▽訂正-トランプ米大統領、相互関税を発表:識者はこうみる<ロイター日本語版>2025年4月3日午前 9:05 GMT+9

[3日 ロイター] – トランプ米大統領は2日、貿易相手国に対する相互関税を課すと発表した。全ての輸入品に対し一律10%の関税を課した上で、各国の関税および非関税障壁を考慮し、国・地域別に税率を上乗せする。

国・地域別の関税率は日本が24%、中国が34%、欧州連合(EU)が20%、英国が10%などとなっている。

市場関係者に見方を聞いた。

◎日本経済、潜在成長率下回るリスク高まる
<SBI新生銀行 シニアエコノミスト 森翔太郎氏>日本に対する24%という相互関税の税率は、金融市場の事前想定よりも高い結果になったとみられる。第一印象としては、想定よりも厳しい税率であり、日本経済や生産活動への負の影響は避けられないとみている。交渉次第で10%まで引き下げ余地はありそうだが、非関税障壁を含めた対応がどこまで可能かは不透明だ。

相互関税よりも前に発表された自動車関税などの影響を踏まえ、2025年度の日本経済の成長率を0.1%ポイント下方修正し、プラス0.7%と予測している。仮に24%の相互関税が賦課された場合、自動車以外の幅広い品目で米国向け輸出が減少することによって、追加的に0.3%ポイント程度、GDP(国内総生産)が押し下げられる可能性があるとみている。

これは輸出減少に伴う直接的影響の試算であり、米国経済や世界経済の下振れ、企業や家計の景況感悪化、金融市場の変動次第では日本経済の下振れ幅が一段と大きくなる可能性もあるだろう。25年度の日本経済が潜在成長率を下回るリスクが高まっている。

◎EUより高い税率、世界的に日本株は出遅れに
<みずほ証券 シニアテクニカルアナリスト 三浦豊氏>想定以上に厳しい内容だった。きょうのところは大幅に下落し、日経平均は3万4000円に接近するような動きになるのではないか。全面安の展開になりそうだ。

関税率はすべて一律で10%とされたことから、いずれにしても影響は避けられなかったわけだが、24%という税率は想定外だったと言わざるを得ない。主要国の中で厳しい税率を課せられるのは日本とカナダ。EUの20%よりも日本の税率が高かったことが重要なポイントになる。

これまでも日本株は世界的に株価が出遅れていた。今回、欧州よりも厳しくなったことから、相対的にみて日本が不利であることは明らか。これまでと同様、日本株は出遅れとなる可能性が高い。

目先的には、時間外取引でナスダック先物が4%台の下げにとどまっている。過去の経験則では、この程度の下げであれば、日本株の切り返しは早い。明日には自律反発に向かうのではないか。

◎政策催促の様相、米側には事実認識のギャップも
<三菱UFJアセットマネジメント チーフファンドマネジャー 石金淳氏>厳しめの内容となった。発表を受けて日経平均の先物が下落する一方、金利の低下が進んでおり、景気悪化を織り込んでいるようだ。米長期金利は4%付近で停滞しており、政策催促相場の様相になってきた。

欧州連合(EU)が域内経済を支援する緊急措置を準備しているとの報道もある。経済が悪くなり得る中で、各国が対策を打ち始めていることは株価のサポートになる。先行き、実体経済の指標が悪化して景気懸念が高まるケースは想定されるが、その場合は米連邦準備理事会(FRB)がハト派化せざるを得ず、株価の下値は支えられるとみている。

日本の対米輸出に関して、米政権には事実認識のギャップもうかがえる。発動までの交渉次第では条件が緩和される余地もあるのではないか。あまり弱気になる必要はないとみている。

◎日本経済への影響深刻、日銀追加利上げ時期は後ずれも
<関西みらい銀行 ストラテジスト 石田武氏>規模が大きいことに加えて、全世界一律で関税をかけたことはサプライズだ。日本は欧州連合(EU)と比べても高めに設定されている。自動車産業への依存度が高い日本経済への影響は深刻になりそうだ。

今回の関税発動はインフレ、景気減速それぞれの原因になり得るもので、最終的にどちらに転ぶかは現状では見極めきれない。初期反応としては、米国の景気減速が意識されやすく、米金利に低下圧力がかかりやすい。

円金利も当面低下しやすいとみている。4月30日―5月1日会合での日銀の追加利上げ観測は後退し、6月や7月会合での追加利上げも厳しくなる印象だ。市場のコンセンサスであった半年に1回のペースの利上げのシナリオが揺らぐ可能性がある。

また、円高が一段と進む可能性や日本政府が関税障壁を下げる方向で米製品の関税を下げればインフレ低下要因となり、日銀による利上げの必要性も薄れる。

ターミナルレート(利上げ到達点)への影響は本来ならば乏しいものの、日本の場合は利上げがかなり緩やかで、あと何回利上げを実施できるかが論点となりやすい。このため、現状の1%を超えるターミナルレートの織り込みが自動的に下がる可能性がある。

トランプ米大統領、相互関税を発表:識者はこうみる

◎日本のGDP0.59%押し下げ、農産物で譲歩あり得る
<野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏>日本に対する関税率24%は、想定より悪い最悪に近い数字。日本の国内総生産(GDP)を0.59ポイント押し下げると想定される。自動車関税が上乗せされるのであれば、最悪0.76ポイント程度の押し下げになる。

トランプ政権として各国との交渉材料として関税を打ち出したわけではないので、米国の関税を撤回させるのは容易ではない。日本としては安全保障面での米国との関係もあり、交渉カードがない。

日本は自由貿易の旗手として正面からトランプ政権の関税政策を批判し撤回を働きかけていくべきで、報復措置は取るべきでない。2019年の日米貿易協定は日本の自動車産業の対米輸出を守るために農産品で譲歩した格好で、今後、日米の貿易交渉次第では、日本側が農産品で譲歩する可能性はあり得るだろう。

今回の相互関税で金融市場の動揺、株価下落が長期化すれば、米国内でトランプ政権への批判が高まり、その場合にはトランプ政権として相互関税政策の見直しにつながる可能性がある。

◎想定以上に厳しい、減税議論進展なら株価サポート
<野村アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト(訂正) 石黒英之氏>想定以上に厳しめの内容になった。関税率を一律10%と示したところまでは市場に安堵(あんど)感もあったが、日本は24%と伝わると日経平均の先物は急落した。今回の関税が、各国の報復措置を誘発する可能性もある。その広がり次第では、世界がスタグフレーション的な構図に陥るリスクもある。

市場はひとまずリスクオフになり得るが、今がネガティブな織り込みのマックス(最大限)とみていいだろう。相互関税の発動までに、交渉次第では緩和する可能性もある。

市場では関税への警戒感が先行してきたが、関税は、減税の財源確保の側面もある。減税の議論が進展すれば、株価もサポートされる。米政権がいかに早く、関税から次のステップに移行するかが焦点になる。

◎インフレの影響拡大へ、景気後退の恐れ
<スパルタン・キャピタル・セキュリティーズのチーフ市場エコノミスト、ピーター・カーディロ氏>関税は少し高いと言える。この貿易戦争が政権の望むように終わるかどうかは、見守るしかない。今度は貿易相手国がどう出るか次第だ。 交渉のテーブルに着くのか、それとも報復するのか。

インフレの影響が出ると予想され、それが連邦準備理事会(FRB)にとってジレンマになる。パウエル議長は関税によるインフレは一過性だと述べているが、その影響はさらに悪化し、景気後退に向かう恐れもある。

市場には厳しい圧力がかかっており、売られ過ぎと言えるかもしれない。今後反転する可能性はある。

◎正味プラス、市場は過剰反応
<リフレクション・アセット・マネジメントの最高投資責任者、ジェイソン・ブリットン氏>発表内容は正味プラスだと見ている。ほとんどの場合、今回の関税水準は今後の交渉の出発点に過ぎない。メキシコとカナダは追加関税の対象から外れている。市場は落ち着きを取り戻し、詳細を分析し始め、多様なニュースが混在する最も悪いときだったことに気づくだろう。

私は莫大な現金を抱えている大手テクノロジー企業に注目している。今回の影響でこれらの企業の株価が下落すれば、買いたい。市場は過剰に反応しているだけだ。

◎規模大きく驚き、中国の反応に注目
<サクソバンクのチーフマクロストラテジスト、ジョン・ハーディ氏>発表された相互関税の規模の大きさに驚いた。当然ながら、この関税を引き下げるための交渉が始まるだろう。各国がどのような譲歩をするのか、欧州や日本に対しては防衛上の交渉材料なのか。中国は動かないと予想されるため、中国の反応は非常に興味深い。

発表内容は予想よりもかなりネガティブだ。

今後の安全な資金逃避先としては、日本円は間違いなく、日本への資本還流、米国金利の低下などが考えられる。米国債も安全な逃避先となり得る。特に短期物が注目されるが、長期物でもうまく推移する可能性がある。

共和党が減税を主張し続けるなら、(長期国債が)良い投資先となるかもしれない。だが今のところ、方向性ははっきりしている。そのため、投資先としては最も安全な金と、特に短期国債が挙げられ、長期国債はワイルドカードになるかもしれない。

*野村アセットマネジメントの石黒英之氏の肩書を訂正します。