田村康剛

  • 元みずほ証の新居社長が設立、他社と一線画し買収先企業は譲渡せず
  • 国内金利の上昇は承継ビジネスのリスクと社長、公開価格は2000円

中小の製造業を中心に企業買収を行う技術承継機構が5日、東京証券取引所グロース市場に新規上場する。高い技術力を持ちながら後継者問題に悩む企業への投資を通じ、買収先と自社の企業価値向上に取り組む同社は2025年の東証上場第1号だ。

  技術承継機構は他の投資ファンドと異なり、買収先を第三者に譲渡しない方針を掲げている。傘下入りした企業が利益を生むことで自社の収益拡大につなげるビジネスモデル。みずほ証券や産業革新機構で投資業務に携わった新居英一社長が18年に設立した。

  新居社長はブルームバーグのインタビューで、製造業に注目する理由として利益が出ており、グローバルでも戦える可能性のある企業が多い点を挙げ、「きっちり譲り受けるチャンスがある」と述べた。

  同社は特色ある技術や粗利率の高いメーカーへの分散投資を基本姿勢としているが、物言う株主(アクティビスト)の存在や上場企業の資本効率向上へ東証の圧力が強まっていることを背景に、今後は大企業の事業売却や非上場化にも商機を拡大させていく考えだ。

高まる後継者不在率

  東京商工リサーチによると、全国17万社を対象とした24年の後継者不在率は62%と前の年から1ポイント以上上昇し、調査を開始した19年以降右肩上がりが続いている。企業の代表者が高齢の場合、後継者不在を理由に倒産や突発的な廃業、債務不履行につながる恐れがあり、事業譲渡や買収・合併(M&A)は存続への有力な選択肢だという。

  事業承継は企業の収益を拡大させる有効な手段にもなっているようだ。帝国データバンクの調べでは、事業承継を実施した企業と同業他社を比較した場合、承継後3年目以降から売上高成長率が同業平均を上回っている

  一方、新居社長は日本銀行の利上げで国内金利が上昇傾向にあることは事業承継ビジネスにとってのリスクだと話す。投資資金を確保する際、買収対象企業のキャッシュフローを担保にした借り入れを活用しているためだ。ただし、固定金利を使うほか、買収先はキャッシュフローを生んでおり、大きな問題はないとみている。

  技術承継機構の公開価格2000円を基にした時価総額は約170億円。上場に際し公募による74万5000株の新株発行と71万株の売り出しを実施した。オーバーアロットメンドによる売り出しは21万8200株。公募・売り出し総数の29%は欧州やアジアを中心とした海外市場向け(米国・カナダ除く)だった。新株発行による手取金の使途は全額M&Aの待機資金に充てる。

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