吉田昂
- 電車のような正確性、1週間で100点の新商品-同じ運営難しいと識者
- 日本へのテコ入れ考えづらく、西友とは異なると株式アナリスト
セブン&アイ・ホールディングスは9日の決算説明会で、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールから受けた買収提案の検討を続けていると明らかにした。仮に買収が実現した場合、日本の消費者にどのような影響を与え得るのか。識者に尋ねた。
「新幹線や在来線の時間の正確さを考えるとわかりやすい」。そう例えるのは消費経済アナリストの渡辺広明氏。コンビニの店長やバイヤーの経験が長く、現場に近い視点を持つ。買収は顧客にとってのマイナス面が大きいとの立場だ。
渡辺氏によると、1日に数回のペースでコンビニに商品を配送するトラックは、99%定刻に到着するのだという。時刻表通りに来る日本の電車のような精緻な管理で、商品棚に空きを作らない。商品の質にもこだわる。例えばセブン-イレブンでは、サンドイッチのレタスを加工、配送、陳列まで一貫して低温で管理し、食感を保っている。
セブン-イレブンの1号店が1974年に東京都内に開業して以来、日本式コンビニとして独自の進化を遂げてきた。渡辺氏によれば、国内の平均的なコンビニの商品数は常時3000点強。約1週間に100点の新商品が発売され、1年間で7割の商品が入れ替わる。生活インフラとしての役割も大きい。住民票の印刷や公共料金の支払いサービスは過疎地での生活を支え、災害時にはトイレの貸し出しや生活物資の供給を行う。
日本の消費者はこうした便利さに慣れており、コンビニに対する要求水準も高い。「同じシステムを持っていても、異なる文化を持つ人が同じように運用できるとは思えない。5年10年とたてば小さなズレの積み重ねが店頭に表れ、消費者は『前は良かった』と気づくのではないか」と渡辺氏は指摘する。
ただ、セブン-イレブンの革新は2013年に始めたレジ横のコーヒー「セブンカフェ」で止まっており、最近では売り上げの伸びも他社に劣るとして、「新たな知見を取り入れていく必要はある」と述べた。
外資と敬遠せず
小売業界に詳しいUBS証券の風早隆弘シニアアナリストは、現在提供されているサービスは維持されるべきだが、クシュタールが買収後に日本のコンビニ事業のテコ入れをするとは考えづらいと見る。
小売り大手が同業の外資に買収された例として、スーパーの西友がある。2008年に米ウォルマートの完全子会社となった。現在西友の米KKRが85%、ウォルマートが15%の株式を保有する。
風早氏によると、当時の西友は安売りとは一線を画す存在だったが、ウォルマート傘下に入って格安路線が導入され、現場は大きく混乱した。ただ、経営が傾いた西友をウォルマートが救済した意味合いが強く、今回の場合、西友と同じ道をたどる可能性は低い。
風早氏は「外資に買収されると無理な方針転換を迫られるイメージがあるかもしれないが、セブンーイレブンは既に屈指の競争力を持つ企業だ。この場合、クシュタールにとっては日本のコンビニ事業に手を付けずに見守ることが重要になる」と指摘する。
これまでに70件を超える買収をしてきたクシュタールは小売業を地域の特性に合わせて展開する重要性を熟知していると風早氏は指摘する。同じ看板でも店舗やエリアごとに経営者が異なる日本のフランチャイズ形式に知見がなく、自ら手を出すことが得策と考える可能性は低いと見る。
創業者で会長のアレイン・ブシャード氏は昨年10月のブルームバーグのインタビューで、買収が成立しても人員やビジネスモデルを変えることはないと強調している。日本のコンビニ事業は年間2000億円超の純利益を稼ぐ。豊富な資金を生み出す存在として尊重されそうだ。
風早氏は「外資というだけで敬遠せず、相手をよく見ることで公平に検討できることもある」と述べた。
世論の重要性
クシュタールが買収完了できるか否か。一般消費者は直接決定権を持たないものの、無関係でもない。企業の合併・買収(M&A)に詳しい南山大学の川本真哉教授は、「世論によって株主の行動が変わってくるのが日本のM&Aだ」と話す。投資家にとって重要なのは保有株式の買い取り額だが、一般消費者の反発を招くと同意を得づらくなるという。
十分な買い取り価格なのだから売るべきだという説明は買い手側の勝手な言い分に映るとして、クシュタールは「日本にとってのメリットやその理由をきちんと説明できる必要がある」と述べた。