米国のペンス副大統領の発言が様々な波紋を呼んでいる。きっかけは平昌オリンピックからの帰途、専用機内で行われたワシントン・ポスト誌とのインタビューにあるようだ。この中で同副大統領は北朝鮮との間では「何らかの対話が必要」だと強調。ワシントンポスト誌はこの発言を捉えて米政府が北朝鮮との交渉を検討していることを示唆したと報道した。この報道がきっかけとなって米政府の対北朝鮮政策への疑心暗鬼が広がった。日本政府は多分ペンス発言の真相を確かめたかったのだろう。14日夜に安倍首相がトランプ大統領と19回目の電話会談を行っている。その結果、両首脳は「最大限の圧力をかけ続けることで一致した」とプレス向けに発表された。
この間の動きを眺めながら感じることはメディアの影響の大きさと、言葉尻をとらえた不確かな情報の発信がもたらす疑心暗鬼の拡大だ。メディアが発信した情報、それがスクープであれば反響は一段と大きくなるが、最初に飛びつくのは抜かれた側のメディアだ。最大限の圧力をかけ続けるはずの米国が、水面下で北朝鮮との交渉を模索している。これが事実なら日韓にとどまらず中国やロシア、国連まで含めて世界中でトランプ政権に対する不信感が広がりかねない。そんな大きな方針転換を米国が本当にしているのだろうか。最初に疑心暗鬼に陥ったメディアは事実の確認に動く。かくして未確認の「対話発言」が乱れ飛ぶ。フェイクニュースがフェイクニュースを巻き散らす構造だ。米国が北朝鮮との間で“対話”を模索しているのは事実だろう。ティラーソン国務長官はずうっと対話の必要性を強調している。
当のペンス氏は14日ワシントンで講演し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮を「地球上で最も非道で抑圧的な政権だ」(NHK)と厳しく非難した。そしてNHKは、「軍事的な選択肢も排除せず、日本や韓国と連携しながら圧力を強化していく方針を改めて示しました」(同)と解説する。個人的には北朝鮮の非核化を実現する最も効果的な手段が“最大限の圧力”だと思う。圧力をかけ続けることによって「北朝鮮に交渉のテーブルにつきたいと言わせる」(安倍首相)。ここには一貫し圧力から非核化にいたるプロセスが示されている。この対極にあるのが「対話による問題の平和的な解決」だろう。だがこちらには非核化に向けた明確なプロセスがない。このプロセスを有効なものにするためには、「対話のための対話」でないことを実証的に示す必要がある。だが、対話派の誰もそれを示すことはできない。かくしてペンス氏は言う。「話すことは交渉ではない。互いを理解するためのものだ」(同)。混乱の原因は「対話」と「交渉」の区別がつかないメディアの側にある。