持つ資源が縮小していることを考慮すると、プーチン大統領はアサド氏に大幅な譲歩を受け入れるよう圧力をかけるか、ウクライナ問題での広範な解決に向けた交渉材料として同氏を見捨てる可能性がある。

  とは言え、シリアはロシアにとって引き続き重要な同盟国であり、ロシアの海軍基地や軍事資産を抱えているため、プーチン氏が完全に手を引くとは考えがたい。

他の外国の反応は?

  イランはこれまでに、アサド政権を支えるためにあらゆる手を尽くす決意を表明し、同国が支援するイラクの民兵組織がシリア方面に向かっているとの報告もある。イスラエルや米国との対決で地域の代理勢力を頼りにするイランの前方防衛ドクトリンにとって、シリアは極めて重要な地域だ。

  イラクやレバノンなどを拠点とするイラン支援の民兵組織は、2011年3月の民衆蜂起でシリア政府軍が崩壊した後、アサド政権の領土奪還を後押しした。しかし、シリアに大きなプレゼンスを維持するレバノンのヒズボラは、イスラエルとの1年2カ月にわたる戦争で著しく弱体化した。

  シリア北部ではトルコの存在感が圧倒的だ。事情を直接知る関係者によると、トルコは当初、HTS主導の攻勢に反対したが、アサド氏が政治改革とシリア難民帰還を巡るエルドアン大統領との会談を拒否したことを受け、考えを変えた。トルコ国内には300万人余りのシリア難民がいる。

  トルコはまた、テロリストと見なすクルド人民兵組織をシリア反政府勢力がアレッポやタルリファートからあまり流血の事態を起こさずに駆逐したことで自信を付けてもいる。このクルド人民兵組織は米国の支援を受けている。

原題:Syria’s Assad and Iran Face Tough Choices as Rebels Advance (1)(抜粋)