By Poppy Mcpherson, Josh Smith

[11日 ロイター] – トランプ米政権が1月に対外国援助の資金拠出を凍結したことで、アジア諸国の支援団体の間では資金不足を中国の援助で補う動きが散見される。今後この地域で中国の影響力が高まり、米国離れが進む恐れがある。
カンボジア最大の地雷除去団体「カンボジア地雷対策センター(CMAC)」は2月5日、中国が新たに440万ドル(約6億7500万円)の支援を約束したと発表した。これは米国の昨年の支援実績200万ドルを上回る。同センターを率いるヘン・ラタナ氏は、中国の拠出額はこの3年間で倍増したと明かす。
シドニーのローウィー研究所によると、中国は近隣諸国に積極的に投資し、近年は友好的な交流や外交的な関与を通じたソフトパワーの構築に力を入れている。
ただ、中国は西側諸国のような大規模な従来型支援は行っていない。感染症対策や紛争地域での人道支援など、米国の海外開発援助を担う米国際開発局(USAID)のような専門的な支援の経験も乏しい。
トランプ大統領は政府職員の削減と支出抑制の一環として、世界規模で対外援助の大部分を90日間凍結し、USAIDの解体を進めている。凍結解除後に一部の資金拠出は再開される可能性があるとしているが、対象が曖昧なため、アジア各地の支援団体の多くが急遽活動を停止したり、スタッフを解雇したりしている。
最新の政府統計からは、米国の2023年の対東南アジア諸国支援は8億9400万ドル余りに上ったことが分かる。
シンクタンクである外交問題評議会のアナリスト、ジョシュア・カーランツィック氏は、米中が東南アジアで影響力を競う中、トランプ政権の拠出凍結でこの地域の人道支援と人権活動に大きな支障が生じると指摘した。
同氏は「米国がソフトパワーを浪費する一方で全体的な流れが中国寄りになり、米国離れが進むだろう」と推測。中国が援助を増やし、米国が市民社会プログラムへの資金提供から撤退することで「この地域のほぼ全ての国で事実上、民主主義の可能性が潰される」と警鐘を鳴らした。
<米国の代役務まらず>
中国は国内で経済問題を抱えており、世界最大の援助提供国である米国のような寛大な支援を行うことはなさそうだ。むしろ習近平指導部が進める広域経済圏構想「一帯一路」の柱である「大規模なインフラおよび投資プログラム」を重視しそうだと、ランド研究所のアナリスト、デレク・グロスマン氏は見ている。
シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所が昨年実施した東南アジア政策決定者を対象とする年次調査で、中国は初めて米国を僅差で上回り、最も好ましいパートナーに選ばれた。これは東南アジアの一帯一路パートナー諸国の間で、中国寄りの傾向が強まったことに一因があるとされる。
<打撃受ける反体制派>
冷戦時代にUSAID創設を主導したジョン・F・ケネディ大統領は、USAIDは「自由を維持するために米国が影響力を行使できる強力な手段」だと考えていた。ルビオ国務長官のような共和党の国際主義派も、以前はこの考え方に同調していた。
現在、米国の援助凍結で重要な資金を失う組織には、中国国内のウイグル系イスラム教徒を支援する団体、ミャンマーや北朝鮮の反体制派を支援する団体など、中国政府から敵視されている団体も含まれている。
ミャンマーでは、2021年の軍事クーデター後にストライキを行った医療従事者を雇用している「チン人権機構」が、今回の援助凍結でスタッフの30%を解雇した。さらに駐ミャンマー英国大使で、現在は企業の透明性や人権問題を訴える活動を行うビッキー・ボウマン氏によると、USAIDに業務停止命令が出されたことで女性向けのHIV予防プログラム、職業技能訓練、若者向け奨学金制度が中断されている。「今回の援助凍結により、アジアで公正な発展、民主主義、人権のために戦っている人々の間では、米国は信頼できる友人であるという信念が揺らいでいる」という。
ソウルに拠点を置く「北朝鮮人権情報センター」の事務局長ハンナ・ソン氏の話では、韓国では北朝鮮問題で唯一の安定した支援役だった米国からの資金提供が止まった。
中国の人権侵害を監視する非営利団体も「存続の危機」に直面していると、オーストラリア戦略政策研究所の中国専門家、ベサニー・アレン・エブラヒミアン氏はX(旧ツイッター)に投稿。「一部は中国政府による報復を恐れている」として、具体的な団体名は挙げなかった。亡命チベット人コミュニティーを支援する非営利団体「チベット基金」も2月8日に「複数のプログラムが即時の危機に直面している」と発表した。
米戦略国際問題研究所の東南アジア専門家、グレッグ・ポーリング氏は、米国の対外国支援凍結について、カナダやメキシコに対して関税措置を打ち出したことと合わせて、米国のパートナー国にとって今後4年間は米政権の「気まぐれ」につきあわされるという警戒信号だと述べた。