Rita Nazareth
- トランプ氏の関税発言でドル上昇、米国債は朝方からの軟調を維持
- 対中関税で需要不安、原油は週間で3週連続安-金は最高値後に失速
7日の米株式相場は下落。トランプ米政権の関税政策をインフレ面で懸念するウォール街に、この日の経済統計は安心材料を提供しなかった。統計は物価圧力への不安を浮き彫りにしただけで、連邦公開市場委員会(FOMC)は追加利下げを急がないとの見方を補強した。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 6025.99 | -57.58 | -0.95% |
ダウ工業株30種平均 | 44303.40 | -444.23 | -0.99% |
ナスダック総合指数 | 19523.40 | -268.59 | -1.36% |
株式相場は週間ベースでマイナスに転じた。トランプ大統領は来週に同様の関税を課して報復する「相互関税」を発表すると述べ、主要な貿易相手国との貿易戦争をエスカレートさせる考えを明らかにした。USスチールは下落。トランプ氏は日本製鉄がUSスチールの買収ではなく投資を検討していると述べた。午前に発表された消費者マインド指数を受けて、株価はすでに下落していた。同指標ではインフレ期待の上昇も示された。強弱混在の雇用統計は減速しつつも依然健全な労働市場を浮き彫りにし、賃金は大きく上昇。前日のアマゾン・ドット・コムによる業績見通しが失望され、大型ハイテク株はこの日の市場で下げた。
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昨年3度にわたって政策金利を引き下げたFOMCは追加利下げを急がない姿勢を見せており、最新の経済統計はそのスタンスの正しさも裏付けている。次の政策行動は依然として利下げだと市場ではみられているが、9月までは100%の確率として織り込まれていない。
プリンシパル・アセット・マネジメントのシーマ・シャー氏は「労働市場の底堅さと賃金上昇圧力の持続というのが大局的な見方だ」と指摘。「FOMCが直ちに利下げする理由はほとんどない」と述べた。
ハイテク株の比重が高いナスダック100指数は1.3%下落。大型ハイテク7強で構成する「マグニフィセントセブン」指数は1.9%下げた。小型株のラッセル2000指数は1.2%安。アマゾンは4%の値下がりとなった。
eToro(イートロ)のブレット・ケンウェル氏は「強い賃金上昇は労働者にとって良いことであり、個人消費にとってポジティブな材料と捉えるべきだ」と指摘。その上で「しかしウォール街ではここ数年、賃金上昇率が高まり過ぎるとインフレ率が上昇する可能性があるとして、この指標を注意深く見てきた」と説明した。
今回の雇用統計は主要項目以外の部分では特に警戒すべきものはないとしつつ、「一部の投資家はインフレや利下げを巡る影響を懸念しているかもしれないが、誤解するべきではない。経済や労働市場は悪化するよりも、好調である方が良いに決まっている。株式は穏やかなインフレ状況下で好調になる傾向がある」とケンウェル氏は述べた。
米連邦準備制度理事会(FRB)のクーグラー理事は、インフレ率は大幅に低下してきたものの、最近の進ちょく状況は遅く、依然としてかなりの不確実性が残っていると指摘した。これより先、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は米労働市場が鈍化してきたが、堅調を維持していると指摘。金利は2025年に「緩やかに」低下する可能性が高いとの考えを示した。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのリンゼイ・ロズナー氏は、米金融当局はこの日の統計を過度に解釈することには慎重になるだろうと述べた。
US Job Growth Slows After 2024 Ended on Strong Note
November and December prints were revised up by a combined 100,000
Source: US Bureau of Labor Statistics
米国債
米国債は軒並み下落。雇用統計を受けた軟調は、終盤まで続いた。
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.69% | 5.5 | 1.18% |
米10年債利回り | 4.49% | 5.9 | 1.32% |
米2年債利回り | 4.29% | 7.7 | 1.84% |
米東部時間 | 16時40分 |
雇用統計は強弱混在となり、政策金利はしばらく据え置かれるとの見方が市場では維持された。
金融政策の変化に敏感な2年債利回りは、4.28%を上回った。市場では9月に25bpの利下げがあるとの予想が維持されている。
アムンディの債券・為替戦略ディレクター、パレシュ・ウパダヤ氏は「市場の見通しとしては、3月利下げの窓は完全に閉ざされた」と指摘。「今は一時停止の段階だ。政策不透明感という点を加味すれば、期限なしの一時停止かもしれない」と述べた。
Two-Year Treasury Yields Rise After Employment Data
Source: Bloomberg
外為
トランプ大統領が報復としての相互関税を来週発表すると述べ、ブルームバーグ・ドル指数はこの日の高値に上昇した。それまでは強弱まちまちの雇用統計を受けて、方向感の定まらない展開だった。同統計はFOMCが向こう数カ月は政策金利を据え置くとの観測を裏付けた。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1300.77 | 3.36 | 0.26% |
ドル/円 | ¥151.41 | ¥0.00 | 0.00% |
ユーロ/ドル | $1.0327 | -$0.0056 | -0.54% |
米東部時間 | 16時40分 |
トランプ氏の関税発言を受けて、ブルームバーグ・ドル指数は一時0.4%高となった。相互関税の対象国は特定されていない。
ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、アループ・チャタジー氏は「関税に関してはニュース出尽くしから程遠い。マーケットは覚悟した方が良い」と述べた。
朝方発表された1月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比14万3000人増加(エコノミスト予想17万5000人増)し、前月は30万7000人増に上方修正された。失業率は4%に低下した。
ドルは対円でほぼ変わらず。トランプ大統領は石破茂首相と初めて会談し、日本に対する関税も選択肢の一つだと発言。円は一時1ドル=150円93銭まで上昇した。
ドルは対円で週間ベースで2.5%安。日本の名目賃金が予想以上に強かったほか、日本銀行の当局者からタカ派的なコメントが出たことから、市場が考えているより早期に金利が引き上げられるとの観測が広がった。
今週は円の需要が高水準を維持した。欧州のトレーダーによれば、短期債の相対的な割安感からヘッジファンドはドル・円のエクスポージャーをスイスフラン・円にロールオーバーした。ノックイン・オプションやプットスプレッドに円強気バイアスが見て取れる。
原油
ニューヨーク原油先物相場は反発。週間ベースでは3週連続下落となった。トランプ氏による対中関税引き上げで需要が減退するとの懸念が強まった。
先物の相対力指数(RSI、9日間)が売られ過ぎの領域に入り、最近の下落が行き過ぎだった可能性を示唆した後、この日は上昇して引けた。ただ、米国の対中関税や中国が計画する報復関税は世界の経済成長を減速させる恐れがある。
中国の製油所の稼働率は新型コロナ禍が始まった当時以来の水準に低下し、弱気なセンチメントを助長した。米国によるこれまでの対ロシア制裁で、中国の主要な原油供給源が絶たれたほか、需要も低迷しつつあるようだ。
貿易戦争およびそれが拡大する可能性が意識される中、原油需要が落ち込み、年内に供給過剰になるとの懸念が高まっている。トランプ政権は対イラン制裁強化の第1弾を発表したが、これまで表明していた「最大限の圧力」戦略には至らず、供給混乱が著しく深刻化する可能性は低そうだ。
A/Sグローバル・リスク・マネジメントのチーフアナリスト、アルネ・ローマン・ラスムッセン氏は「原油価格は引き続き圧迫されているが、現行水準近辺で支えられている兆しも見られる」と指摘。「中国の財に対する米国の関税は景気減速をさらに悪化させる可能性があると市場は警戒している」と述べた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物3月限は、前日比39セント(0.6%)高の1バレル=71ドルちょうどで終了。週間では2.1%下落した。ロンドンICEの北海ブレント4月限は前日比0.5%高の74.66ドルで引けた。
金
金スポット相場は小幅反発。一時は1%余り上げ、1オンス=2886.79ドルと最高値を更新した。その後はドルが上昇する中、上げ幅を縮小した。
1月の米雇用統計は金利据え置きの論拠を後押しする内容となり、利息を生まない金にとって理論的に弱材料となった。ただし、金は根強い逃避需要に支えられている。
トランプ氏が同盟国にも敵対国にも関税を課すという警告を実行に移すとの懸念から、金に投資資金が流入。トランプ氏はこの日、同様の関税を課して報復する相互関税の導入計画を来週公表する計画だと語った。同氏が仕掛ける貿易戦争を大きくエスカレートさせる形になる。
TDセキュリティーズの商品戦略世界責任者バート・メレク氏は、中国の中央銀行といった「公的部門による力強い購入継続」も金がこの先上昇するのを大いに支えるはずだと指摘。生命保険会社のポートフォリオに金を組み入れるという中国での提案も支援になると付け加えた。
金スポット価格はニューヨーク時間午後2時8分時点で、前日比6.04ドル(0.2%)高の1オンス=2862.32ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は、同10.90ドル(0.4%)高の2887.60ドルで引けた。
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