▽世界的絵画の保有で対立、きょうDIC株主総会-価値高騰であつれき
谷口崇子
継続して保有すべきか、それとも売却すべきか。世界的に著名な絵画の取り扱いを巡り、大株主と対立している化学メーカーのDICが27日、都内で定時株主総会を開く。
不動産や株式と比べ、資産としての評価が難しい美術コレクションの保有で企業と株主が対立するケースは珍しい。大株主による現社長の取締役再任反対の呼びかけに対して、他の株主がどのような判断を下すのか注目が集まる。
DICは一般企業でありながら世界的な美術館に匹敵する美術コレクションを保有する異色の存在だ。その審美眼は専門家も認めるところ。2024年6月時点の全保有作品の資産価値は簿価ベースで112億円だが、現在の価値は少なくともその10倍以上とされる。
ところが皮肉なことに保有コレクションの価値が膨らんだことで、株主とのあつれきが生まれた。

DIC株を11%超保有する香港のヘッジファンド、オアシス・マネジメントは、業績や株価が低迷する中、企業価値を最大化する方法で美術品の売却を行うべきだと主張。一括売却などを求めてきたが、一部作品の保有継続を打ち出した池田尚志社長の取締役再任に反対するよう他の株主に呼びかけた。
DICは12日、運営するDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)のコレクションの一部を東京・六本木の国際文化会館に移設し、2030年以降に同所で美術館を開業すると発表。目玉であるマーク・ロスコの「シーグラム壁画」7点を含む戦後アメリカ美術を中心とする作品を中核として残す一方、現有コレクションの4分の3を段階的に売却するとした。
オアシスはDICが保有する作品のうち最も価値の高い作品群だけで1000億ー1500億円の価値があり、その相当部分をロスコ作品が占めるとして、今回の決定は資本の使い方として極めて不適切などと反発。
これに対してDICは美術館の存続を求める署名が5万件超集まったことなどを挙げ、芸術・美術分野への社会貢献活動が社会から高く評価されており、同社のブランドなどの社会的価値を一層向上させていると反論する。
ビジネスと公益性のバランス
そもそも美術品市場は株式市場のような透明性はない。米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、DICが保有する美術品の市場価格を1000億-2600億円と試算しているが、幅があり、また、見込んだ価格で売れる保証もない。
作品が散逸しないよう求めるロスコ遺族の意向や、売却時に公益性への貢献を求める美術館関連団体の指針などへの配慮も求められる。しかし、これらは株主のあずかり知らぬところだ。
美術メディア「美術手帖」の岩渕貞哉総編集長は「ビジネスと公益性のバランスの問題だ。公益性は皆理解しているが、一企業が負うには大き過ぎた」と指摘する。
ロスコを含むコレクションの核となる作品群がDICに残ることについて「日本のアート界にとって非常に喜ばしい」としながらも、DICが社会的活動を通じてどういった経営的な価値を生み出せるのかを株主らに説明できるようになることを期待していると語った。