By Curtis Williams

アングル:中国の報復関税、米国のLNGプロジェクトに暗雲

[ヒューストン 4日 ロイター] – トランプ米政権が対中追加関税を発動したことを受けて中国は4日、米国から輸入する液化天然ガス(LNG)に15%の追加関税を課すと発表した。中国は米国産LNGの有力な買い手であるだけに、中国の報復措置で米国のLNG輸出プロジェクトは大きな打撃を受けそうだ。

トランプ氏の保護主義的な政策は国内事業の活性化を図りつつ麻薬の密輸や不法移民を阻止するのが狙いだが、国内のエネルギー生産拡大という目標にはマイナスに作用しかねず、両刃の剣と言えそうだ。

エネルギーコンサルティング会社EBW アナリティクスのアナリストは4日の顧客向けメモで中国による米国産エネルギーへの報復関税について、「長期契約やオフテイク(引き取り)契約に影響を及ぼし、米国の新規LNGプロジェクトが最終投資決定(FID)に向けて進むのはより難しくなりそうだ」と指摘した。

米国は世界最大のLNG輸出国で、中国は米国産の主要輸入国の1つ。LSEGのデータによると昨年は米国のLNG輸出量の約6%にあたる約430万トンが中国向けだった。

ロイターの試算によると中国の国有企業が結んでいる米輸出ターミナル経由の米国産LNGの輸入契約は、既存ターミナル分と今後建設されるターミナル分を合わせて年2000万トン強。米国のLNG輸出大手、ベンチャー・グローバル(VG.N), opens new tabとシェニエール(LNG.N), opens new tabの公表資料によると、両社は中国企業との間で計年1400万トンの長期契約を締結している。

米国では現在8カ所のLNG輸出ターミナルが稼働しており、3カ所が建設中で、さらに約20カ所が開発中だ。

トランプ政権が1月に新たなLNG輸出許可の停止措置を解除したことを受け、企業は新規と既存施設拡張の両面でLNG輸出プロジェクトを推し進めている

しかし米国のLNG業界団体「センター・フォー・LNG」のエグゼクティブディレクター、チャーリー・リードル氏は中国の対米追加関税について、米LNG業界の先行きが不透明になり、米国は世界のエネルギー市場における競争力が低下すると指摘。「エネルギー輸出を拡大し、地政学的な影響力を強化しようとするトランプ政権の取り組みを直撃する」と危惧を示した。

一方、ホワイトハウス高官はロイターに対し、中国の関税について、経済面では限定的な影響があるかもしれないが、そのリスクを取る価値はあると主張。中国が合成麻薬フェンタニルの製造に使われる化学物質の主要供給国になっているとの懸念を念頭に、「フェンタニルによる米国民の死亡を防ぐことの重要性は金銭では計れない」と述べた。その上で、トランプ氏はLNGの輸出先を拡大し、中国の行動によるリスクを減らしたい考えだとした。

<大型契約>

LNG開発企業は長期契約や売買契約を利用して銀行からプロジェクトの資金を確保する。こうした契約はプロジェクトを開発段階から最終投資決定(FID)へと進める上で重要だ。

LNG輸出大手のベンチャー・グローバルはルイジアナ州で2つのプラントを稼働中で、さらに3件の開発を進めているが、同社の資料によるとこれまでに中国企業と年950万トンの供給契約を結んでいる。同じく大手のシェニエールも年450トン余りの長期契約を中国企業と結んでいることが同社の資料から分かる。

ベンチャー・グローバルは1月の新規株式公開(IPO)の目論見書で、米中間で貿易戦争が発生すれば、同社の生産・供給能力やプロジェクトの存続可能性、さらには事業全体が重大な影響を受ける恐れがあると投資家に説明していた。