Joe Deaux、Josh Wingrove
- 米国の象徴USスチール、政治論争の的に-外交にも影響か
- 日鉄とUSスチールは法的措置追求へ、他に選択肢も
バイデン米大統領は3日、日本製鉄による141億ドル(約2兆2200億円)規模のUSスチール買収計画を阻止する決定を下した。米国の象徴的企業であるUSスチールは、買収計画を巡って国内政治の激しい論争の的となり新たな不確実性に直面。バイデン米大統領による計画阻止は、長年の同盟国である日本との緊張も高める。
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USスチール買収計画を巡っては、国家安全保障上の問題を審査していた対米外国投資委員会(CFIUS)で意見がまとまらず、最終判断が先月、バイデン氏に委ねられた。バイデン氏の決定を受けて、同社の株価は日本製鉄が提示した1株当たり55ドルを大きく下回る水準に下落した。
トランプ次期米大統領が政権発足準備を進める中、1901年設立のUSスチールが今後取り得る道筋は幾つかあり、起こり得る展開を以下に挙げる。
バイデン氏の決定は覆される可能性があるか?
ハードルは高い。米国の法律では、国家安全保障上の脅威とみなされる取引を阻止する権限が大統領に与えられていることが明確に規定されている。
しかし、USスチールと日本製鉄は手続き上の理由から異議を申し立てる可能性がある。CFIUSは昨年8月下旬に両社に書簡を送り、取引が国家安全保障を脅かすものであると指摘した。両社は100ページを超える書簡を送付しワシントンでのCFIUSの委員会と面談。審査の再申請が認められた。
一連の出来事は異例だ。企業には通常、案件に問題があると警告され対処の時間が与えられる。だが、今回のケースでは、こうした警告期間が与えられなかったため、訴訟の可能性が残った。だが、それでも勝訴するのは難しいかもしれない。
今後の展開は?
USスチールと日本製鉄は3日、バイデン氏の動きは米国憲法上の「適正手続きとCFIUSを規律する法令に明らかに違反している」とし、「法的権利を守るためにあらゆる措置を追求する」との共同声明を発表した。
声明は「われわれはバイデン大統領が自身の政治的思惑のために米国の鉄鋼労働者の未来を犠牲にすることに他ならないと考える。買収完了時にUSスチールの株主に対して1株当たり55ドルを支払うとの約束を果たすべく、法的権利を守るためのあらゆる適切な措置を講じる」とした。
ブルームバーグ・ニュースは以前、USスチールと日本製鉄が今回の案件に関し共同で訴訟を起こす可能性が高いと報じていた。訴訟が具体的にどのような形式になるかは明らかではないが、両社の株主の利益を損なうと判断したさまざまな当事者を訴える公算が大きい。
違約金はあるのか?
買収が実現しない場合、日本製鉄はUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払うことが合意に含まれていた。政府によって取引が阻止されたにもかかわらず、支払いは依然として必要。
買収阻止は日米関係にどんな意味を持つのか?
この案件は重要な同盟国との関係に緊張をもたらすものであり、米国の対中競争において極めて重要。今回の決定は、米国のいかなる同盟国や産業も、国家安全保障に関する調査を免除されることはないとのメッセージでもあり、鉄鋼を戦略的分野として扱うという超党派の動きが継続していることを示すものだ。
トランプ次期大統領は、米国内で10億ドルを投資する意思のある国に対しては、承認を迅速化するとソーシャルメディアに投稿している。だが、日本製鉄による買収については外国資本にUSスチールが所有されることへの懸念を背景に阻止する考えを表明している。
USスチールの追求できる他の選択肢は?
法的措置以外にも、USスチールの取締役会が取り得る選択肢はある。会社全体または部分的に売却する是非を再検討する可能性が高い。
昨年、クリーブランド・クリフスは現金および株式で1株当たり54ドルの買収案をUSスチールに提示したが、日本製鉄が示した全額現金による1株55ドルでの提案に劣ると広く受け止められた。クリーブランド・クリフスや他の買い手候補が交渉のテーブルに戻ってくる用意があるかどうかは不明。
取締役会は、2023年の入札プロセスで議論されたように会社分割を検討する可能性もあり、その選択肢の場合、古い資産から新しい施設を切り分けることを意味する。もちろん、USスチールが売却対象を提示せず、日本製鉄による買収提案が始まる前の経営に戻るというシナリオも考えられる。
鉄鋼労組にとっての意味は?
バイデン氏の決定は、全米鉄鋼労働組合(USW)のデービッド・マッコール会長にとって大きな勝利だ。マッコール氏は計画発表当初から一貫して批判的で、この騒動の初期段階でバイデン氏からの支持を獲得することに成功した。買収を支持していた組合員の多くが、マッコール氏ら労組執行部による計画反対姿勢をどう受け止めるかは問題として残る。
USWは3日の声明で、バイデン氏の決定を「組合員と米国の安全保障にとって正しい行動だ」と称賛した。
日本製鉄の今後は?
衰退する日本市場への依存を減らし、中国の大手メーカーに対抗することを目指した今回の買収が実現していれば、日本製鉄は世界3位の鉄鋼メーカーとなっていた。日本製鉄は今後、他の成長市場での取り組みを強化する可能性があり、アナリストらはインドをその一つとして指摘している。
原題:Biden’s Veto of US Steel Deal Raises Multitude of New Questions(抜粋)