Patrick Clark、Neil Callanan、Jack Sidders
- ローンの貸し手は我慢の限界に、売却額が購入額を下回るケースも
- 金利上昇で借り換えが困難に、コスト上昇の悪影響も
金利上昇で商業用不動産が「信用の砂漠」と化した2022年の暗黒時代、業界の永遠の楽観主義者たちには、いちるの望みがあった。25年まで生き残れというものだ。そのころにはインフレは落ち着き、もっと安く資金調達でき、需要は再び有利な方に傾くと期待されていた。
しかし、それは希望的観測に過ぎなかった。借り入れコストは依然として高止まりしており、ローンの貸し手は我慢の限界に達しつつある。
新年が近づくにつれ、業界はこれまで先送りしてきた損失に備えつつある。不動産関連証券に投資するバルデ・パートナーズの不動産部門責任者、ティム・ムーニー氏は「2025年は清算の年になる」と述べ、「貸し手も借り手も、金利低下で救われることはないと認めるだろう」と続けた。
ブルームバーグによる商業用不動産担保証券(CMBS)データの分析によれば、11月に米国では延滞が急増し、オフィスビルのローンの10%余りが返済未払いとなった。オーナーは資金調達の時間がなくなりつつあり、キャノンヒル・キャピタル・パートナーズやピムコのコロンビア・プロパティ・トラストのように、すでに降参したところもある。両社は最近、ニューヨーク市ローワーマンハッタンの物件を2億5500万ドル(約392億円)で売却したが、これはローン完済に必要な額を1500万ドル下回るものだった。
新型コロナ禍でオフィスビル需要が急減して以来、商業用不動産は恐怖におびえている。ロックダウンが金融システムに波及するという初期の懸念は的外れとなったが、2022年の急激な金利上昇は業界全体に大混乱をもたらした。
ほとんどの不動産は、多額の最終支払いを必要とする比較的短期のローンで資金調達されている。通常、その支払いは新規ローンで賄われるが、金利の上昇により、借り換え後の返済額が賃料から得られる現金よりも高くなる可能性がある。MSCIによると、2022年以降、オフィスの価値は平均23%、住宅は平均20%下落している。
建物の価値が下がると、貸し手は新たな融資をしたがらなくなるため、多くの家主はローンが満期を迎えてもさらに融資を受けることが難しくなる。銀行もビルを欲しがらないため、借り手に猶予を与え、問題を先送りにする。この戦術を業界関係者は「延長と偽り」と呼んでいるが、これは2008年の世界金融危機の際に形ができあがった。当時、評価はさらに厳しくなったが、金利がゼロに近づいていたため、銀行は積極的にローン期間を延長し、減損しないふりをすることをいとわなかった。今回は貸し手の立場が強くなったことで、貸し手は借り手に譲歩を求めることが多くなり、銀行は時にこれを「修正と延長」と呼ぶ。
1年前、ブルックフィールド・アセット・マネジメントは、シティーポイントと呼ばれるロンドンのオフィスビルのローン4億5900万ポンドの12カ月延長を交渉し、100万ポンド近い一時金と月々の支払いを若干増やすことで合意した。今のところ、この延長された期間はブルックフィールドの投資回収には役立っていない。この取り組みに詳しい関係者が匿名を条件に話したところによると、ブルックフィールドは9月に、2016年に支払った金額より10%余り低い約5億ポンドでの売却を提案したが、入札価格はそれを大幅に下回っている。ブルックフィールドはコメントを拒否した。
シティーポイントは別の圧力も浮き彫りにしている。テナントや従業員へのアピールを高めるために施す、ビルの改修費用の高騰だ。借り手と貸し手の対応が遅れれば遅れるほど、テナント離れのリスクが高まり、評価がさらに悪くなる。建設コストの上昇やテナントの要求の高まり、環境規制の強化などにより、その傾向はさらに強まっている。そのため、オーナーは借り換えを希望する場合、改修に必要な資金をさらに多く用意する必要がある。あるいは、より高いコストを考慮した買い手からのオファーを受け入れるしかない。
空売り会社マディ・ウォーターズは、商業不動産関連企業の衰退に賭けている。同社の創設者カーソン・ブロック氏は、金利の急低下につながるような景気下降がなければ、貸し手にとって遅延が功を奏することはないだろうと話す。むしろ、第2次トランプ政権が減税や関税といったインフレをあおるような政策を推し進めると予想。「金利が格段に低下するとは思えない」と述べた。
その結果、借り手はローンを返済できず、貸し手は物件を引き取りたがらないという袋小路に陥る。RXRが所有するヘルムズリー・ビルは、マンハッタンのグランド・セントラル・ターミナルの上に建つ35階建てのタワーで、事実上そのような事態に陥った。このローンは2023年12月に満期を迎える前に問題があると指摘されたが、RXRはビルのアパートへの転換を検討するために時間的な猶予を得た。それはうまくいかず、貸し手は差し押さえに動いたが、RXRはまだ交渉中だとしている。
悲観論者は、遅延と祈りに傾いた業界が事態を悪化させたと言う。ニューヨーク連銀によると、2023年からの5年間に返済期限を迎える商業用不動産ローンは銀行資本の40%に相当し、2020年の水準の2倍余りになる。さらに悪いことに、ニューヨーク連銀の研究者によると、資本力の低い銀行ほど問題融資を延長する傾向が強く、この先さらなる災難が待ち受けている。
欧州では、規制当局が銀行に対し、評価額の低下を考慮して融資の価値を減額するよう圧力をかけている。ウェルスマネジャー、スプリング・インベストメンツのジャッキー・イネケ氏は、伝統的な金融機関は金利の上昇によって利益が拡大したため、それを実施するのに有利な立場にあると指摘。米国では、監督当局はより寛大だが、銀行、特に中小の金融機関は、商業用住宅ローンに大きく傾いており、最終的には、帳簿上のあやふやなローンを認めざるを得なくなる。「多くの問題はそこにある」とイネケ氏は言う。
規制当局による取り締まりがない限り、損失計上はゆっくりと進むだろう。別のシナリオでは、中央銀行が突然金利を引き下げて、不動産の評価が上がり、業界に待望の命綱がもたらされるかもしれない。しかし今のところ、建物の売却や差し押さえが行われるたびに、市場には新たなデータが提供され、借り手と貸し手は不動産の真の市場価値を目の当たりにしている。つまり、2025年まで問題を先送りしても根本的な問題は解決されなかったと、CWキャピタルのアセットマネジャー、アレックス・キリック氏は言う。ほとんどのオーナーがローンを完済できる状態にはまだないが、「2023年終盤に奈落の底に身投げするのも解決策でなかった」と述べた。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Office Real Estate Is Facing ‘a Year of Reckoning’ in 2025(抜粋)