Rita Nazareth
- メキシコ関税先送りでS&P500種は下げ縮小、ドル指数は伸び悩み
- 米国債利回り差縮小、金は逃避買いで過去最高値を更新-原油は反発
3日の金融市場では資産クラスを問わず新たなボラティリティー(変動性)上昇に見舞われた。関税交渉に関し次々と繰り出されるトランプ米大統領の一言一句に、ウォール街のトレーダーは踊らされる格好となった。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 5994.57 | -45.96 | -0.76% |
ダウ工業株30種平均 | 44421.91 | -122.75 | -0.28% |
ナスダック総合指数 | 19391.96 | -235.48 | -1.20% |
S&P500種株価指数は一時2%近く下落したが、その後は下げの大半を埋める展開。トランプ氏がメキシコのシェインバウム大統領との電話会談後、25%の関税適用を1カ月先送りすることに同意した。
Gスクエアド・プライベート・ウェルスのビクトリア・グリーン氏は「状況は非常に流動的で変わり続けている」と指摘。「当面のところ、当社の基本シナリオはこの大半が一過性のもので、妥協とともに影響が薄れていくというものだ。状況を逃さず監視し、企業利益やドル、インフレにどう影響していくのか見守っている」と述べた。
対メキシコ関税の1カ月適用延期は、トランプ氏が関税を交渉の道具としており、米経済に痛みを強いることには依然消極的だという見方を裏付けた。非常事態を宣言してカナダとメキシコ、中国に関税を発動するのは、米大統領としてはほぼ100年ぶりの極端な保護主義的行為だ。
BMOウェルス・マネジメントのユンユ・マ氏は「関税は主にトランプ氏の交渉ツールだと当社は考えているが、これが短期的なもので終わるかどうか判断するのは非常に難しい」と述べた。
自動車株と半導体、工業株はいずれもこの日の安値を離れたものの、マイナス圏にとどまった。一方で防衛関連の株価は上昇し、安全性を求める市場の動きを浮き彫りにした。大型ハイテク株の比重が高いナスダック100指数は0.8%下落。大型ハイテク株7強で構成する「マグニフィセントセブン」は1.7%下げた。小型株で構成するラッセル2000指数は1.3%安。UBSグループがまとめたトランプ関税による負け組株指数は3.1%水準を下げた。シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は18を上回った。
Trump’s Delay of Mexico Tariffs Buoys Both Peso and Loonie
Minute-by-minute percent change from Friday’s close
Source: Bloomberg
トゥルイスト・アドバイザリー・サービシズのキース・ラーナー、マイケル・スコーデレス両氏は「今の時点で、カナダとメキシコに対する関税が長期間続くことは疑わしくなった」と発言。「しかし関税の期間や規模がはっきりするまで、こうした行動は規模の大小を問わず北米企業の多くにとって、サプライチェーンと価格設定を不確実にする」と続けた。
トランプ政権が発表した最新の関税が適用されれば、企業の業績見通しが悪化し、米株式相場は5%下げるリスクがあるとゴールドマン・サックス・グループのストラテジストは分析している。
デービッド・コスティン氏は「貿易交渉が失敗した場合のみ関税が発動されると予想する投資家が多かったため、関税に関する発表は衝撃だった」とリポートで指摘。「当社のエコノミスト陣は、見通しは不透明だと述べているが、カナダとメキシコに対する関税は一時的なものである可能性が高いとみている」と述べた。
最新の関税が持続すれば、S&P500種採用銘柄の利益見通しは約2%から3%引き下げられるとコスティン氏は予想。これには金融環境のさらなる引き締まりや、消費者と企業の行動に変化が生じる可能性を加味していない。S&P500種株価指数の適正水準も短期的に約5%下がると、同氏は警告。企業利益と株式バリュエーションの両方が打撃を受けるためだという。
ロリ・カルバシーナ氏率いるRBCキャピタル・マーケッツのストラテジストは、メキシコとカナダ、中国に対する関税の発表はS&P500種が今年、少なくとも1度は5-10%の下げを経験するリスクを高めたと述べた。
同氏のチームはポジション状況やバリュエーション、指数の高止まりを考慮し、今年の早い時期に相場下落が起きる可能性があると身構えている。関税は単なる交渉戦術だとの楽観的な見方が広がったために、市場では警戒が緩んでいたと指摘した。
Basket of Tariff-Exposed Stocks Drops
Source: Bloomberg
Note: Data show percentage change since Nov. 5
モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン氏は、関税が持続する可能性はこれまでのところ、株式市場で軽視されてきたが、そうした見解は「関税が長期化するにつれ、見直しを迫られる可能性が高い」と述べた。
ヘッジファンドは5週連続で米国株を売り越した。先週は中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)の脅威や米国の主要貿易相手国に追加関税を課すとするトランプ氏の表明を受けて、市場に波紋が広がっていた。ヘッジファンドは個別銘柄の空売り、およびマクロ商品のロングポジション解消を増やした。ゴールドマン・サックス・グループのプライムブローカレッジがまとめたデータで明らかになった。
一方で個人投資家は、トランプ氏が関税で経済や市場をリスクにさらすことはないと考えていたようだ。JPモルガン・チェースのグローバルクオンツ・デリバティブ担当ストラテジスト、エマ・ウー氏の分析によれば、リテール投資家は1月31日に21億ドル(約3240億円)を米国株に投じた。20億ドルを超える資金流入は過去3年間に9回しか起きておらず、そのうち5回は2025年に既に起きている。
米国債
米国債相場は不安定な値動き。朝方は週末に発表された関税に反応した後、メキシコ関税の1カ月先送りを含め、その後のニュースを受けて変動した。米国債の利回り曲線は最終的にフラット化し、関税によるインフレリスク意識から短期債利回りが上昇した一方、成長懸念から長期債にはリスクオフの買いが入った。
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.77% | -1.5 | -0.32% |
米10年債利回り | 4.54% | 0.6 | 0.14% |
米2年債利回り | 4.26% | 5.8 | 1.38% |
米東部時間 | 16時34分 |
米国債市場で最大の不確実性は、貿易戦争となった場合に米経済がその打撃にどう耐えられるかという問題だ。短期の米国債利回りが上昇した一方、長期債利回りは総じて反対方向に動き、この心配が表面化した。
トランプ氏はメキシコへの関税適用開始を1カ月先送りしたものの、2年債利回りは一時8ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.28%を付けた。消費者物価の上昇で金利高止まりは続くとの見方が背景にある。しかし景気低迷の懸念から長期債利回りは低下し、2-30年債の利回り差は一時、昨年12月上旬以来の大幅縮小となった。
ブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ジャック・マッキンタイア氏はインフレ加速の環境で経済が低迷する「スタグフレーションのリスクが高まっている」と指摘。「経済成長に関するものは何であれ、不確実性というレンズで見るしかない。透明性が増すまで、投資は見送られる可能性がある」と述べた。
外為
ブルームバーグ・ドル指数は伸び悩む展開。カナダとメキシコへの米関税発動で一時は約2年ぶり高値を付けた。対メキシコ関税の適用が1カ月先送りされると、ドル指数は急速に上げ幅を縮小した。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1309.59 | 1.89 | 0.14% |
ドル/円 | ¥154.85 | -¥0.34 | -0.22% |
ユーロ/ドル | $1.0310 | -$0.0053 | -0.51% |
米東部時間 | 16時35分 |
主要10通貨に対するドルの動きを示すブルームバーグ・ドル・スポット指数は、一時1.3%上昇し、2022年11月以来の高水準に達した。その後メキシコ大統領が関税賦課の1カ月先送りを明らかにすると、ドルは伸び悩み、ペソは上昇に転じた。カナダ・ドルは下げ幅を縮小した。
関連記事:米国の対メキシコ関税は1カ月先送り、両国首脳が会談後に確認 (3)
スコシアバンクのショーン・オズボーン氏は「週末にかけてドルは著しく上昇したが、関税の規模が発表されていたらもっと大きく上がっていたかもしれない」と指摘。「つまり持続性のある措置というよりも、短期的なレバレッジとして、市場は関税を受け止めていたと考えられる」と述べた。
ドル指数の翌日物インプライドボラティリティーは、昨年11月の大統領選挙後で最高水準となる14.3%に上昇した。
Expectations of Dollar Swings Elevated on Tariff Risks
Source: Bloomberg
円は逃避需要に支えられた。主要10通貨のうち円とポンドだけが対ドルで上昇した。
日本銀行が追加利上げを決めた1月23、24両日の金融政策決定会合では、円安進行とインフレへの影響がますます懸念されていたことが、3日に公表された「主な意見」で明らかになった。
原油
原油先物相場は反発。日中は関税を巡る報道に反応して不安定な値動きとなった。市場では、米国の関税措置が世界の経済成長を減速させる可能性と、短期的な供給懸念の両方が意識されている。
早い時間帯には、ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物が3.7%高となる場面もあった。関税の影響でカナダから米国への供給が減少した場合、それを埋め合わせるための米国産原油への需要が高まるとの見方を反映した動きとみられる。
INGグループの商品戦略責任者、ウォーレン・パターソン氏は「米国にとって最大の原油供給国に対する関税は原油価格と特に石油精製品の押し上げ要因となる」と指摘。その上で「これはごく短期的には相場の支援材料になるかもしれないが、世界の経済成長に対する懸念が強まれば、遠からずリスクオフの動きにつながるだろう」と述べた。
原油相場は1月20日のトランプ大統領就任以降、総じて下げ基調が続いている。関税が経済成長に与える影響への懸念や、トランプ氏が石油輸出国機構(OPEC)に原油価格引き下げを求めていることなどが背景にある。ただOPECと非加盟産油国で構成する「OPECプラス」は3日の会議で現行の原油生産計画に変更を加えなかった。
関連記事:OPECプラス、供給計画を維持-トランプ大統領の要請には応じず
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物3月限は、前営業日比63セント(0.9%)高の1バレル=73.16ドルで終了。一方、ロンドンICEの北海ブレント4月限は0.4%高の75.96ドルで引けた。
金
金スポット相場は上昇し、過去最高値を更新。トランプ政権による関税措置が引き続き意識される中、安全資産への逃避で金が買われた。
金相場も関税動向に敏感に反応。スポット価格は一時1.2%高となったが、対メキシコ関税発動の1カ月先送りが伝わると、上げ幅を縮小した。
TDセキュリティーズの商品戦略責任者バート・メレク氏は関税の影響について、「インフレ率が上昇し、自動車セクターが急停止して経済が減速するという状況が想定される」と指摘。こうした不確実性とリスクが金相場を支えているとの見方を示した。
金スポットはニューヨーク時間午後2時10分現在、前営業日比23.01ドル(0.8%)高の1オンス=2821.42ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は、22.10ドル(0.8%)高の2857.10ドルで引けた。
原題:S&P 500 Cuts Most of Its Losses on Tariff Hopes: Markets Wrap(抜粋)
Bonds Show Fear Tariffs Will Deliver Inflation, Growth Shocks(抜粋)
Treasury Futures Whipsawed on Tariff Updates, Flattening Holds(抜粋)
Dollar, Volatility Rise as Trump Tariffs Whipsaw FX: Inside G-10(抜粋)
Oil Edges Higher as Delayed Mexico Tariffs Ease Supply Concerns(抜粋)
Gold Rises to Fresh Record as Trump Tariffs Trigger Haven Demand(抜粋)