伊藤純夫、藤岡徹
- 米新政権始動と国内政治不安定で動きづらい、円安も強い懸念なく
- 利上げは急がず、今後は年2回のペースで3年かけ政策金利2%へ
元日本銀行審議委員の桜井真氏は、米新政権の動向を中心に先行き不確実性が高まっている中で、日銀による追加利上げは今月よりも3月になる可能性の方が大きいとの見解を示した。
桜井氏は8日のインタビューで、トランプ次期米政権の政策とその影響を中心に先行きの不確実性が足元で高まっており、「日銀は動きづらい状況にある」と語った。20日にトランプ氏が大統領に就任しても不透明な状況が続くため、日銀は今年の春闘の数字を確認したいだろうと指摘。追加利上げは3月の金融政策決定会合が6-7割、今月23、24日の会合が3-4割のイメージとの見方を示した。
日銀の植田和男総裁は、追加利上げを見送った昨年12月の会合後の会見で、米新政権の政策の影響や春闘などを注視していく考えも示し、市場が想定する追加利上げのタイミングも後ずれしている。金融政策予想を反映するオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS) 市場での足元の利上げ予想は、1月が5割弱、3月が3割程度となっており、桜井氏の見方は市場よりもやや慎重といえそうだ。
日本の不安定な政治情勢も金融政策に微妙な影響を与える可能性があると桜井氏はみている。石破茂首相の政権運営を「想定以上にしたたか」と評価しつつも、少数与党という状況下では、政策の実現に野党との交渉が不可避になるなど時間がかかってしまうと指摘。通常国会で2025年度予算案の審議も始まる中で、日銀としても「やりにくいという感じは持っているだろう」と語った。
植田総裁のハト派的な発言や、その後の日銀からの情報発信などを受けて外国為替市場では再び円安が進行し、足元で1ドル=158円台と重要な節目である160円に再び迫っている。昨年7月の0.25%への利上げでは、円安による物価上振れリスクの高まりも判断の一因になった。
桜井氏は、今月の利上げが見送られた場合、再び円が対ドルで160円を超える可能性があると指摘。現状は国民や経済界などからの批判が昨年7月ほど高まっておらず、「強く懸念される状況にはない」としながらも、円安がさらに進めば、3月会合で追加利上げを判断する理由になり得るという。
過大から適切へ
一方、植田総裁は、経済・物価情勢の改善が続けば利上げによって金融緩和度合いを調整していく方針を繰り返している。日銀は、経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、2026年度までの見通し期間の後半には基調的な物価上昇率が目標の2%程度で推移する見通しを示しており、植田総裁はその際の政策金利は中立金利近辺になると発言している。
桜井氏も、日銀がすでに「過大な緩和から適切な緩和へ」かじを切っている中で、今年も利上げによって緩和調整を着実に進めていくとみている。具体的には、0.25%ポイントの利上げを来年度以降は年2回程度のペースで行うが、「その時の状況によって、テンポは速まったり、遅くなったりすることを覚悟し、急がずに3年程度かけて政策金利を2%に近づけていくということではないか」との見方を示した。
日銀は昨年12月の会合で取りまとめた金融政策の多角的レビューで、経済・ 物価に対して中立的な実質金利の水準である自然利子率の推計を示した。それに基づくと、2%の物価目標達成時の中立金利は1-2.5%と幅がある。
桜井氏は、日銀が中立金利を具体的に示さないのは「金融政策の自由度を確保するためだ」とし、1%を超えるまでの利上げを日銀は問題なく進めるだろうと語った。
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