Rita Nazareth
- 円は対ドル1%余り上昇、PPIではPCE項目が良好な内容
- S&P500種は最高値に接近、ハイテク高い-米国債利回り低下
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外国為替市場ではドルが下落し、主要通貨に対して全面安となった。トランプ米大統領は相互関税の賦課に動いたが、すぐには発動されないことが明らかになった。
円は対ドルで1%余り上昇し、1ドル=152円台後半まで買われた。
為替 | 直近値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
ブルームバーグ・ドル指数 | 1291.89 | -9.29 | -0.71% |
ドル/円 | ¥152.80 | -¥1.62 | -1.05% |
ユーロ/ドル | $1.0465 | $0.0082 | 0.79% |
米東部時間 | 16時51分 |
トランプ米大統領は相互関税に関する措置に署名した。貿易関係の再均衡化を図るため、国ごとに新たな課税を提案するよう、通商代表部(USTR)と商務長官に指示した。手続きは広範囲にわたるため、完了には数週間から数カ月を要する可能性がある。
ラトニック商務長官候補は、全ての調査が4月1日までに完了するはずで、その直後にトランプ氏が行動する可能性があると述べた。
関連記事:トランプ大統領、国ごとに相互関税導入の検討指示-4月にも発動 (2)
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この日発表された1月の米生産者物価指数(PPI)では、米金融当局が重視する個人消費支出(PCE)価格指数が想定よりも低調になることが示唆された。PPIは市場予想を上回る伸びを示したが、PCE価格指数に反映される項目はより好ましい内容だった。1月のPCEは2月28日に発表される。
関連記事:米PPI、1月は予想上回る伸び-PCE価格項目には落ち着き (2)
クレディ・アグリコルのG10FX戦略責任者、バレンティン・マリノフ氏は「米金利と米国債利回りはPPI発表直後に上方向に振れたあと、じりじりと低下している」と指摘。従って、「ドルは苦戦している」と付け加えた。
バークレイズ・キャピタルの通貨ストラテジスト、スカイラー・モンゴメリー・コーニング氏は、「ウクライナ紛争解決への期待が高まり、ドルは圧迫されている。しかしきょうは、関税が依然として為替市場を動かす主要な材料であることを再確認した」と述べた。
株式
株式相場は上昇。S&P500種株価指数は最高値に接近し、主要業種別指数が全て値上がりした。
株式 | 終値 | 前営業日比 | 変化率 |
---|---|---|---|
S&P500種株価指数 | 6115.07 | 63.10 | 1.04% |
ダウ工業株30種平均 | 44711.43 | 342.87 | 0.77% |
ナスダック総合指数 | 19945.64 | 295.69 | 1.50% |
大型テクノロジー株が相場をけん引し、ナスダック100指数は1.4%高。ハイテク7社で構成する「マグニフィセント・セブン」に連動するブルームバーグの指数は1.8%上昇した。テスラやエヌビディアの上げが目立った。アップルも高い。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は2月19日に「新たな家族の一員」を発表する計画を明らかにした。メタ・プラットフォームズは19営業日続伸。小型株で構成するラッセル2000指数は1.2%値上がり。
インタラクティブ・ブローカーズのホセ・トレス氏は「トランプ大統領は米国への課税を維持する諸国に対して相互関税を実施することで、世界の競争条件を公平にしようとしている」と指摘。「しかし、こうした話の多くは実現しそうにないと投資家は認識し始めている。同氏の発言は交渉戦術の様相を強めつつある」と述べた。
ナットアライアンス・セキュリティーズのアンドルー・ブレナー氏は「PPIは予想を大きく上回り、前月分は大幅に上方修正されたが、PCEに使われるデータは低調だった」と指摘。「米金融当局が注目するのはPCEだ。従って、実際には数字は良くなっている」と話した。
S&P 500 at Striking Distance From Record High
Source: Bloomberg
PCEの見通しは改善したものの、PPIはインフレ抑制の進展が少なくとも停滞していることを改めて示した。堅調な労働市場と相まって、米金融当局は当面、政策を据え置く可能性が高い。
モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのマネジングディレクター、クリス・ラーキン氏は「PPIは前日の強い消費者物価指数(CPI)を裏付け、失業保険申請件数はまたも低い水準となった。米利下げが近く実施されるとは思えない状況が続いている」と話した。
関連記事:米新規失業保険申請件数、前週比0.7万件減の21.3万件-予想21.6万件
ゴールドマン・サックス・グループのスコット・ルブナー氏によると、米国株式市場に弱気な展開が迫りつつある。市場がますます混み合っており、押し目買いは勢いを失いつつあると、同氏は述べた。
国債
米国債は上昇。この日発表されたPPIは、CPIの上振れを受けた前日の売りが行き過ぎだったことを示唆した。
国債 | 直近値 | 前営業日比(bp) | 変化率 |
---|---|---|---|
米30年債利回り | 4.74% | -9.2 | -1.91% |
米10年債利回り | 4.53% | -9.2 | -1.99% |
米2年債利回り | 4.30% | -5.0 | -1.15% |
米東部時間 | 16時52分 |
将来の成長を巡る懸念から、長期債利回りは一時10ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り低下した。JPモルガン・チェースの金利ストラテジストは、この日のPPI発表前から、2年債の買いを推奨していた。前日の相場下落で利回りが最近のレンジの上限に向かって上昇したためだ。
この日実施された30年債入札(発行額250億ドル)は、最高落札利回りが4.748%と、入札前取引(WI)水準を約1.2bp上回った。需要が予想に届かなかったことを示している。
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのマルチセクター債券投資責任者、リンゼイ・ロズナー氏は「リリーフラリー(買い安心感による相場上昇)だ」と説明。PPIの要素は、米金融当局がインフレ指標として重視するPCE価格指数がCPIよりも抑制された数字になることを示唆すると述べた。
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのグローバル・マーケッツ責任者、ブライアン・ワインスタイン氏は「インフレリスクの織り込みは十分に進んだ」とブルームバーグテレビジョンで発言。「関税の不確実性が成長に与える影響にテーマはシフトすると市場は予測している」と話した。
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原油
ニューヨーク原油相場は小幅続落。昨年12月以来の安値からは一部値を戻した。ロシア産原油の供給リスクが緩和されるとの観測が広がったが、トランプ政権の相互関税発動のタイムラインが不透明なことに相殺された。
ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は下げ渋る展開となり71ドル台で終えた。トランプ米大統領は国別の新たな関税賦課を検討するよう政府に指示したが、発動に数週間もしくは数カ月を要する可能性がある。このため関税が需要を損なう懸念が後退し、トランプ氏は脅しを実行に移さないかもしれないの見方が広がった。
原油先物は一時70.22ドルまで下落した。トランプ氏とロシアのプーチン大統領はウクライナでの戦争終結を目指す協議開始で合意。ロシア大統領府の報道官はウクライナ政府が和平交渉に参加すると確認した。バイデン前大統領がロシアに科した制裁が解除され、同国の石油設備に対するウクライナのドローン(無人機)攻撃が収束すれば、ロシア産原油の供給は活発になるとみられている。
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シティー・インデックスおよびフォレックス・ドット・コムのアナリスト、ファワド・ラザクザダ氏は「問題解決の可能性は戦争関連コストを著しく低下させ得る。特にエネルギーセクターでは顕著だ」とリポートで分析。関税の脅威については「市場ではどちらかというと、単なる交渉材料として受け止められている」と述べた。
トランプ氏が繰り出すさまざまな貿易措置は、3週間前からセンチメントや価格にも悪影響を与えている。石油輸出国機構(OPEC)は12日発表の月報で、米政府の政策が世界市場のボラティリティー(変動性)を高めるリスクがあり、ファンダメンタルズを反映しない需給の不均衡をもたらしかねないと指摘した。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物3月限は、前日比8セント(0.1%)安い1バレル=71.29ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント4月限は同16セント下げて75.02ドル。
金
ニューヨーク金スポット相場は続伸し、過去最高値に接近した。トランプ米大統領が多数の貿易相手国に対する相互関税の検討を政府に命じたことを受け、ドルが下落した。
金スポット価格は一時0.8%上昇し1オンス=2927.17ドルに達し、11日に記録した過去最高値にわずか16ドルに迫った。今年の金相場は最高値更新を繰り返すなど強い上昇基調にあり、3000ドルの節目を試す可能性もある。
金価格を押し上げているのは逃避需要だ。トレーダーらは関税と地政学に対するトランプ政権のスタンスが及ぼす影響を見極めようとしている。
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トランプ氏は12日、ロシアのプーチン大統領との電話会談でウクライナでの戦争を終結させるための交渉開始で合意した。これを受けて外国為替市場ではユーロが上昇し、ドルが圧迫された。
中国をはじめ複数の中央銀行が金準備を拡大している。金を裏付けとする上場投資信託(ETF)の金保有高も増加した。
金スポット価格はニューヨーク時間午後2時50分現在、前日比22.06ドル(0.8%)高い1オンス=2926.10ドル。ニューヨーク商品取引所の金先物4月限は、同16.70ドル(0.6%)上げて2945.40ドルで引けた。
原題:S&P 500 Rises 1% as Dollar Falls on Tariff Delay: Markets Wrap(抜粋)
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