Saleha Mohsin、Joshua Green
- トランプ次期大統領側近の中でも主要な人々との関係構築
- トランプ氏との良好な関係を維持し政策を推進することが課題に
トランプ次期米大統領が昨年11月に財務長官への指名を発表するまで、スコット・ベッセント氏は共和党政界であまり知られていなかった。
トランプ氏は今月、フロリダ州にある邸宅「マールアラーゴ」で開いたレセプションのステージから、「スコット・ベッセント氏を知っているか」とゲストに問い掛けた上で、「誰もこの人物について聞いたことがない」と語った。
しかし、マクロヘッジファンド運営会社キー・スクエア・グループ創業者のベッセント氏は、トランプ氏のスローガン「MAGA(米国を再び偉大に)」を信奉するポピュリストと、ウォール街の両方の信頼を得ることで、複数の有力候補者の中から財務長官ポストの指名を受けることになった。
共和党が多数派の上院でベッセント氏(62)は容易に長官就任の承認を得ることができる見通しで、トランプ氏が掲げる「米国第一主義」の経済政策の支柱を担うことになる。
だが、トランプ氏が選挙戦で公約した関税賦課の計画はインフレ高進につながるとして市場に警戒感があるほか、減税計画については財政赤字や債務残高の拡大を招くと懸念されている。
関連記事:ドルの基軸通貨の地位維持が重要-ベッセント次期米財務長官
世界の準備通貨としてのドルの地位についても、トランプ氏の気まぐれに左右されないか、米国以外の国々で疑問を投げ掛ける声が上がる。
アメリベット・セキュリティーズの米金利トレーディング・ストラテジー責任者、グレゴリー・ファラネロ氏はベッセント氏について、「プロフィルは称賛されるが、同氏が直面する難題には根深いものがある」と指摘した。
ベッセント氏は財政赤字削減を進めつつ、経済成長を押し上げる政策を追求する計画を表明している。同氏はトランプ氏側近の中でも主要な人々との関係構築に努め、その支持を獲得している。
トランプ政権1期目にホワイトハウスの首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏はエール大学出身のベッセント氏について、「彼はアイビーリーグ出身で正真正銘のウォール街のエリートだが、骨の髄までMAGA信奉の真のポピュリストだ」と評価した。
ただ、誰もがベッセント氏をこのようにみているわけではない。ソロス・ファンド・マネジメントで上司だった著名投資家スタンリー・ドラッケンミラー氏は「スコットは非常に保守的な見解の持ち主であるものの、必ずしもオーソドックスでもポピュリストでもない」とコメントした。
議論好きなポピュリストからウォール街の著名な人物に至る共和党全般の支持を集めたベッセント氏は、最終的に商務長官に起用されたキャンターフィッツジェラルド最高経営責任者(CEO)のハワード・ラトニック氏やアポロ・グローバル・マネジメントのマーク・ローワンCEOらの名前も候補に取り沙汰される中で、結局、財務長官に指名された。
予想通り上院で就任が承認されれば、ベッセント氏の財務省でのパフォーマンスが、こうした支持の強さを試すことになる。衝動的なトランプ氏との関係を良好に保ちつつ、米国第一主義の政策を推進し、世界の金融市場の平静を維持することが課題となる。ベッセント氏の報道担当者はコメントを控えた。
原題:Scott Bessent Pulls Off a MAGA and Wall Street Tightrope Act (2)(抜粋)
関連情報
▽日鉄の買収再審査に含み、FRB独立支持 米財務長官候補公聴会<ロイター日本語版>2025年1月17日午前 8:01 GMT+9
[ワシントン 16日 ロイター] – トランプ次期米大統領が財務長官に指名したスコット・ベッセント氏は16日、上院財政委員会で開かれた指名承認公聴会に臨んだ。バイデン政権に阻止された日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収について、再審査されることになれば、対米外国投資委員会(CFIUS)は「通常通りの審査を行う」と述べた。
公聴会ではその他、米ドルは世界の基軸通貨であり続けるべきと主張。米連邦準備理事会(FRB)は独立を維持すべきと述べ、ロシアの石油部門に対してより厳しい制裁を課す用意があるとの姿勢を示した。
今年末で期限切れとなるトランプ氏の2017年減税を延長し、米経済を圧迫しかねない4兆ドルの増税を回避することが急務と強調した。「もし更新・延長しなければ、われわれは経済的災難に直面することになる」とし、「中間層にとって巨大な増税になる」などと訴えた。
トランプ次期大統領が打ち出している関税引き上げについては、改めて支持を表明。不公正な貿易慣行と闘い、歳入を増やし、貿易以外の問題も含めて米国の交渉力を高めることにつながるとの見方を示した。
ベッセント氏は、成長促進を目的とした税制、投資、貿易、エネルギー政策が繁栄の「新たな経済黄金時代」の到来を告げると主張した。
<ロシアや中国に厳しい姿勢>
ロシアの石油セクターに対する米国の制裁は弱すぎると主張した。バイデン政権が米国の石油生産を抑制する一方で、石油価格の上昇を懸念しすぎたためであり、米国の石油生産量が増えれば、ロシアの石油メジャーに対する制裁を一段と厳しくすることができるだろうと語った。
中国については「世界史上最も不均衡な経済」であり、輸出によって「深刻な不況/恐慌」から抜け出そうとしていると指摘。中国が安価な商品で米国や世界の市場を氾濫させることは容認できないと述べた。
<FRB「独立維持すべき」>
トランプ氏がこれまでFRBの金利決定を巡って頻繁に不満を表明していることから、トランプ氏が大統領就任後にFRBに対して支配力を行使しようとするかどうかの手掛かりを得るため、市場関係者らはFRBの独立性の問題に関するベッセント氏のコメントを注目していた。
ベッセント氏は公聴会で、FRBは「金融政策決定に関し独立すべき」との見解を示した。トランプ氏がFRBの金融政策を巡り「自身の見解を表明するだろう」としつつも、トランプ氏がFRBの政策決定に影響力を持つべきと考えているという見方は「極めて不正確」とした。
ドルについては「重要なのは、ドルが世界の基軸通貨であり続けることだ」と主張した。トランプ氏は長年、ドル高に不満を抱いている。
また、トランプ氏が目指す政策については、インフレを抑制し労働者の賃金上昇を促すという見通しを示し、物価上昇につながる政策があるかという議員からの質問に対しては「今すぐ思い付くものはない」と応じた。
<「デフォルト起こさない」>
ベッセント氏は、自分の代では米国債のデフォルト(債務不履行)は起こさないと誓った。議会は連邦債務上限を撤廃すべきかとの質問に対し、トランプ氏が要求すれば、実現に向け議会と協力すると述べた。
1930年代の大恐慌、第二次世界大戦、そしてコロナ禍を例に挙げ、債務残高が多いということは、危機に立ち向かうために多額の借り入れをする能力が低いということだと指摘。「財務省は、政府全体や議会とともに、借り入れ能力を使って国民と世界を救ってきた。しかし、現在の能力でこれまでと同じことをするのは難しいだろう」と語った。