コラムニスト:Dr Noah Feldman

It wouldn’t be unprecedented.
It wouldn’t be unprecedented. Photographer: Bloomberg/Bloomberg

トランプ次期米大統領が大規模な関税を課す法的根拠を得るため、国家緊急事態を宣言することを検討していると報じられている。

  緊急事態などないではないかと思うかもしれない。確かに、トランプ氏が自分自身に権限を与えるために、存在しない緊急事態を宣言すれば法律を破ることになる。

  そう単純な話であればいいのだが、国際経済緊急権限法(IEEPA)の下で大統領は米経済の緊急事態が発生した場合に特定の措置を講じる権限を持つ。それだけでなく、そうした緊急事態を宣言する権限も有している。

   つまり、IEEPAの緊急事態を宣言する権限を行使できるかどうかを決定するのは大統領なのだ。このばかげた状況を誰かのせいにするなら、1977年に同法を制定した議会を責めるべきだろう。

  IEEPA成立以来、少なくとも67件の緊急事態が大統領によって宣言されてきた。超党派の議会調査局が最後にこの件について報告した2022年時点では、そのうち37件の緊急事態が依然として法的に有効であり、その多くは10年もの間継続している。

  1979年にイラン革命勢力による米国人人質事件が発生した後、IEEPAに基づいて宣言された最初の緊急事態は、現在も有効だ。

  つまり議会は、大統領が緊急事態を宣言する際に非常に大きな裁量権を持っていることを認識している。

  しかし、国境を越え米国に入る不法移民を減らすよう迫りたいトランプ氏が大幅な関税をメキシコに課すためIEEPAを利用すると威嚇した後でさえ、議会はその権限を抑制する措置を一切取っていない。

  IEEPAの下で、大統領の緊急事態宣言を覆す明示的な方法が1つだけある。大統領による緊急事態の認定を不当とする決議を上下両院が一致して採択することだ。しかし、議会がそうしたことはこれまで一度もない。

  議会による承認とそれ以降の不作為の歴史が問題となるのは、トランプ氏による同法適用に対する異議が裁判所に申し立てられるとすれば、それが前面に押し出される可能性があるためだ。

  そうした異議申し立てで勝訴するには、トランプ氏が法律に基づき議会から委任された権限を逸脱したと、原告側が連邦裁判所、最終的には最高裁を説得しなければならない。

  裁判所が大統領の決定を再考することをためらうことは確実だし、過去のIEEPA適用例に基づき、トランプ氏の行動があからさまな違法だと見なされるほどではないと判断することもあり得る。

  実際、これまでIEEPAに基づく大統領による緊急事態の認定を覆した裁判所はない。唯一、この問題にわずかに触れた判例である米政府と吉田インターナショナル(現YKK)の係争は、前身となる法律「対敵通商法」に関するものだった。

  1971年に当時のニクソン大統領は同法を適用し、日本から輸入されるファスナーに追加関税を課した。連邦関税特許高裁(現在の連邦特別行政高裁に改組)は、大統領権限の範囲内であるとして追加関税を支持した。宣言された緊急事態は「国際収支の深刻な赤字」だった。

  トランプ氏によるIEEPAに基づく発動に対して異議を唱えそうな議員らが展開し得る型破りな議論が一つある。 

  議会による行政への立法権限委任の制限に最高裁が関心を抱いていることに着目し、「大統領ではなく議会が関税を課す基本的な権限を有しているため、IEEPAは違憲」と主張することだ。いわゆる「非委任の原則」を巡り、立法府の権限は行政に委任できないと訴えるのだ。

  最高裁は現在、この原則に関する2つの訴訟を審理している。もし保守派の判事がこれらの訴訟で画期的な判決を下せば、非委任の原則を根拠にIEEPA反対派に追い風が吹く可能性もある。

  しかし、最高裁が主に懸念しているのは、議会が立法権限を行政機関に委任する問題のようであり、IEEPAは大統領に権限を直接委任しているため、反対派の主張が通る公算は小さいと思われる。

  結論として、トランプ氏は恐らくIEEPAに基づき関税を課すことができ、それを正当化できそうだ。その責任の一端はわれわれにもある。結局のところ、議会は国民の代表なのだ。

(ノア・フェルドマン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、米ハーバード大学の法学教授です。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Yes, Trump Could Impose Tariffs Without Congress: Noah Feldman (抜粋)