Rita Nazareth
- 米CPIは予想上回る伸び、年内の米利下げ予想は12月の1回のみに
- 円は昨年12月19日以来の大幅安-米ロ電話会談受けユーロ上昇
12日の米金融市場では、米国債利回りが前日に続いて大幅上昇。この日発表された米消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回る伸びとなり、年内の利下げ余地はほとんどないとの見方が強まった。
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.83% | 8.4 | 1.77% |
米10年債利回り | 4.62% | 9.0 | 1.98% |
米2年債利回り | 4.35% | 7.2 | 1.67% |
米東部時間 | 16時50分 |
米国債は全年限で下落(利回り上昇)。10年債利回りは昨年12月18日以来の大幅上昇となった。短期金融市場では年内の米利下げ観測が後退し、12月の1回のみとなった。
この日の米10年債入札は低調だった。
1月のCPIはインフレが広がりを持って加速したことを示した。総合CPIの前月比は、2023年8月以来の大きな伸びとなった。
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パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長はCPIについて、金融当局はインフレ抑制に向けて大きく進展しているものの、やるべき仕事がまだ残っていることを示していると述べた。下院金融委員会の公聴会で証言を行った。
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プリンシパル・アセット・マネジメントのシーマ・シャー氏はCPIについて、「米金融当局にとっては非常に不快な内容」と指摘。「これが今後数カ月続けば、インフレのリスクは過度に上振れ方向となり、年内の利下げ余地は完全に消える可能性がある」と述べた。
ミラー・タバクのマット・メイリー氏は、この日のCPIと先週の雇用統計、関税を巡る懸念を受け、10年債利回りは昨年9月からのトレンドラインを上回る水準になったと指摘。
「米金融当局は市場が最近まで考えていたよりも短期金利の引き下げに時間をかけるとの懸念が高まるはずだ。また、ベッセント財務長官が掲げる長期債利回り低下も、達成にはより長い時間がかかるとの懸念が生じている」と話した。
株式
米株式市場ではS&P500種株価指数が反落。一時は1.1%安となったが、下げ幅を縮小した。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 6051.97 | -16.53 | -0.27% |
ダウ工業株30種平均 | 44368.56 | -225.09 | -0.50% |
ナスダック総合指数 | 19649.95 | 6.09 | 0.03% |
テスラなど大手テクノロジー株が上昇。メタ・プラットフォームズは18営業日続伸した。ナスダック100指数も一時1.1%下げたが、終値ではプラス圏に浮上した。
ブルーチップ・デーリー・トレンド・リポートのラリー・テンタレリ氏は、CPI統計を受けて米金融政策が直ちに変更されるとは予想していないとした上で、強いインフレ統計があと2、3回続けば、米当局に利上げを促す圧力になり得ると指摘。
「短期的には債券利回り上昇と株式相場のボラティリティー増大を予想する」とし、「米10年債利回りを注視すべきだ。4.80%に接近したり、その水準を上回ったりした場合は、株式にとって短期的な逆風となる可能性がある」と述べた。
ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートのサミーア・サマナ氏は「当社は以前からインフレをリスク要因として懸念しており、リスク市場は上昇する可能性があるものの、過去2年間よりも不安定になるだろうと考えている。調整局面を利用して米国の大型株やエネルギー、金融、工業、通信サービスセクターへの投資を増やすべきだ。10年債利回りが4.5-5%に向かって上昇する局面では、ポートフォリオのデュレーションを長期化し、魅力的な利回りを確保すべきだろう」と述べた。
関連記事:【米CPI統計】FRBは当面「様子見」モードへ-市場関係者の見方
外為
ニューヨーク外国為替市場では、円がドルに対して約1週間ぶりの安値。3日続落と、この1カ月余りで最長の下げ局面となった。トランプ米政権が日本に対しても関税を賦課するとの懸念が高まっていたところに、市場予想より強い米CPIの発表が重なった。
円は一時、前日比1.5%安の1ドル=154円80銭と、昨年12月19日以来の大幅な下げを記録した。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1301.18 | 1.13 | 0.09% |
ドル/円 | ¥154.42 | ¥1.93 | 1.27% |
ユーロ/ドル | $1.0383 | $0.0022 | 0.21% |
米東部時間 | 16時50分 |
ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、アループ・チャタジー氏はCPIについて、「どこからどう見ても強い数字だ。米金融当局を苦しい立場に追い込み、利下げをさらに後ずれさせる」と指摘。
「今年下期に利下げの機会が訪れると考えるが、米経済が完全雇用に近い状態にとどまれば、利下げのタイミングは年末に一段とずれ込む可能性がある」と述べた。
TDセキュリティーズの通貨ストラテジスト、ジャヤティ・バラドワジ氏は「米政策金利が最終的にどの水準になるかを巡っては不透明感が強く、その不確実性の幅は他の主要国・地域よりずっと大きい。それが金利差を拡大させている」と指摘。「円は今週155円を試す可能性がある」と述べた。
ノムラ・インターナショナルの通貨ストラテジスト、宮入祐輔氏(ロンドン在勤)は「米インフレ指標が予想よりずっと強かったため、ドル・円のショートポジションを一段と削減する動きが見られている」と指摘。「日銀の利上げは米国の景気動向次第であり、この日の米CPIデータは日銀にとって前向きな材料となるはずだ」と述べた。
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一方、ドル指数はこの日、CPI発表後の上げを縮小する展開。一時は下落する場面もあった。
トランプ米大統領が、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、ウクライナでの戦争を終結させるための協議を開始することで合意したと述べたことが材料。
関連記事:ウクライナ停戦交渉開始、米ロ首脳が合意-米政策は大きな転換点に
これを受けてユーロは、対ドルで一時0.7%高の1ユーロ=1.0430ドルに上昇した。
クレディ・アグリコルのG10FX戦略責任者、バレンティン・マリノフ氏は「このニュースには明らかに多くの変動要因がある。トランプ大統領がウクライナの和平交渉で結論を急ぎたいと思っていることも知られている」と指摘。「言うまでもなく、これまでのところ協議に加わっていないようにみえるウクライナと欧州の当局者からも話を聞く必要がある」と述べた。
同氏はユーロ相場について、「『平和の配当』とも呼べるもののが追い風になっている。為替市場には、戦争が終われば比較的平穏な時期が到来するとの期待がある。エネルギー価格が下がり、ウクライナが復興に沸き、それがユーロ圏の景気見通しを支える可能性があると市場ではみられている」と解説した。
原油
ニューヨーク原油相場は大幅反落。トランプ米大統領がロシアのプーチン大統領と電話会談したことを明らかにし、ロシア産原油供給に対する制裁が緩む可能性が意識された。
朝方は米CPI統計の発表直後にドルが急伸したため、ドル建てで取引されるコモディティーの投資妙味が低下していた。そこに米ロ首脳がウクライナ停戦協議開始で合意と伝わり、原油相場は一段安となった。
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ロシアとウクライナが停戦で合意すれば、米国による制裁がいつまで続くのかという疑問が浮上する。ロシア原油の供給は制裁による影響が表面化し始めていた。ロシアのサハリン島プラットフォームでは数百万バレル規模の原油積み出しが停滞している。中国向けのタンカーが制裁リストに加えられたことが影響した。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は和平交渉の可能性が芽生えたことで、米国の対ロシア制裁が「短命に終わる、もしくは巻き戻される可能性が前日より高くなった」と述べた。ただ完全な撤回は価格にまだ織り込まれていないという。
原油相場は3週間前から下落傾向にあった。トランプ政権の関税が貿易戦争に発展すれば、原油需要に下押し圧力がかかるとの見方が背景。石油輸出国機構(OPEC)はこの日発表した月報で、米通商政策が相場のボラティリティーを増幅するリスクを指摘。国際エネルギー機関(IEA)は13日に月報を発表する。
米エネルギー情報局(EIA)の週間在庫統計によれば、全米の原油在庫は先週に407万バレル積み上がった。これで在庫増加は3週連続。前日に明らかにされた米石油協会(API)の予想では、900万バレルの増加とされていたため、EIA統計直後の原油先物相場は小幅に下げ幅を縮小した。
潤沢な供給環境はウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)のプロンプトスプレッドでも顕著だ。期先2限月の価格差である同スプレッドは1バレル当たり14セントと、昨年11月以来の水準に縮小した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物3月限は、前日比1.95ドル(2.7%)下げて1バレル=71.37ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント4月限は同2.4%安の75.18ドル。
金
ニューヨーク金相場は過去最高値付近でほぼ変わらず。最新の米経済データとパウエルFRB議長の発言を消化した。
1月の米CPIは予想を上回った。今年はトランプ政権が関税を推進する中、政策金利が複数にわたって引き下げられることはないとの見方が広がった。
パウエルFRB議長は2日目の議会証言。この日は下院で質問に答えた。これに先立ち、トランプ米大統領はソーシャルメディアへの投稿で利下げを要求した。
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今年の金市場は過去最高値の更新を繰り返し、オンス当たり3000ドルをうかがう勢い。鉄鋼・アルミニウムへの関税賦課をはじめ、トランプ大統領が繰り出す攻撃的な通商政策が逃避需要を高めている。
通商と移民に対する米政府のスタンスがインフレ再燃につながり、成長に影響した場合、経済にどのような影響が及ぶのか、トレーダーらは見極めようとしている。パウエル議長は関税政策に関して臆測を述べるのは賢明ではないと、議会証言で述べた。
最近の金相場上昇と並行して、金上場投資信託(ETF)には資金が流入している。ブルームバーグの計算によれば、金ETFの保有高は今年これまでに1.2%増加し、昨年11月以来の水準に達した。
金スポット価格はニューヨーク時間午後3時16分現在、前日比24セント(0.1%未満)安い1オンス=2897.67ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は、同3.90ドル(0.1%)下げて2928.70ドルで引けた。
原題:Nasdaq 100 Erases 1% CPI-Fueled Loss as Bonds Sink: Markets Wrap(抜粋)
Dollar Pauses as Euro Jumps After Trump-Putin Talks: Inside G-10
Treasuries Tumble After Strong CPI, Hold Loss After 10-Year Sale
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