Rita Nazareth
- S&P500種、前回FOMCが開かれた12月18日以来の大幅下落
- 30年債利回り一時5%突破、リスク回避の中で円は上げに転じる
10日の米株式相場は下落。雇用統計が強い内容となり、年内の利下げ観測が後退した。米国債利回りは上昇した。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 5827.04 | -91.21 | -1.54% |
ダウ工業株30種平均 | 41938.45 | -696.75 | -1.63% |
ナスダック総合指数 | 19161.63 | -317.25 | -1.63% |
S&P500種株価指数は年初来の上げを消し、昨年12月18日以来の大幅安となった。同日は連邦公開市場委員会(FOMC)の予測で2025年の利下げ回数が半減し、市場に動揺が走った。
ナスダック100指数は1.6%下落。ハイテク7社で構成する「マグニフィセント・セブン」に連動する指数は1.2%安。小型株で構成するラッセル2000指数は2.2%下落し、直近高値からの下げ幅は約10%となった。シカゴ・オプション取引所(Cboe)のボラティリティー指数(VIX)は、一時20を超えた。スワップ市場が織り込む年内の米利下げは合計30ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)未満となっている。
昨年12月の米雇用統計では、雇用者数が3月以来の大幅増加となり、失業率は予想外に前月から低下した。米消費者の長期インフレ期待は2008年以来の水準に上昇した。
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プレミア・ミトン・インベスターズのニール・ビレル氏は、静かな年初への期待は今や完全に消えてしまったと指摘。
「景気が強いという意味では朗報だが、利下げを期待する向きには悪いニュースだ。インフレはFOMCの最重要課題にとどまるだろう」とし、「債券利回りの上昇は続くとみられる。株式にとっては悪いニュースだ」と話した。
ボルビン・ウェルス・マネジメント・グループのジーナ・ボルビン氏は、「投資家は一段のボラティリティーに身構えていた方がよさそうだ。市場では、利下げ回数が減少する方向に見通しの修正が進んでいる」と述べた。
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一部の米大手銀行のエコノミストは、FOMCによる追加利下げの予想を後退させた。雇用統計が予想より強い内容となったことを受けて予想を修正した。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)は2025年の利下げをもはや見込んでおらず、次の動きは利上げになるリスクがあると分析。従来は年内に0.25ポイントの利下げが2回あると予想していた。シティグループは、5回の0.25ポイント利下げをなお見込んでいるが、開始時期の予想を従来の1月から5月に変更。ゴールドマン・サックス・グループは、年内の利下げ予想を2回とし、従来の3回から減らした。
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国債
米国債は下落。30年債利回りは2023年11月以降で初めて5%台を付けた。10年債利回りも23年以来の高水準となった。
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.95% | 2.1 | 0.43% |
米10年債利回り | 4.76% | 7.4 | 1.58% |
米2年債利回り | 4.38% | 11.9 | 2.80% |
米東部時間 | 16時43分 |
長引くインフレや財政赤字拡大の見通しを巡る不安が高まる中、債券は世界的にここ最近、大きく売られていた。米国ではトランプ次期大統領の就任を控えている。
TSロンバードの米国担当チーフエコノミスト、スティーブン・ブリッツ氏は「12月雇用統計の発表後も、市場がなぜ2025年と26年の金利引き下げをまだ予測しているのかというのが唯一の謎だ」と指摘。「次期政権は、インフレ率を低下させるという名目で活動を鈍化させる義務は負わない。FOMCもずっと以前から、同じことを示唆してきた」と話した。
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9月にFOMCが利下げサイクルを開始して以来、米国債利回りは上昇してきた。堅調な米景気を背景にその動きが加速し、10年債利回りは利下げ開始前の水準を100bp余り上回っている。このため債券投資家は、同利回りが5%に戻る可能性に直面せざるを得なくなった。
BMOグローバル・アセット・マネジメントの債券責任者、アール・デービス氏は「雇用統計で最も重要な数字は失業率だと考えている。平均時給が僅差で続く。失業率が4-4.5%の間で推移している間は金利を米当局が据え置き、4.5%に達すれば緩和を再開、4%を下回るなら利上げを始めるだろう」と述べた。
アムンディ・インベストメント・インスティテュートのガイ・スティア氏は、「FOMCが利下げを一切実施できないのではないかという懸念が強まるだろう。FOMCへの圧力は強まっている」と指摘。「利回りは今後数カ月に5%へと上昇し続け、1-3月(第1四半期)の決算シーズンがよほど好調なものにならない限り、株式相場を圧迫するだろう」と述べた。
為替
外国為替市場ではブルームバーグのドル指数が上昇。雇用統計に反応した。円は対ドルで値上がりした。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1319.11 | 6.15 | 0.47% |
ドル/円 | ¥157.80 | -¥0.34 | -0.21% |
ユーロ/ドル | $1.0245 | -$0.0055 | -0.53% |
米東部時間 | 16時43分 |
円は同統計発表後は下落し、一時約0.5%安の1ドル=158円87銭を付けた。ただその後は米国株が下げるなどリスクオフの動きとなる中、上げに転じ、一時157円23銭まで買われた。
バリンジャー・グループの為替市場アナリスト、カイル・チャップマン氏は「今回の統計は明らかに、市場が予想していたよりもずっと強かった。市場の予想がそもそも強い数字だった」とリポートで指摘した。
日本銀行が今月開く金融政策決定会合では、変動が大きい生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価(コアコアCPI)について、2024年度と25年度の見通しが上方修正となる公算が大きい。利上げの是非は直前まで見極める方針だ。事情に詳しい複数の関係者への取材で分かった。
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みずほセキュリティーズの欧州・中東・アフリカ地域(EMEA)マクロ戦略責任者ジョーダン・ロチェスター氏はこの報道について、同会合で利上げを「実施する十分な論拠」になり得ると指摘した。
日銀の「1月の政策会合は不透明だが、ライブであることは間違いない」とリポートに記述。「日本のデータを見ると、ほとんどは緩やかな利上げサイクル継続の根拠になっている」と続けた。
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原油
ニューヨーク原油先物相場は大幅続伸。米国がロシアの石油業界に対して新たな包括的制裁を導入したため買いが膨らみ、3カ月ぶりの高値で終えた。
10日発表された新たな制裁は、ロシアの海上石油輸出の約3割を担う2社や、貨物輸送に関連する重要な保険会社や商社などが対象。制裁措置に関する臆測が広がると、北海ブレント原油は一時5%上昇し、1バレル=80ドルを突破する場面があった。
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ラピダン・エナジー・グループの創設者で元ホワイトハウス高官、ボブ・マクナリー氏は「バイデン大統領は、過去数週間にわたり検討してきたエネルギー制裁を思い切って強化する道を選んだ。制裁に絡んだ混乱リスクに対し、油断していたトレーダーは不意を突かれた」と指摘した。
原油価格は今年に入って6%余り上昇しており、多くの銀行や機関が大幅な供給過多を予測し、価格の下落を予想していたため、この堅調な滑り出しは市場参加者の一部を驚かせている。これまでにシティグループとモルガン・スタンレーが価格予測を上方修正した。ここ数週間、ヘッジファンドは原油に対して強気姿勢を強めており、投機筋のブレント原油に対するネットロングはほぼ8カ月ぶりの高水準になっている。
強気な地合いが強まる中、BOKファイナンシャル・セキュリティーズのシニアバイスプレジデント、デニス・キスラー氏は「ここでショートポジションを取りたいと思う参加者はいない」と述べた。
ブレント原油の期近2限月のスプレッドは、強気相場を示す逆ざやで一時1.02ドルまで拡大した。1カ月前はわずか29セントだった。
ただ、市場関係者はこの上昇局面が長続きしない可能性があるとの慎重な見方をしている。相対力指数(RSI)などのテクニカル指標は、原油先物が買われ過ぎていることを示唆しており、一部のトレーダーはドナルド・トランプ氏が大統領に就任すれば制裁が撤回される可能性があるとみている。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物2月限は、前日比2.65ドル(3.6%)高い1バレル=76.57ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント3月限は3.7%上昇の79.76ドル。
金
ニューヨーク金相場は4日続伸。米雇用統計が良好で利下げ休止観測が強まったものの、関税やインフレへの懸念から安全を求めた買いが入った。
サクソバンクの商品戦略責任者、オレ・ハンセン氏は金相場について、「ドル高と債券利回りの上昇を考慮すると、底堅さは印象的だ」と指摘。これは貿易戦争やインフレ懸念、財政赤字懸念など他の要因によって動かされていることを示していると述べた。
金スポット価格はニューヨーク時間午後2時36分現在、前日比19.65ドル(0.7%)高い1オンス=2686.90ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物2月限は24.20ドル(0.9%)上げて2715ドルちょうどで引けた。
原題:S&P 500 Hit in Worst Day Since ‘Post-Fed Tantrum’: Markets Wrap(抜粋)
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