今期(2025年3月期)に過去最高益を見込む3メガ銀行グループ。好調な国内外の事業収益に加え、多額の政策保有株の売却益で資本余力はかつてなく高まっており、海外展開のさらなる拡大に弾みがつきそうだ。
3メガの海外展開において米国とアジア、とりわけインドの優先度が高い。各社とも買収や人材採用などに経営資源を積極的に配分していく方針。将来の糧となる分野に成長投資をしなければ、企業価値の一層の向上は望めないためだ。
目標とする中核的自己資本(CET1)比率に各社到達しており、今後政策株の売却加速でさらなる資本の積み上がりが期待できる。国内潜在成長率は低水準にあることからも「海外戦略を行えるプレーヤーは得意領域に経営資源を投下し、持続的成長を模索すべきだ」とシティグループ証券の丹羽孝一アナリストは指摘する。
3メガの海外展開において最近盛り上がりを見せているのはインドだ。高い経済成長に伴う企業や家計の資金需要のほか、今年過去最高の調達金額を記録する見通しの新規株式公開(IPO)市場などは各社にとって魅力的に映る。
インドをアジア戦略の重要な柱とする三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、同国での融資残高を今後数年で300億ドル(約4兆5000億円)と倍増する目標を掲げ、リライアンス・インダストリーズなど現地の大手財閥グループに積極的に食い込む。
アジア戦略を統括する板垣靖士執行役専務は「コンベンショナル(伝統的分野)とデジタルの両方でM&A(企業の合併・買収)が必要だ」とし、インドを含めたアジアで1件当たり数千億円規模の投資案件もあり得るとした。
関係者によると3メガバンクとも、米検察当局に贈賄などの罪で起訴されたインド新興財閥アダニ・グループの創業者ゴータム・アダニ氏との関係を維持する方針だという。
「これまでの自己資本充実に重きが置かれたステージから、成長と還元強化のバランスを図るステージに移行してきた」。16年ぶりの自社株買いを発表して市場を驚かせたみずほフィナンシャルグループの木原正裕社長は11月の投資家説明会でこう述べた。
みずほFGはインドでプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社やベンチャーキャピタル企業に焦点を当てた新たな分野への進出を検討。早ければ来年にも新分野の事業を開始したい考えだと事情に詳しい関係者が明らかにしている。
インドにおける買収・出資案件ではみずほFGと野村ホールディングスが同国最大の投資銀行の一つ、アベンダス・キャピタルの過半数の株取得に向けた入札に参加していることも明らかになっている。
メガバンク各社はインドでの中間所得層の広がりを背景に、個人向け金融でも今後高い成長を見込む。三井住友フィナンシャルグループは今年、インドの金融子会社「SMFGインディア・クレジット・カンパニー」に追加出資し、100%子会社化した。
三井住友銀行でグローバルバンキング部門共同統括責任役員を務める百留秀宗専務執行役員は「今後も必要な資源投入を継続しつつ、高い経済成長の果実をしっかりと捕捉していく」と述べた。
みずほFGで海外事業を担当する武英克副社長も「ホールセールからリテール、投資銀行領域から商業銀行領域まで、あらゆるビジネス機会を追求していきたい」とインド事業への期待を寄せる。
ピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは「株価純資産倍率(PBR)が1倍に届くか届かないかという中では、一層の資本の活用が課題になる」と指摘。その上で「非連続な成長を遂げられるかどうかの鍵はM&Aなどの投資戦略が握る」との見方を示す。
米国事業
3メガとも北米においてはアジアとは違ったアプローチを採る。CIB(コーポレート&インベストメントバンキング)モデルと呼ばれる企業や機関投資家向けの商業銀行と投資銀行業務を一体的に手掛ける事業に主軸を置いて展開している。
MUFGは08年のモルガン・スタンレーへの出資を機に同社との提携をテコに北米での事業を拡大してきた。米国では協働範囲をさらに広げ、ミドルマーケットと呼ばれる中堅企業を対象とした分野で資金調達やM&Aアドバイザリーの需要を取り込んでいく。
現地の投資銀行を活用するという点では、みずほFGが昨年、グリーンヒルを買収。米国で事業展開する中でミッシングピースとされたM&Aアドバイザリー業務の機能を手に入れた。
「米州は最大のフィープールを持つが、みずほは歴史的に存在感が低かった」と米みずほ証券のジェリー・リッツィエーリ社長兼最高経営責任者(CEO)は振り返る。「われわれの目標は米州でトップ10となり、その地位を確固としたものにすることだ」と意気込む。
三井住友FGも21年7月に戦略的資本・業務提携を結んだジェフリーズ・ファイナンシャル・グループとの提携をさらに拡大させる。非日系企業を中心に資金調達やM&Aアドバイザリーなどのサービスを提供しており、2社の協働案件数は累計で9月末時点で159件に上る。
メガバンクの海外展開についてブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の伴英康アナリストは「今までも海外で事業を行ってきているが、本当のグローバリゼーションはこれから。現地に精通した人材を確保し、東京から運営できるガバナンス体制を作ることができるかが課題となる」と指摘した。