コラムニスト:John Authers

US President Donald Trump during a signing ceremony
US President Donald Trump during a signing ceremony Photographer: Jim Lo Scalzo/Bloomberg

トランプ米大統領が戻ってきた。トランプ氏の2期目は、独裁政治がしばらく続くような出足とはならなかった。

  それでもなお、就任初日は世界の市場をジェットコースターのように乱高下させ、混沌として一貫性に欠くメッセージが飛び交う1日となった。

  トランプ氏は20日、中国を標的にした関税発動の発表を見送った。メキシコとカナダについても、その日の夜遅くまで何も言わなかった。

  新たな関税が課される前の猶予期間は大きなプラス材料と見なされ、米国の主要貿易相手国であるメキシコ、カナダ、中国、ユーロ圏の通貨は対ドルで劇的な上昇を見せた。

  トランプ氏がその日に行った一連の演説は国内の敵に矛先が向けられ、カナダとメキシコは攻撃を免れていた。米国の朝方には、関税の可能性について同氏がチームに検討を要請する見通しだとの一部報道も伝わった。

  それが、同日夜に大統領執務室で記者の質問を受けると、カナダとメキシコに対する25%の関税について突然話し始めた。

  トランプ氏のチームは25%関税の「詳細を検討中」であり、「2月1日の実施になると思う」とトランプ氏は述べた。

  具体的とも思われる発言を受けてカナダ・ドルとメキシコ・ペソは急反落した。

Currency Volatility. Get Used to It

The dollar tanked and resurged against its main trading partners

https://www.bloomberg.com/toaster/v2/charts/wy5c3rda61uv0ypdl2owhjst3l4gn4y6.html?brand=cojp&webTheme=default&web=true&hideTitles=true

Source: Bloomberg

Note: Re-based: 100 = 00:00, 01/20/2025

  カナダとメキシコについての発表は、いら立たしいほど軽いものだった。同盟国である隣国2カ国は、もう少し正確で正式な発表を望んでいたかもしれない。

  就任演説を分析すると、トランプ氏の地理的な優先事項は奇妙に見える。中国はパナマ運河に関する不満の中で2回言及されただけだった。カナダはまったく言及されず、欧州も同様だった。メキシコはメキシコ湾の名称変更に関連してのみ言及された。これらは米国の4大貿易相手国だ。

New Geographical Priorities

America’s biggest trading partners barely figured in the inaugural

https://www.bloomberg.com/toaster/v2/charts/965683ddb80e1610ce8ca45b993b90c5.html?brand=cojp&webTheme=default&web=true&hideTitles=true

Source: Bloomberg Research

  その理由は、政権にとって市場が重要であることかもしれない。市場が政権の行動を導くガードレールとして機能する可能性がある。2021年1月6日に連邦議会議事堂を襲撃した人々に対する恩赦や、政府による「性別は2つだけ」という公式政策は発表されたが、これらを理由に株価が変動することはない。

  就任式の演台に非常に影響力のある最高経営責任者(CEO)が数人いたのは、主に象徴的な意味合いだが、トランプ氏が株式市場を混乱させたくないという強いメッセージだ。

  中国に関するこれまでの沈黙は、トランプ氏が習近平氏を巻き込んだ取引、恐らくは「プラザ合意2」のようなものを望んでおり、相手国を交渉のテーブルに着かせるための手段として関税を利用するつもりであることを示唆する。

  中国系動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を救おうとする姿勢は、中国強硬派との違いを際立たせる。

  これらは、多くの人が恐れていたよりもはるかに良い兆候だ。中国への関税は市場を大きく混乱させる恐れがあるため、トランプ氏が議会との長期にわたる駆け引きを乗り切り、市場が歓迎する減税を実現できるという確証が得られるまでは、関税の発動を延期するのが賢明だ。

  つまり、初日の動きは議会および貿易相手国との交渉の余地を残すための巧妙な試みなのではないか。

  少なくとも、トランプ氏がメキシコとカナダについての質問に答える前に私が書こうとしていたのは、そのような内容だった。

  今となってはその主張を維持するのは難しい。トランプ氏は関税を課す権限を持っているが、中国ではなく友好国である隣国から始めるのは常軌を逸している。

  情報公開に対するこのような無秩序なアプローチは、計画を立てることを不可能にし、ほぼ確実にボラティリティーを引き起こす。市場、企業経営陣、外国政府は、今後4年間はこれが続くことを不満に思うだろう。

  トランプ1.0から多くのことが変わったが、メッセージの統制の欠如は、その一つではない。

  トランプ2.0の1日目は終わった。あと1460日のジェットコースターを覚悟しよう。

(ジョン・オーサーズ氏は市場担当のシニアエディターで、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。ブルームバーグ移籍前は英紙フィナンシャル・タイムズのチーフ市場コメンテーターを務めていました。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:He’s Ba-a-a-ck. Get Used to the Roller Coaster: John Authers(抜粋)