アリス・フレンチ
- メタプラネットはホテル運営から昨年業態転換、22年には経営悪化も
- 24年の保有額は1762ビットコイン、25年末は1万ビットコインが目標
暗号資産(仮想通貨)投資を事業の柱に据える米国のマイクロストラテジーの日本版とも言える企業の株価が急騰している。暗号資産の推進派に転じたトランプ米大統領の返り咲きが決まって以降、ビットコインの価格は大きく上昇しており、企業価値の増大を見込む買いが膨らんだためだ。

東京証券取引所スタンダード市場に上場するメタプラネット株は過去1年で46倍(7日時点)となり、東証スタンダード指数採用の1576銘柄中、上昇率は圧倒的な1位。同指数の4.6%高や東証株価指数(TOPIX)の7.3%高を大きく上回り、ブルームバーグのデータでは日本株全体の上昇率で最高、世界の中でもトップ水準にある。
実物資産の不動産王としてならしたトランプ氏は、前回政権時には暗号資産に否定的な立場だったが、ビットコインの戦略備蓄を選挙戦の公約に掲げるなど方針転換した。就任直後には暗号資産政策をホワイトハウスに助言するため、作業部会を設置する行政措置に署名。今後の暗号資産市場の拡大に向け追い風になる可能性がある。
米大統領選挙を受けた昨年11月上旬から上昇傾向を強めたビットコイン価格は、トランプ氏の大統領就任式があった1月20日に10万9241ドルと史上最高値を更新した。その後は同氏の関税政策に対する懸念で反落。トランプ氏が1月に発表した自身とメラニア夫人のミームコインの価格も急騰後、下落に転じている。

ビットコインの支持者として知られる米実業家のマイケル・セイラー氏が創業したマイクロストラテジーは、かつてのソフトウエア企業から現在は巨額のビットコイン保有企業に変貌。会長のセイラー氏によると、2025年はバランスシートに500億ドル(約7兆6000億円)の資産が計上されるという。同社は昨年12月、ナスダック100指数の採用銘柄となった。
メタプラの前身は1999年に音楽CD企業として創業し、その後資本構成の変更を受け2013年からホテル・飲食事業を中心とした企業に転換。ただ、新型コロナウイルス禍で経営が悪化し、22年には債務超過に陥った。翌年に現在の社名に変更すると、24年からはビットコインへの投資・保有企業に再転換し、現在保有するホテルは東京都内の「ロイヤルオーク五反田」1カ所のみだ。
トランプ大統領の就任式にも出席した同社のサイモン・ゲロヴィッチ社長はブルームバーグのインタビューで、ビットコインの上昇について「友好的な規制環境への期待感とトランプ氏の暗号資産推進の姿勢が追い風になっている」と指摘。ここ数年で為替相場が大きく円安に振れたことで、通貨下落のヘッジを求めるビットコイン投資家にとって日本は理想的な市場との見方を示した。
オーストラリアの出身で、米ゴールドマン・サックス・グループの株式派生商品のトレーダーでもあったゲロヴィッチ社長は、ポッドキャストでマイクロストラテジーの存在を耳にしたことが同氏にインスピレーションを与えたと言う。
個人中心の株主構成
メタプラの株主にはマイクロストラテジーに投資するキャピタル・グループも含まれるが、大半は日本の個人投資家で、多くは変動の激しい暗号資産への投資経験が少ない。口座開設年齢が18歳以上の少額投資非課税制度(NISA)の投資枠が昨年1月に拡大されたことは、同社の個人株主を増やすことにもつながった。

東京でロボット工学を専攻する高等専門学校生の萩谷月登さん(18)は1月にNISAでメタプラ株を購入。トランプ氏が選挙中に暗号資産に友好的な政策を推進していることを聞き、興味を持った。ビットコインは「未来に欠かせないものだろう」と判断し、株主総会での記念品にも魅力を感じていると話す。同社は昨年11月、新規口座開設者に対する抽選でのビットコイン贈呈やイベント、ホテルの割引券など株主優待制度の導入を発表した。
英調査会社のストーム・リサーチのアナリスト兼マネジングディレクター、リアノン・ユアート・ホワイト氏はメタプラが成長を持続するために、株主との関わりとコミュニケーションを維持することは重要だと指摘。メタプラ株は「動きの激しい個人投資家に大きく依存している」ため、株主に対し「会社の戦略を正確に理解させる必要があるだろう」とみている。
日本では暗号資産投資で利益を上げた場合、総合課税で最大55%の税金がかかる。これは米国の最高税率を上回り、株式投資の配当金や譲渡益の申告分離課税20.315%と比べても高い。ビットコインに先高観を持つ投資家にとって、メタプラ株は効果的な代替投資先になっている。
メタプラが1月28日に発表した資料によると、昨年末時点の保有額は1762ビットコイン(約1億7100万ドル、約260億円)で、25年末には1万ビットコイン、26年末は2万1000ビットコインまで増やす計画だ。購入資金を調達するため、行使価格修正条項付きの新株予約権2100万株の発行を目指している。
10日に発表された前期(24年12月期)決算は、営業損益が3億5000万円の黒字に転換。営業黒字は7期ぶりだ。ストーム・リサーチのユアート・ホワイト氏は、決算がメタプラ株をさらに押し上げる可能性があると予測する一方、「ビットコイン価格が暴落すれば、同社にとってかなり厳しい状況になるだろう」とも述べた。
関連記事 |
---|
トランプ氏とメラニア夫人のミームコイン、ピークから大幅下落トランプ米大統領、暗号資産とAIに関する行政措置に署名マイクロストラテジー、次の目標はS&P500入り-仮想通貨で資産急増マイクロストラテジー、ビットコイン購入加速-過去最大54億ドルマイクロストラテジーのセイラ-CEO退任-4~6月は11億ドル赤字 |