- 140億ドル相当の米製品を標的に、第1次トランプ政権より小規模
- 米中協議では貿易不均衡やTikTok問題、パナマ運河などが焦点か
新たな米中貿易戦争の幕開けとも言える両国による関税の応酬は、中国の習近平国家主席が第1次トランプ政権時代よりも慎重な姿勢で臨んでいることを浮き彫りにした。
トランプ米大統領はメキシコとカナダに対する関税の発動を土壇場で1カ月先送りする一方、中国に対しては予定通り、米東部時間4日午前0時1分(日本時間同日午後2時1分)に関税を発動した。これに対し、中国は即座に報復措置を発表。2月10日から約80品目への追加関税を発動するほか、グーグルに対する調査の開始、タングステンなど重要鉱物への輸出規制強化、米企業2社のブラックリスト追加といった対抗措置を打ち出した。
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今回の迅速かつ綿密に計画された報復措置は、中国がトランプ氏との最初の貿易戦争から教訓を学んだことを示している。中国は当時、米国が課した関税と同額または相応の関税で報復した。だが今回の関税対象は140億ドル(約2兆1700億円)相当と、トランプ氏が標的にする中国製品の規模と比べてごくわずかにとどめた。一方で、関税以外の措置も講じ、必要であれば米企業にさらなる痛手を与えられることも示した。
Tariff Imposed by China and US
China’s two new tariff lists target imported goods from the US valued at $14 billion in 2024
Source: China Customs
これは第1次トランプ政権以降、中国が輸入先の多様化に成功したこと、および中国経済が一段と厳しくなっていることの双方を反映している。習主席は不動産バブルを崩壊に至らせると同時にデフレ圧力の高まりにも対処しており、成長維持に向けて製造業と輸出に依存している。
マッコーリー・グループの中国経済責任者、胡偉俊氏は中国の報復措置が抑制されていることについて、中国は米国との貿易不均衡が大きいため「失うものが一段と多い」とし、「全面的な関税戦争は中国の利益にはならない」と述べた。また「中国は関税に対して、主に国内刺激策を通じて対応する可能性が高い」との見方を示した。
中国が慎重なアプローチを打ち出したことで金融市場の混乱は免れた。ハンセン中国企業株指数(H株)は4日の取引を3.5%高で終了。オフショア人民元はそれまでの下げを埋め、ほぼ横ばいで推移した。
目下の焦点
目下の最大の焦点は、中国の関税措置が発動される10日の期限までに米中両首脳が合意に至ることができるかどうかだ。
トランプ大統領は4日、大統領執務室で記者団に対し、習主席とは適切な時に話すとし、急いではいないと述べた。
中国が報復関税を発動したことについては「構わない」と語った。
トランプ氏は3日、中国との合意を模索すると発言。4日には、ホワイトハウスのレビット報道官が両首脳の電話会談が「間もなく」行われる予定だと記者団に語っていた。
「トランプ氏は中国が合成麻薬フェンタニルを調達し、米国に流通し続けることを容認しない。それが今回の関税の理由だ」とレビット氏は説明した。
トランプ政権のナバロ上級顧問(貿易・製造業担当)も米中の電話会談が4日に行われると述べた。ただ、参加者については明らかにしなかった。
一方、トランプ氏と習氏の会談は4日には行われないと、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は伝えた。
両首脳による協議は、トランプ氏の優先事項を垣間見る機会となるかもしれない。
トランプ氏は対中赤字の削減を望んでいる。2020年に米中が結んだ「第1段階合意」の見直しを指示しており、中国との関税協議がまだ数カ月続く可能性を示唆している。一方で、ロシアによるウクライナ侵攻を迅速に止めるために習氏の協力を求めており、また中国に対して75日以内に動画アプリ「TikTok」の所有権を米企業と分割するよう迫っている。
中国の選択肢
中国側にとっては交渉の材料が限られる中で協議に臨むことになる。中国税関総署のデータによると、中国の対米輸出は米国の対中輸出規模のおよそ3倍で、そもそも関税を課す対象品目が少ない。
中国は今回、関税以外の措置も打ち出したが、交渉の切り札が限られることも鮮明になった。グーグルを標的にしたものの、中国で同社の消費者向けの検索やインターネットサービスは2010年以降、利用できなくなっており、象徴的な意味合いが強い。もっとも、テスラやアップルなど、中国市場の重要性が高い米企業は他にもある。
中国の規制当局はインテルに対する調査の開始を検討していると、英紙フィナンシャル・タイムズは事情に詳しい関係者2人の話として4日に報じた。インテルにコメントを求めたが、返答はまだ得られていない。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)グローバル・リサーチの大中華圏担当チーフエコノミスト、喬虹氏は、いかなる合意の枠組みも、中国がどのような譲歩に応じるか次第だと述べる。
中国にとっての選択肢は、米国産石油・ガスの輸入拡大や人民元の安定維持を確約することから、第1段階合意の履行に至るまで多岐にわたると同氏は指摘。「関係修復に寄与するのは、おそらくこれらの措置の組み合わせだろう」と話した。
一方、ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のアジア担当チーフエコノミストであるチャン・シュー氏は、パナマ運河に対する中国の影響力は、トランプ氏が習氏に迫るであろう「重要な取引材料」だとみている。香港に拠点を置く長江和記実業(CKハチソン・ホールディングス)の子会社が、運河に隣接する5港のうち2つを運営しているためだ。トランプ氏はすでに、パナマが中国の影響力を弱めない場合は運河を「取り戻す」と脅している。
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「中国がCKハチソンに圧力をかけて、現地での事業を縮小させることはあり得る」と同氏は述べたが、その可能性は「低い」とした。
原題:Xi’s Reply to Trump Tariffs Shows China Has More to Lose (2)(抜粋)