安倍政権が重要法案と位置付けている働き方改革をめぐる国会の論戦が、重箱の隅をつつくような議論に終始している。厚労省が作成したデータに疑義があり、裁量労働制度を拡大したほうが時間外の短縮につながるという政府の隠れた“思惑”が透けて見えてしまった。安倍首相は発言を撤回したが、野党は鬼の首を獲ったかのような戦勝気分に浸っており、肝心の働き方改革の是非は二の次になっている。毎度のことと言えば毎度のことだが、国会における与野党論戦のなんと質の低いことか。この問題の背景にあるのは格差是正のあり方と言っていいだろう。富者と貧者の間にある格差は年々拡大する傾向にある。この問題をどうやって是正していくのか、与野党はもっと問題の根幹に切り込むべきだ。
裁量労働制度はむやみに対象を拡大すればいいというものではないだろう。ホワイトカラーで企画部門に所属する労働者など、仕事と非仕事の区別がつかないようなケースでこの制度を適用するのがもっとも制度としての効率性が高まる。例えば、新製品の開発に取り組む担当者。おそらく寝ても冷めても新製品のことが頭から離れないはずだ。まして世の中はグローバル化が進んでいる。競争相手は国内だけではない。世界中に戦う相手がいて、大袈裟に言えば24時間、365日、新製品の開発に明け暮れている。こういう労働者に一般的な時間外労働を適用するのは、仕事の性質上無理だろう。こういう人には裁量労働制度を適用したほうが仕事は効率化する。要は適用対象をどうするかという議論だ。本人の選択に任せるという自由があってもいいような気がする。
今回の働き方改革法案には裁量労働制度の拡大のほかにも残業規制法案や同一労働・同一賃金といった労働者保護を強化しようという法案も含まれている。裁量労働制の拡大が経営者に配慮したものだとすれば、労使の要望をバランスさせた法案の構成といっていい。足して2で割らないと物事が進まない日本的な労働環境のなせる技でもある。だが、問題はもっと根深いような気がする。トマ・ピケティの「21世紀の資本」を持ち出すまでもなく、資本主義そのものに格差拡大の原因が内在する。そこにグローバル化の波が押し寄せて国内製造基盤の空洞化が始まった。輪をかけたのがデジタル化だ。あらゆる要因が1強多弱化にむけて動き出している。1強多弱化こそが格差を生み出す根源だ。こうした中で日本はどうするのか。データの不備をめぐって重箱の隅を突いっている暇はない。与野党はもっと大局観を研ぎ澄ますべきだ。